予測不能!静電気で動くムーアのモーターの驚くべき仕組み
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
静電気が魔法をかける?気まぐれに動く「ムーアのモーター」
冬の乾燥した日にドアノブに触れて「バチッ!」ときたり、セーターを脱いだら髪が逆立ったり…。私たちの身近にあふれる「静電気」。この小さなイタズラ好きが、実はモーターを動かすほどのパワーを秘めていることをご存じでしょうか?
今回ご紹介するのは、その名も「ムーアのモーター」。静電気の力だけで、お皿の上に乗せたボールをコロコロと不思議な軌道で転がすことができる装置です。まるで意思を持っているかのように、時計回りに回ったかと思えば、突然ピタッと止まって逆回転を始めることも。その予測不能な動きは、何度見ても飽きることがありません。
まずは、その奇妙で愛らしい動きを動画でご覧ください。きっと「え、なんで!?」と声が出てしまうはずです。
なぜボールは、まるで生きているかのように動き回るのでしょうか?今日は、このムーアのモーターに隠された科学の魔法を解き明かし、実際に皆さんの手でその魔法を再現する方法をご紹介します!
なぜ動くの?静電気の魔法の仕組み
ムーアのモーターが動く秘密は、静電気の世界の2つの基本的なルール、「クーロン力」と「静電誘導」にあります。難しく聞こえるかもしれませんが、大丈夫。磁石のN極とS極が引き合うように、電気にもプラス(+)とマイナス(ー)があり、「違う種類(+とー)は引き合い、同じ種類(+と+、ーとー)は反発しあう」という単純なルールです。これが「クーロン力」の正体です。
ムーアのモーターでは、下の図のようにお皿の上に貼ったアルミ箔の帯に、交互にプラスとマイナスの静電気を流し込みます。

ここに、電気を通す「導体」のボール(今回は墨汁を塗って導体にしたボール)を置くと、魔法が始まります。
- ボールがプラスの帯に近づくと、ボールの中にあるマイナスの電気が引き寄せられます(これが「静電誘導」)。そして、クーロン力によってボールはプラスの帯に「カチン!」と引き寄せられます。

- プラスの帯に触れた瞬間、ボールはプラスの電気を分けてもらい、自分自身がプラスに帯電します。すると今度は、同じプラス同士で「反発」し、帯から勢いよく蹴り出されます。
- プラスになったボールは、すぐ隣にあるマイナスの帯に強く引き寄せられ、そちらに向かって転がっていきます。

- そして、マイナスの帯に触れると…もうお分かりですね。今度はマイナスに帯電して反発し、またその隣のプラスへ…!
この「引き寄せられ→触れて反発→隣に引き寄せられ」という電気のキャッチボールを永遠に繰り返すことで、ボールは回転し続けるのです。この絶妙なバランスの上で動いているため、ちょっとしたきっかけで回転方向が変わったり、行ったり来たりする、あの気まぐれな動きが生まれるというわけです。
作ってみよう!気まぐれモーターのレシピ
準備するもの
- 絶縁体のお皿:電気が逃げないお皿。今回は100円ショップのレンジ用フタ「レンジラップ」を使いました。

- アルミ箔、セロハンテープ、ハサミ
- スチロール球(直径2cmくらい):軽くて転がりやすいボールです。
- 墨汁、紙やすり、紙コップ、つまようじ:スチロール球を導体に変身させるための道具です。

- 静電気を発生させる装置:今回は静電高圧ゼネコンを使いますが、バンデグラフ発生器などでも代用できます。
作り方
1.まず、スチロール球を「導体」に変身させます。紙やすりで表面に軽く傷をつけ、墨汁が染み込みやすくします。スチロール球は本来電気を通さない「絶縁体」ですが、炭素の粉である墨汁でコーティングすることで、電気を通すボールに生まれ変わるのです。

2.球につまようじを刺し、墨汁を入れた紙コップにドボンとつけます。ムラなく塗れたら、どこかに立てて乾かしましょう。

3.お皿に、細く切ったアルミ箔の帯を放射状に、等間隔で貼り付けます。ポイントは、隣り合うアルミ箔同士が絶対に触れないようにすることです。

4.静電気発生装置のプラスとマイナスの端子を、アルミ箔の帯に「1本おき」につなぎます。乾いた墨汁ボールを中央に置いたら、準備完了!装置のスイッチを入れて、静電気を送り込みましょう!

どうですか?あなたのボールも、不思議なダンスを踊り始めましたか?
もっと楽しむ!科学技術館の巨大モーター
このムーアのモーター、実は東京の科学技術館には、人が操作して遊べる巨大なものが展示されています。ボールが穴に落ちそうになると、手回し発電機で静電気を発生させてボールを助ける、というゲーム感覚で楽しめますよ。

静電気発生マシーン(バンデグラフ)を使うと、こんな面白い実験が!!
バンデグラフを使った面白実験も公開しています。この実験は、広瀬すずさん・鈴木亮平さん・やす子さん・チョコレートプラネッツの長田さん・松尾さん等とテレビ番組にて行った実験も含まれます。詳しくはこちらをどうぞ。

※ なお、静電気発生装置(バンデグラフ)を用いた実験については、必ず専門家の方の立ち合いのもと行ってください。お気をつけてお試しください。また静電気実験に関するご依頼(実験教室やTV監修・出演等)についてはこちらからお願いします。
【特集】やめられなくなる!静電気実験
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