スマホが魔法のチョークに!授業を変える神アプリ「kocri」開発秘話と使い方
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
もし、スマートフォンの光が「魔法のチョーク」に変わるとしたら、教室はどんなにワクワクする場所に変わるでしょうか? 複雑な図形や長い文章を一瞬で黒板に描き出し、先生がチョークを握る時間を「生徒と向き合う時間」に変える。今日は、そんな未来の授業を現実にする、ある画期的なiPhoneアプリのお話です。
魔法のアプリ「kocri」との出会い
このアプリは、あらかじめ用意した画像を、プロジェクターを使って黒板に直接映し出すために作られました。開発したのは、黒板づくりのプロであるサカワさんと、ユニークなアイデアで知られる面白法人カヤックさんです。
「え? それって単なるプレゼンソフトと変わらないじゃない?」
そう思いますよね。ちょっと待ってください! kocriの真のすごさは、黒板に映し出す画像を、ワンタッチで「白黒反転」できることにあるのです。こちらが公式のプロモーション動画です。
まるで光のチョークで描いたかのように、くっきりと図が表示されているのがわかりますか? これが、僕の授業を劇的に変えてくれた「魔法」の正体です。
「板書時間」という、教師のジレンマ
理科の授業では、複雑な図を描くことがよくあります。例えば、物理の「円運動」を教えるとき。
以前の僕は、生徒に作図をさせながら、急いでこの図を黒板に描いていました。しかし、教師が黒板に向かっている時間は、生徒から目を離す時間でもあります。つまずいている子に気づけなかったり、質問にすぐ答えられなかったり…。このジレンマが、僕にとって長年の悩みでした。
人間の脳の「注意」という資源は有限です。板書という作業に多くの注意を割くと、生徒の表情や理解度を読み取るための注意がどうしても散漫になります。この時間を少しでも減らせないかと考え、独自に編み出したのが「白黒反転投影法」でした。
プロジェクターで薄く映した線(下地)の上に、チョークで書き加えていきます。
あらかじめ画像を一つひとつ白黒反転させてスライドを作り、それを黒板に投影するのです。この方法の最大の利点は、予算が全くかからないこと。今ある黒板とプロジェクターをそのまま使えるのです。高価な電子黒板の大きなメリットである「板書時間の短縮」と「リアルタイムでの書き込み」を、アイデア一つで実現できました。
他の先生の実践例。心臓の図を写し、その上に書き込みます。
この方法のおかげで、僕は生徒の机の間を回り、一人ひとりにアドバイスをする時間を確保できるようになりました。
開発者との出会い、そして「kocri」誕生へ
この実践を各地で共有していたある日、サカワの坂和さんから突然ご連絡をいただきました。そして見せていただいたのが、開発中のアプリ「kocri」でした。
それはまさに、僕が手作業でやっていた白黒反転を、もっと楽に、もっと自由にしてくれるソフトでした。感動した僕は、テストユーザーとして「こうしてほしい」という現場の声を伝え、kocriのテストバージョンを特別にインストールさせていただき、自分の授業で使い始めたのです。
iPhoneを三脚に立てて有線で接続。赤い四角の中が投影部分です。
kocriの素晴らしさは、iPhoneで手軽に操作できること。僕は今では、通勤中の電車の中で教材を作っています。Dropboxに入れた画像をスマホで選び、白黒反転させ、スライドの順番を入れ替える。授業の直前まで、手軽に準備ができるようになったのです。
小学生の実験講座にて。波の干渉模様の円はkocriで投影したものです。
この便利なアプリ、現在は無料でインストールして使えます。10月以降は一部機能が制限される課金制になるそうですが、基本的な機能は無料のまま提供されるとのこと。開発費を考えると、本当に太っ腹です。先生なら、ぜひ一つは入れておきたいアプリですよ!
1分でわかる!kocriかんたん使い方マニュアル
それでは、基本的な使い方を説明します。とても簡単なので、ぜひ試してみてください。
1. 新規作成:アプリを立ち上げ、「新規作成」をタップ。日付のフォルダが作られます。
2. 画像を配置:下の「マイファイル」→「Dropbox」などを選び、使いたい画像をタップしてスライドに貼り付けます。
3. 白黒反転!:画像をタップし、下のバーの「設定」をタップ。
完成! あっという間に反転できました。あとはプロジェクターに繋ぐだけです。画像の拡大縮小や移動も、指先で直感的に行えます。
未来の教室は、もう始まっている
テクノロジーは、教師から仕事を奪うものではなく、教師が本来やるべき「生徒と向き合う」という大切な時間を与えてくれる道具です。kocriは、まさにそのことを体現したアプリだと感じています。
この取り組みは新聞などでも取材していただき、少しずつ広まっています。
皆さんも、この「魔法のチョーク」を使って、新しい授業をデザインしてみませんか?面白い使い方を見つけたら、ぜひ教えてくださいね!
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