ピッチャーマウンドはなぜ高い?高さに隠された科学の秘密!

桑子研
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皆さんは、甲子園など野球中継を観戦していて、ふとピッチャーマウンドの高さについて考えたことはありますか? キャッチャーが座っているホームベースよりも、ピッチャーが立つマウンドは、およそ25cmも高い位置にあります。たかが25cm、されど25cm。このわずかな高低差に、実はボールの軌道物理の法則が隠されているんです。

ピッチャーからキャッチャーまでの距離は、約18.44メートル。プロ野球選手の速球が時速130kmだとすると、ボールがピッチャーの手を離れてからキャッチャーのミットに収まるまでにかかる時間は、なんと約0.5秒という驚きの短さです。まさに瞬きする間もなく、ボールはバッターの前を通過していくわけですね。

この「0.5秒」という極めて短い時間に、ボールには地球の引力が常に働き続けています。もし、ピッチャーが完全に水平にボールを投げたとしたら、この0.5秒の間に、ボールはどれくらい落下すると思いますか?

「水平投射」で考えるボールの軌道

ここで登場するのが、物理で学ぶ「水平投射」という考え方です。水平投射とは、物体を水平方向に投げ出したときに、重力によってどれだけ落下するかを考えるものです。

空気抵抗を無視して計算すると、ボールがピッチャーの手を離れてからキャッチャーに届くまでの約0.5秒間に、ボールは約1.2メートルも自由落下する計算になります。

ここで、 は重力加速度(約)、 は時間()です。

つまり、ピッチャーがもしキャッチャーと同じ高さから水平に投げたら、ボールはキャッチャーに届くまでに約1.2メートルも落ちてしまうのです。これでは、とんでもなく高い位置から投げないと、ストライクゾーンを通過させることはできません。

マウンド25cmの秘密:バッターの「胸元」を通る絶妙な高さ

ここで、ピッチャーマウンドの約25cm(0.25メートル)という高さが重要な意味を持ってきます。

ピッチャーがこの25cm高いマウンドから水平にボールを投げると、キャッチャーに届くまでの約0.5秒間の落下距離は、実質的に次のようになります。

つまり、ピッチャーの手を離れたボールは、最終的にキャッチャーに届くまでに約0.95メートル(約95cm)ほど落下する計算になるのです。この約95cmという高さ、実はピッチャーが腕を頭の上に伸ばしたときの、およそ胸元の高さとほぼ一致します。

つまり、マウンドの高さが約25cmあるおかげで、ピッチャーは最も速く投げられるとされる水平投射に近い形でボールを投げても、そのボールがちょうどバッターの胸元あたりのストライクゾーンを通過するように設計されている、というわけです。

なぜ「水平」が重要なのか?

ピッチャーにとって、ボールを最も速く投げるには、最も効率よく力を伝える必要があります。それは多くの場合、重力の影響を最小限に抑え、腕の振りや体の回転のエネルギーを最もロスなくボールに伝えられる「水平に近い投げ方」だと考えられます。

もしマウンドが低すぎたり、キャッチャーと同じ高さだったら、ピッチャーはストライクゾーンに到達させるために、ボールを上向きに投げ上げる必要が出てきます。

身近なスポーツに潜む物理の奥深さ

ピッチャーマウンドの高さは、単なるルール上の規定ではなく、物理の法則に基づいた、緻密な設計であることがお分かりいただけたでしょうか。野球というスポーツの中には、空気抵抗、マグヌス効果(ボールの回転による変化)、そして今回取り上げた放物運動や重力など、様々な物理の原理が隠されています。

生徒たちに「なぜマウンドはこんな高さなの?」と問いかけてみれば、野球好きの生徒はもちろん、そうでない生徒も、身近な現象に潜む科学の面白さに気づくきっかけになるかもしれません。ぜひ、授業でこの話を活用してみてくださいね!

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