なぜ落ちない?物理法則で組み上げる「無限ブックタワー」の作り方(本の積み方)

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

机の端から本が半分以上もはみ出しているのに、なぜか落ちない…まるで手品のような光景ですが、これにはちゃんとした科学の秘密が隠されています。今日は、物理の法則を使って、絶妙なバランスで本を重ねる「魔法のタワー」の作り方を探求してみましょう。

この挑戦の鍵を握るのは、高校物理で学ぶ「力のモーメント」という考え方です。難しそうに聞こえますが、大丈夫。公園のシーソーを思い浮かべれば、誰でも直感的に理解できます。物のバランスを考えるときに最も重要な「重心」「回転軸」の2つのキーワードを手がかりに、この不思議な現象を解き明かしていきます。

まずは基本!「重心」ってなんだろう?

すべての物体には「重心」があります。これは、その物体の重さが、まるで1点に集まっているかのように振る舞う「重さの中心」のことです。まずは、この重心の感覚を掴むために、本を2冊だけ重ねてみましょう。一番上の本(1冊目)を、落ちるか落ちないかギリギリのところまで、そーっとずらしてみてください。

どうでしょうか?ちょうど本の半分がはみ出したところで、ピタッと止まりませんか? 本の長さをLとすると、重心はちょうど真ん中、つまり端から 1/2L の位置にあります。本が落ちない限界の位置は、この「1冊目の重心」が「下の本(回転軸)の真上」に来る場所なんです。つまり、1/2Lまではみ出しても安定する、というわけですね。

レベルアップ!シーソーと同じ「力のモーメント」で釣り合いを探せ

次に本を3冊に増やしてみましょう。ここからが本番です!1冊目と2冊目をセットで考えて、3冊目の本の上で、落ちないギリギリの場所を探します。

ここで登場するのが「力のモーメント」です。これは「物体を回転させようとする力の働き」のことで、「支点からの距離 × 力の大きさ(重さ)」で計算されます。シーソーで体重が軽い子でも、支点から遠くに座れば重い子と釣り合えるのと同じ原理です。

下の図で、3冊目の本の端(回転軸)から見て、左側に回転させようとする力(2冊目の本の重さ)と、右側に回転させようとする力(1冊目の本の重さ)が釣り合えば、本は落ちません。

この「力のモーメントのつり合い」を数式で解いてみると、ずらすことができる距離xは…、

なんと 1/4L となります。これをどんどん増やしていくと、どうなるでしょうか?

美しい法則を発見!そして驚きの結論へ

次に4冊の本で同様に考えてみましょう。

一番下の本の端を回転軸として、上に乗っている3冊の本との力のモーメントのつり合いを考えます。

この数式を解くと…

今度は 1/6L となりました。

結果を整理してみましょう。一番上から順に、はみ出せる長さは…

1/2L, 1/4L, 1/6L, …

美しい数列になっているのがわかりますか? この法則に従うと、5冊目の本がはみ出せる長さは 1/8L、6冊目なら 1/10L と予測できますね!

これを繰り返していくと、こんなタワーができます。

一番上の本は、一番下の本よりも完全に外側にはみ出しています。そして、ここからが科学の本当に面白いところ。この数列 1/2 + 1/4 + 1/6 + … は、数学の世界で「調和級数」の仲間として知られており、この足し算は無限に大きくなることが証明されています。つまり、理論上は、無限に本を積み重ねれば、どこまでも遠くへはみ出させることができるのです!

さあ、実験してみよう!

理論がわかったら、実際にやってみたくなりますよね。同じ大きさ・重さの本や木片を使うのが成功のコツです。

まずは基本の「半分ずらし」。これは簡単ですね!

5冊に挑戦。計算通りに、下に行くほどずらす長さを短くするのがポイント。ギリギリのラインを狙うのが難しいですが、そこがまた楽しい!

なんとかここまで成功!息を止めてそーっと置く集中力が試されます。

木片でも挑戦してみました。本よりも安定して積み上げやすいかもしれません。

一見すると不思議な現象も、「重心」「力のモーメント」という物理の知識を使えば、その仕組みを解き明かすことができます。バランスの限界を知ることは、物理の法則を体感する絶好のチャンスです。ぜひ、ご家庭にある本や積み木で、この不思議なタワーに挑戦してみてください!

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