沈むはずの風船が浮いた!?「魔法の水」で解き明かす科学の不思議(名探偵コナン)

桑子研
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

私たちは普段、何気なく水に物を入れていますが、あるものはプカプカと浮かび、あるものはストンと沈んでしまいますよね。この違いは一体どこから来るのでしょうか?実は、この現象の裏には、偉大な科学者アルキメデスが発見した、あるシンプルな原理が隠されているのです。

想像してみてください。あなたがプールに飛び込んだとき、体がフワッと軽くなる感覚。あれこそが「浮力」の正体です。物体が液体の中にあるとき、液体はその物体を押し上げようとする力、つまり浮力を与えます。この浮力の大きさは、物体が押しのけた液体の重さと同じになる、というのがアルキメデスの原理です。

では、具体的に考えてみましょう。ある体積Vの物体に働く重力は、その物体の密度をρとすると、ρVgと表せます(gは重力加速度)。この物体を水(密度ρ’)に完全に沈めたとき、この物体にはたらく浮力は、アルキメデスの原理からρ’Vgとなります。

つまり、物体が水に浮くのか、それとも沈むのかは、この「重力」と「浮力」のバランスで決まるのです。もし物体の密度が水よりも大きければ、重力が浮力に勝って物体は沈みます。逆に物体の密度が水よりも小さければ、浮力が重力に勝って物体は浮き上がる、というわけです。そう、物体が浮くか沈むかの鍵は、まさに「密度差」にあるのです

身近な例で考えてみましょう。私たちの生活に欠かせない「水」は、とても不思議な性質を持っています。ご存知の通り、水が固体になったものが「氷」ですが、普通の物質とは異なり、氷は水よりも密度が小さいのです(体積が大きくなるため、製氷皿の氷が盛り上がることがありますよね)。例えば、0℃の水の密度が0.9998g/cm³であるのに対し、0℃の氷の密度は0.9168g/cm³です。だからこそ、水の中に氷を入れると、氷は水よりも密度が小さいので、プカプカと水面に浮かぶのです。

この「密度差」の原理を応用すると、まるで魔法のような現象を目の当たりにすることができます。例えば、こちらの動画をご覧ください。

この動画では、水槽の底に沈んでいた水風船が、ある「魔法の水」を少しずつ加えることで、あら不思議!フワフワと浮き上がってくる様子が映し出されています。

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なぜこのようなことが起こるのでしょうか?実は、この「魔法の水」の正体は、大量の砂糖が溶けた「砂糖水」なのです。砂糖水は、ただの水よりも密度が高い液体です。そのため、水槽の中の液体の密度が徐々に大きくなり、最終的に水風船の密度よりも高くなったことで、水風船は浮き上がったというわけです。

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この実験は、身近な「卵」を使っても行うことができます。卵を使った実験の良い点は、より身近に感じられること。一方、水風船を使った実験の良い点は、初めの状態で水風船の内側と外側の液体の密度がほぼ同じであることが分かりやすく、密度差をつけることで物体が浮くという原理がより明確に理解できる点です。私は生徒たちの前でこの実験をよく見せるのですが、そのたびに大きな歓声が上がり、手応えを感じる素晴らしい実験の一つだと感じています。究極的には、あの「死海」に行って、実際に体が浮く体験をするのが一番の理解に繋がるかもしれませんね!

さて、浮力を使ったトリックは、フィクションの世界にも登場します。人気漫画『名探偵コナン』にも、浮力を利用した興味深いトリックが描かれています(コミックス82巻〜83巻)。

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コナンがある山荘で遭遇した殺人事件。その中で、お風呂の水に沈んでいたトマトが、あることをすると瞬間的に浮き上がってくる、という現象がありました。漫画の中では入浴剤が使われていましたが、トリックの解説では「塩」が使われていました。つまり、トマトと周りの液体の間に密度差を作り、周りの液体の密度を高くすることで、物体が浮き上がった、というわけです。

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引用:『名探偵コナン』(小学館)青山剛昌 83巻より

このように、私たちの身の回りには、科学の不思議が隠されています。密度と浮力の関係を理解することで、日常の「なぜ?」が「なるほど!」に変わるはずです。ぜひ、皆さんも身近なもので実験して、科学の面白さを体験してみてくださいね!

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