「事故ゼロ」を目指せ!鉄と硫黄の化合実験を“すごろく”で安全に学ぶ

桑子研
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

理科教員として、私たちは常に生徒の安全を第一に考えています。しかし、残念ながら毎年のように起きてしまうのが、鉄と硫黄の化合実験における事故です。救急車が学校に駆けつける様子などがニュースで報じられるたび、理科教員として胸が締め付けられるような思いをされる先生方も多いのではないでしょうか。注意点を口頭で何度も説明しているにもかかわらず、なぜかイレギュラーな行動をしてしまうのが、時に好奇心旺盛な中学生というものかもしれません。それもそのはず多くの注意点があるためです。こちらに安全に実験するための注意点をまとめました。

全国で事故続出。それでも教えたい「鉄と硫黄の硫化」実験の13ポイント(硫化水素の発生)中2理科

そこで今回ご紹介したいのが、千葉大学国際未来教育基幹の特任助教、森重比奈先生が開発された、その名も「鉄と硫黄の化合実験すごろく」です。これは、ただ手順を暗記させるだけでなく、遊びを通して自然と実験の危険性を理解し、安全な行動が身につくようにデザインされた画期的な教材です。森重先生と協力をしながら、開発のお手伝いをしました。

ダウンロードはこちらの公式HPから

この教材の素晴らしい点は、子どもたちがゲーム感覚で楽しみながら、鉄と硫黄の実験における重要な注意点や、万が一の事故発生時の対応方法を学ぶことができる点にあります。口頭での説明だけでは伝わりにくい「なぜこの手順が大切なのか」を、ゲームのイベントや問題として体験することで、生徒たちの記憶に強く刻みつけることができます。

このすごろくを、実験に取り組む前の復習や導入として活用すれば、生徒たちの安全意識をぐっと高めることができるはずです。今回は、この「鉄と硫黄の化合実験すごろく」の活用方法と、授業準備のポイントについて詳しくご紹介します。

「鉄と硫黄の化合実験すごろく」とは?

この教材は、「鉄と硫黄の化合実験」を安全に行うために、正しい手順、安全確認、トラブル対応を楽しく学べる学習ゲームです。生徒たちは3〜4人のグループに分かれ、サイコロを振ってすごろく形式でゲームを進めます。

1. 準備物リスト

  • 必須の準備物:
    • 6面サイコロ(1つ)
    • プレイヤー用コマ(各自1つ)
    • すごろくボード
    • 安全確認カード類(ダウンロードして印刷)
      • ストップ!ポイント!カード(①〜⑤各1枚)
      • 全員ストップ!ポイント!カード(4枚)
      • ストップ!アクシデント発生!カード(①〜④各4枚)
      • 1位ボーナスカード(1枚)
      • 2位ボーナスカード(1枚)

        事前に切り分けておきましょう。
  • 入手先:

2. ゲームの目的とルール

  • 目的: 鉄と硫黄の化合実験における正しい手順や安全確認、トラブル時の対応を、ゲームを通して楽しく身につけること。
  • 基本ルール:
    • 通常のすごろくと同じように、サイコロの出た目の数だけ進みます。
    • 止まったマスに応じて、安全確認問題やアクシデント対応問題に挑戦します。
    • ゴールした時点で、獲得したポイントの多いプレイヤーが勝利となります。

3. マスの種類とイベント

このすごろくには、実験の様々な局面を想定した工夫が凝らされています。

  • ストップ!ポイント!マス:
    • 実験手順や安全確認に関する知識問題が出題されます。正解するとポイントがもらえ、そのマスは通常マスに変わります。
  • 全員ストップ!ポイント!マス:
    • 全員が止まり、実験全体の安全確認に関する問題に挑戦します。協力して正解を導き出すことで、グループ全体の理解を深めます。
  • ストップ!アクシデント!マス:
    • 「試験管が割れた!」「ガスバーナーの火が消えた!」といった、万が一のトラブル時の対応を考える問題に挑戦します。このマスが、生徒たちの安全意識を最も高めるポイントと言えるでしょう。
  • ストップ!サイコロ!マス:
    • ヒューマンエラーを想定した分岐が発生します。例えば、「サイコロを落とした」などのハプニングを通して、生徒の注意力を高めます。

授業での活用方法と手順(モデルケース)

このすごろくは、実験の「前」に活用するのが最も効果的です。

1. 授業の手順(全20〜25分程度)

  1. 導入(5分):
    • まず、教科書などを用いて鉄と硫黄の化合実験の基本的な手順や注意事項を全体で確認します。この際、「なぜこの手順を踏むのか」「なぜこの注意が必要なのか」という理由にも軽く触れておきましょう。
  2. ゲーム開始(15分):
    • 生徒を3〜4人のグループに分け、すごろくボードとカード類、コマ、サイコロを配布します。
    • ゲームのルールを簡単に説明し、プレイ開始。教師は各グループを回り、ゲームが円滑に進むようにサポートします。
    • 生徒たちは、ゲームを通して自然と実験手順や安全対策を復習することになります。
  3. 振り返り・まとめ(5分):
    • ゲーム終了後、各グループの「アクシデント対応」問題での回答や、気づいた点について発表させます。
    • 教師が、改めて実験の重要ポイントと安全対策をまとめ、生徒全員で共通認識を形成します。

2. 授業成功のポイント

  • 事前準備: 事前に森重先生のホームページからすごろくボードとカード類をダウンロードし、カラー印刷してラミネート加工しておくと、繰り返し使えて便利です。
  • 「なぜ?」を問いかける: ゲーム中、生徒が問題に答える際は、単に正解か不正解かを判断するだけでなく、「なぜそれが正しい(または間違い)なのか?」を問いかけるように促しましょう。
  • 競争心を刺激: 最後に勝利グループを表彰するなど、少しの競争要素を加えることで、生徒のモチベーションを高めることができます。
  • 実験との接続: ゲームの後に実際の実験に取り組むことで、生徒たちはゲームで学んだ内容を強く意識し、より安全に、そして意欲的に実験に臨むことができます。

さいごに

この「鉄と硫黄の化合実験すごろく」は、実験を安全に行うための「保険」としてだけでなく、生徒の主体性を引き出し、学びをゲーム化するという点でも非常に優れた教材です。毎年恒例の実験だからこそ、こうした新しいアプローチを取り入れてみることで、生徒たちの安全意識を一段と高められるはずです。ぜひ、皆さんの教室でもこのユニークなすごろくを活用して、楽しく、そして安全に実験を行ってみてください。

また森重先生は、安全間違い探しなどの安全教育に関する教材について開発されています。こちらの間違い探しも私も毎年授業でやっていますが、生徒が主体的に探そうとするのでとても優れた教材であると思います。公式HPからダウンロードできます。

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