「創る」から始まる理科の学び!生徒が本気で挑む「科学グッズ開発」ゼミ

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

「先生、どうしてこの実験器具はこんな形をしているんですか?」

生徒からそう聞かれたら、あなたはどう答えますか?

教科書に載っている実験は、先人たちの知恵と工夫の結晶です。教科書に載っている実験は、その完成されたシステムの上で、知識を伝えることに注力しがちです。しかし、もし生徒たちがその完成品を「使う」側から「創る」側に回ったら、どんな学びが生まれるでしょうか。

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今回は、生徒が自ら理科教材を開発する「科学グッズ開発ゼミ」の実践事例をご紹介します。これは単にものづくりをするだけではありません。既存の教材を深く分析し、その本質を問い直し、新たなアイデアを形にする中で、生徒たちの探究心と創造性が一気に花開いた、そんな活動です。

半年間に及ぶ活動の中で見えてきた、生徒たちの驚くべき成長と、理科の授業がさらに面白くなるヒントを、ぜひ皆さんの先生方にもお伝えしたいと思います。

「科学グッズ開発ゼミ」授業の概要

本ゼミは、長期にわたる探究学習の一環として実施しました。参加したのは教材開発に興味を持つ中学1〜3年生です。週1回の総合的な学習の時間を使って行われる「探究の時間」を活用し、全19回のプログラムに取り組みました。

・目的「全国で使われる教材を開発すること」 教科書に載る!世界を変える!をスローガン

・開発テーマから、その方法、発表までを生徒自身が考える取り組み

・狙い

「教材を作る」→ 学習内容を、主体的に深く学び、知識を再構成する。

「手を動す」→ 課題を発見・解決する力や、他者と協働しながら思考を深める力を育む機会となる。

授業のステップ:

  • テーマ設定と視点探求(第1回〜第6回):
    • 活動内容: 何をテーマにどんな教材を創るか、テーマ設定が最も難しい最初の関門です。ここでは、理科教材がなぜその形なのか、どんな工夫がされているのかを考え、既成の教材を「使用者」ではなく「開発者」の視点で観察するレクチャーを行いました。
    • 準備物: 既存の実験器具(身近なものでOKです)、ワークシート、教材開発会社(ナリカ様)への訪問手配。
  • プロトタイプ作成と試行錯誤(第7回〜第17回):
    • 活動内容: 生徒たちは自らテーマを設定し、班ごとに教材開発を開始します。試作品の作成と改善を繰り返し、アイデアを具体化していく段階です。
    • 準備物: 身近な工作材料(ダンボール、プラスチック板、針金など)、電子工作キット、パソコン、3Dプリンターやレーザーカッターなどがあればさらに可能性が広がります。
  • 発表とフィードバック(第18回、第19回):
    • 活動内容: 開発した教材の特徴や工夫点をスライドと実演で発表します。他の生徒や教員、さらには外部の専門家からのフィードバックを受けることで、さらに教材の質を高めます。最終回では、活動の振り返りとして教材の魅力を紹介する動画を制作しました。
    • 準備物: プロジェクター、発表用スライド、動画編集ソフト、発表会に参加してもらう先生方や保護者の方々への案内。

このプロセスを経て、「光の道筋が見える光学台」や「位置エネルギー測定器」など、生徒ならではの斬新なアイデアが光る8種類のオリジナル教材が完成しました。

理科の知識が「本物」になる瞬間

この活動の真価は、単に「もの」が完成することだけではありません。教材開発を通じて、生徒たちが理科の本質的な知識を自ら再構築していく過程にあります。

  • 生物:アジの内臓模型から学ぶ「情報の構造化」
    アジの内臓模型を制作したグループは、単に模型を作るだけでなく、いかに分かりやすく、正確に内臓の配置や役割を伝えられるかを追求しました。重さにもこだわり、実物を解剖して重さを測って、それらを模型に反映させるなどの工夫をしていきました。彼らは、生物の構造を「機能」「配置」の視点から整理し、最も効率的な情報伝達の方法を模索しました。このプロセスは、知識を単に暗記するのではなく、情報を整理し、再構成する力を育む良い機会となりました。
  • 化学:CMYウォーターキューブから学ぶ「混色の本質」
    「色水の三原色(CMY)の混色を視覚的に理解できる教材」を開発したグループは、なぜ光の三原色(RGB)ではなくCMYなのか、その混色の原理について深く考察しました。単なる知識ではなく、「どうすれば伝えられるか」という視点を通じて、深い理解へとつながったのです。

生徒たちは、教材開発というアウトプットを通じて、理科と数学、技術などの他教科のつながりを意識するようになり、学びが立体的に深まっていく様子が見られました。

教師の役割は「解を示さない伴走者」

この活動を成功させる上で、私たちの役割は大きく変わります。生徒の創造性を最大限に引き出すためには、「答えを教えない」ことが重要です。

  • 「使用者は、どうしたらもっと使いやすくなると思うだろう?」
  • 「この構造にしたら、実験結果にどんな影響が出るかな?」

このように、「使用者目線」「実験結果への影響」といった問いかけを投げかけることで、生徒の思考はさらに深く、多角的に広がります。教員自身も「ゴールを知らない」からこそ、生徒と共に考え、試行錯誤の過程を共有することで、生徒は自律的に問題解決に取り組む力を身につけていきました。

まとめと今後の課題

本ゼミの実践を通じて、生徒たちの「創造性・探究力」「課題発見・解決能力」「コミュニケーション力・協働力」が飛躍的に向上しました。また、株式会社ナリカさんとの連携のように、外部専門家との継続的な交流は、生徒たちの視野を広げ、教材の完成度を高める上で非常に有効でした。

「創る」ことで学ぶ探究活動は、理科の知識を単なる暗記から、深く実感の伴う「本物の学び」へと変える大きな可能性を秘めています。

参考 生徒アンケート結果より

Q1 教材作りで苦労をしたことについて教えてください。
• 作ることは難しく試行錯誤が大切であった。
• 作るためには(作りたい内容を)理解していなければならず、通常の授業より難しく感じた。
• 授業では用意されたものを使うが、自分で作ると「どんな形が望まれているか」から考えなければならず、難しかった。
• オリジナル性を出すこと、みんなで協力してアイデアを出すことが難しかった。
• どんなものを作ろうか決まらなかったり、アイデアが思い浮かばなかった。
• どうすれば正解に近づけるかが日々不透明な状態で、難しかった。
• モノコード制作で音の小ささが問題となり、原因解明や解決策探しに苦労した。
• 自分たちが作りたい形にどう実現させるか考えるのが難しかった。
• 「良い所はなにか?」を考えるのに苦労した。
• 色がしっかり付かず、原因を特定し、改善策を試行錯誤した。
• 内臓の詰め方がわからず、参考資料を探して対応した。
• 集団で作る中で、完成像の共有や意思疎通が必要で苦労した。

Q2 創ることによって得た学びについて教えてください。
• 教科書に載っているものでも、全然改良する余地があるという驚きがありました。
• 自分達で調べ、検証し、まとめる力。屈折や減法混色に対する理解。
• 魚の内臓の作りや色について知識が深まった。
• 理科の授業でサラッとやってる実験でも裏で開発した人のアイデアや工夫が感じられるようになった。
• 音の知識が深まった。
• 色の三原色への理解の深み。
• 教科書にある教材や実験道具に目を向けてみると、一つ一つに実験を円滑にわかりやすく進める工夫や、試行錯誤があることを知り、教科書の実験に対する考え方が変わった。
• 位置エネルギーに対する関心が大きくなった。実験で理論値を出すために様々な対策をすること。
• 作るということは理解していなければできないことなので、普通の授業の内容をより深められると思った。
• 正しい知識がないと教材が作れないので、知識を自ら覚えるようになり、結果として主体的な学びになった。
• 教材開発を通して実験をより深く理解し、新たな視点を得た。

Q3 教師の関わり方について、印象に残っていることがあれば教えてください。
• 結構率直な疑問をぶつけて下さったのでありがたかったです。また、「現場の声」のようなものを聞けたのも良かったと思います。
• 自分の馬鹿げた考えにも真面目に取り組んでくださったので嬉しかったです。
• 答えを知っていないからこその途中の考えが大事だと思うから、たくさんの知識をもっている人の考えを聞けると普通とは違う視点からモノを深めることができたと思う。
• アドバイスから試行錯誤して作ることができた。
• 客観的な視点を持つ、実際に使用する人の立場に近い人の意見で参考になった。
• 自分たちの考えと先生の考えを上手く呑み込んでいってできたのでそこは良かったのかなと思った。
• 非常に接しやすく、先の見えない状態で始めたこともあってとても支えになっていました。
• たまに頂くアドバイスで改善点がはっきりとしたためとてもありがたかった。
• 客観的な視点や実際の先生が使ったときにどう思うかなどの適切なアドバイスをしてくれて良かったと思う。
• 先生からの助言もありつつ、「自分で挑戦する」ということができたので、個人的には良かったと思います。

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