100円で学ぶ力学!クレーンゲームが「物理の実験室」に変わる時
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
ゲームセンターの煌びやかな光の中で、アームが景品を持ち上げるあの一瞬。誰もが一度は息を飲んで見守ったことがあるのではないでしょうか?今回は、そんな身近なエンターテインメントを「科学の視点」で切り取った、ある読書体験についてお話しします。

クレーンゲームは「運」ではなく「物理」?
先日、「クレーンゲームで学ぶ物理学」という非常に興味深い本を読みました。

きっかけは子供です。最近クレーンゲームに興味を持ち出し、たまにお小遣いを渡して1回だけ遊ばせているのですが、ある日奇跡が起きました。なんと、100円で人形が2個同時に取れたのです! これには子供も大興奮。「もっとやりたい!」とせがまれるようになりました。
もちろん、お財布の事情もありますから、やるのは「1回だけ」という約束は守らせています。しかし、横で見ていると、大人である私の方が面白いことに気づいてしまったのです。
「あ、今の位置だと重心が右に寄っているから、持ち上げると回転して落ちるな」 「アームの爪の角度的に、摩擦が足りないかもしれない」
ただの遊びだと思っていた箱の中に、重心や摩擦といった、まさに物理の法則が詰まっていることに気づき、自然と「科学の頭」が働き出していました。子供にとっても、遊びながら物理感覚を養う良い機会になっているのかもしれません。
攻略のカギは「重心」と「回転」にあり
そんな時に手にしたのがこの本でした。前半部分では、クレーンゲームの動きを通して、学校で習う力学の基礎が語られています。例えば、アームを動かす操作は、数学で言うところのデカルト座標(X軸・Y軸・Z軸)そのものです。「右に動いて、奥に動く」という単純な操作が、空間座標の理解につながります。
そして、景品をゲットするために最も重要なのが、力のモーメントと重心の関係です。
「力のモーメント」というと難しく聞こえますが、簡単に言えば「物体を回転させる力」のことです。景品の重心(重さの中心)から離れた場所をアームで掴んでしまうと、持ち上げた瞬間にくるりと回って落ちてしまいますよね? あれはまさに、力のモーメントが働いている瞬間なのです。
「どこを狙えば回転させずに持ち上げられるか?」 「逆に、回転させて穴に落とすにはどこを押すべきか?」
こう考えると、クレーンゲームは立派な物理実験室と言えます。日常の遊びと物理学が見事にリンクしており、とても面白く読み進めることができました。
アームの動きに隠れた「電気と磁気」の秘密
本の後半では、視点が変わり「クレーンの仕組み」そのものに迫っていきます。ここがまた、理科好きにはたまらない内容でした。皆さんは、あのアームがどうやって開いたり閉じたりしているかご存知ですか? 実は、アームの操作には電磁石が使われているのです。
電磁石とは、電気を流した時だけ磁石になる装置のこと。コイルに電流を流すと磁場が発生し、その力で鉄心を引き寄せることでアームを動かしています。ここで登場するのが、中学理科でも習う電磁誘導などの知識です。
ボタンを押すと電気が流れ、磁力が生まれ、物理的な動きに変わる。 あのアームの開閉一つとっても、目に見えない電気と磁気のドラマが隠されていたのです。
この本は一般書なので、難しい数式が羅列されているわけではありません。しかし、だからこそ「物理ってこんなに身近なものなんだ」と気づかせてくれます。一般の人々が物理の世界へ足を踏み入れるための入り口として、クレーンゲームは最高の教材なのだと実感しました。
次にゲームセンターに行くときは、アームの動きに「ニュートン」や「ファラデー」の顔がちらつくかもしれませんね。
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