理科教師が教える「だるま落とし」必勝法!鍵はニュートン力学にあり
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
昔ながらの民芸品として親しまれている「だるま落とし」。 実はこれ、理科の授業で習う「慣性の法則(かんせいのほうそく)」を体感するのに、これ以上ないほど完璧な教材だということをご存知でしたか?
教科書で例として挙がることはあっても、実際に遊んだ経験がある生徒さんは意外と少ないものです。 単なる子供の遊びと侮るなかれ。そこには、ニュートン力学の真髄が隠されています。もし手元にだるま落としがあれば、ぜひ手に取ってみてください。今回は、物理学の視点から紐解く「だるま落とし必勝法」をご紹介します。
物理学で攻略!最も大切なのは「スピード」と「摩擦」
まずは綺麗に積みましょう。

だるま落としを成功させるために、何よりも重要なこと。それは「迷わず一気に振り切る」ことです。
ここでカギとなるのが「摩擦力」です。 ハンマーで下のコマを叩く瞬間、上のコマとの間には摩擦力が働き、上のコマを引きずり落とそうとします。しかし、叩くスピードが速ければ速いほど、摩擦が働く時間が短くなります。 その結果、上のコマが横に動く力を最小限に抑えられ、その場に留まろうとする「慣性」が勝ち、ストンと綺麗に落ちるのです。

ためらって力が弱くなったり、スピードが遅かったりすると、摩擦が長く働いてしまい、上のコマも一緒に崩れ落ちてしまいます。「えいっ!」と振り抜く勇気こそが、物理的にも正解なのです。

「大きい」ほうが簡単? 質量と慣性の意外な関係
実は、だるま落としには意外なパラドックスがあります。 それは、「大きくて重いセットの方が、実は難易度が低い」ということです。逆に、小さくて軽いプラスチック製などのだるま落としは、プロ級の難しさになります。
なぜでしょうか? ここには「質量が大きいほど、慣性は大きくなる(=動きにくい)」という法則が働いています。 重たい大型トラックが急に止まれないのと同じように、重たいだるまは、止まっている時もその場に留まろうとする力が強く働きます。そのため、多少叩き方が荒くても、重さ(質量)がカバーしてくれて成功しやすいのです。
バランスを制する者がゲームを制す
次に大切なのは、叩く方向です。 できるだけ全体のバランス(重心)が崩れないように、同じ方向から叩き続けず、左右から順番に叩くと成功しやすくなります。
ただ、実際の勝負ではコマのズレなどで重心が刻一刻と変化します。全体がどちらに傾いているかを見極め、重心を真ん中に戻すように叩く方向を調整するのが、上級者のテクニックです。
最大の難関は「最後の一段」にあり
そして、物理学的にもっとも難しい局面は、実はゲームの終盤にやってきます。 段数が減り、上に乗っているだるまの数が少なくなると、どうなるでしょうか?
そう、全体の「質量」が軽くなるため、「慣性」が弱くなってしまうのです。 最初の方は重さのおかげでドッシリと安定していた上の部分も、最後の一段になると非常に軽くなり、少しの衝撃で簡単に吹き飛んでしまいます。 「だるま落としは、最後がもっとも難しい」。これこそが、質量と慣性の法則が教える真実なのです。
理屈はわかっていても、実践するのはなかなか難しいものです。 こちらの動画で私が実際にチャレンジをしているので、ぜひご覧ください。
動画を見ていただくと、初めの全段ある状態と、最後の少なくなった状態とで、難易度が少しずつ上がっていく(挙動が不安定になっていく)のがお分かりいただけると思います。 ぜひ皆さんも、慣性の法則を指先で感じてみてください。
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