「送電ロスについて考える」授業を行ってみました

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ケン博士
サイエンストレーナーの桑子研です。このサイトで科学を一緒に楽しみましょう。

中学3年生の最後の授業で、「送電について考える」授業を行いました。どんな授業かというと、回路を組んでその時の電力の減り方から、送電ロスの対策について考えるという授業です。

まずはとにかく机の上に並列回路を組み立ててもらいました。久しぶりなのか、並列回路を組み立てることが難しい生徒も見られました。組んだのは皆が同じになるように、以下の回路を示して組んでもらいました。

注意点として、豆電球と電池の電圧をチェックして、全て同じものを用意するとよかったなと思いました。次回はそうしようと思います。

続いて、「Phet直流回路キット」にて、私が演じで並列回路を組んでみました。画面上で、それぞれの電圧などを調べていくと、次のようになりました。

本来ならば、Phetを実際に触ってみて、電圧と電流を生徒に計らせて埋めたいところであったのですが、時間短縮の意味もあり、目の前でやってみることで終わりました。逆にこれらを観察させることで、この後に、実際に生徒に測定をしてもらうことを伝えて、電池の周りの電流と電圧とはどこなのか、電流計の使い方と電圧計の使い方を確認させておくことにつながりました。

その後、目の前で組んだ実際の回路に対して同じように電流と電圧を測定してもらいました。すると次のような結果になりました(ある班の一例です)

このように実際の回路でやってみると、供給電力と消費電力に差が出ます。ここで送電ロスの割合について計算をしてみると、

送電ロスの割合 ④(送電ロスの量)➗①(供給電力)×100=( 18 )%

 このように送電ロスが実際の回路だと出てきます。ここで送電ロスの問題について生徒に伝えました。実はこの送電ロスですが、

2016年に各国で発生した電力ロスはインドで19%、ブラジルでは16%でしたが、ハイチ、イラク、コンゴ共和国といった貧困国では50%を超えていました。これはつまり、発電された電力のうち各家庭に届く割合が50%に満たず、半分以上が送電の途中で失われていたということを意味します。

引用:貧困国では発電された電力の半分が「送電網」の途中で失われ大量の二酸化炭素が無駄に排出されている(訪問日2024/02/19)

引用:We calculated emissions due to electricity loss on the power grid(訪問日2024/02/19)

というようなニュースにあるように、大きな社会問題になっています。

そして、

近年では地球温暖化を食い止めるため、世界中で二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの削減が叫ばれています。しかし、多くの人々が化石燃料の利用停止や再生可能エネルギーによる発電について言及する一方で、「送電網の改善」について訴える人はほとんどいません。新たな研究では、「特に送電網に焦点を当てた電力部門の無駄を削減することで、大量の二酸化炭素排出量を削減できる」ことが明らかとなりました。

という問題があります。

この過程では電力の移動に伴って送電網の各所で熱が発生し、電気エネルギーの一部が熱エネルギーとして失われているとのこと。

中略

研究チームの計算によると、世界中で送電中に失われた電力を作り出すために必要な二酸化炭素排出量は、年間でおよそ10億トンに上るとのこと。この数値は世界中の全大型トラックが1年間で排出する二酸化炭素排出量や、化学産業全体が1年間で排出する二酸化炭素排出量に匹敵するそうです。

そこで生徒に今回の授業の課題を提示しました。

送電ロスを減らすための対策を考えて、解決策を提案しよう。

豆電球を家庭に、電池を発電所として、見てみることを生徒に提案をしました。

このようなことから、首相から、「送電ロスを減らすことができないか」という依頼が来たという設定にして、各班を一つの会社として、送電ロスを減らす取り組みを行うように指示を出しました。

シミュレーションではおこらなかったこの送電ロスの問題ですが、どのようにすれば改善することができるのでしょうか。

まずは個人で解決策について考えてもらいます(マイディスカバリー)。回路のどこに問題点があるのかをさまざまに出してもらいました(3分)。すると次のような意見が出てきました。

とにかく導線を取り除く

他の生徒とここで意見交換をして、自分の班ではどのような対策を練るかを考えさせます(ユアディスカバリー)

ここで実際に用意した道具を生徒に示して、班で実際にやってみる解決策を検討しながらやってもらいました。用意したのはこれらの道具です。

アルミホイル(丸めると導線のようになる)、セロテープ、ハサミ、エナメル線(直径0.5・0.3など色々なもの)・ペンチ、やすり、色々な長さのミノムシ導線です。

実際に生徒のやっていた工夫を上げていきます。

導線の長さを短くする。

導線の材質を変えて、できるだけ短くする(アルミ箔に変更)

回路をできるだけ短くする・ターミナルを削除する。

導線を新品なものに変えてみる。

豆電球ソケットに原因があると考えて、手づくりを試みる(アルミ箔)

導線をエナメル線で自分で作りなおす

というような班が出てきました。

これらの中から、一番送電ロスが少なかった回路を作った班に賞を与えます。そしてどんな工夫をしたかについて、発表をしてもらいます。この工夫の共有を図ることで、さらなる自分の発見へと繋げていくというのがポイントです(アワディスカバリー)。

最後は社会問題について、これらのモデルを使ってどうすればこのような非効率な送電線(網)を改善できるのかを提案していくという流れにしました。

授業後のインタビューを3人の生徒から取りました。

なおこの班は話し合いが活発に行われながら、色々としく錯誤をしている班でした。全員が同じ班員のメンバーです。作った回路はこのような感じで、アルミ箔を太くして導線の代わりとするというアイデアでした。

Kさんへのインタビュー

桑子 実社会に戻した時に、設置場所が高い場所がいいと書かれているけど、どういうことですか?
Kさん えっとなんか導線の冷却に繋がるんですけど、具体的にその実際に動線をずっと冷却させることって、結構不可能ではあるので冷気があれば、結局その冷気でその発熱した温度を少しでも下げることができるので。 なので、なるべく涼しい場所であれば、あのその発熱を抑えられるのかなって。
高いところの方が冷えるかなと思って。

桑子 自分自身でだしたアイデアは何ですか?
私が考えたのは、太くしようというアイデアで自分で提案をしました。同じようなアイデアを皆が持っていました。

Kさん 実際にやってみて気がついたことは何ですか?
・隙間ができるのがよくないなっていうのが分かった。アルミ箔で導線を作る時にアルミ箔の隙間から電流が逃げるのかなって。
隙間をどれだけ減らすかという面でテープを貼ったりした。またテープを貼ったけど、それが電流の妨げにもなってい流ことにも気がついた。
・あのK君が言っていた、その道具の正確性を確認するということは気がつかなかった。そもそもこの道具は正確な値を出すことができるのかっていうのをちゃんと調べてから、あの、使った方が確かにより良い数値が出るのかなって思ったんで。
・アルミ箔だと隙間があるので、(電流が)そこから出ていってしまうのかなと。なので隙間をなくすことが大切だということに気がつきました。

桑子 なぜアルミ箔で作った導線を太くしようと思ったの?

Kさん 授業で抵抗は太いと小さくなるということを聞いていたこともあって。あとは導線の距離が長くない方がいいかなって。とにかく短くしようという意図でターミナルをとったりしてみました。

桑子 一斉授業と比べるとどうでしたか?

Kさん 一斉授業よりはこういう授業の方がわかりやすい。 賞状があるのも良かった。

桑子 班活動を円滑に行うために、何か意識していることはあった?

Kさん シンプルに優勝をしたいねって声かけを行っていました。盛り上がっていた。自分たちで自由に条件替えをしていいっていうのが楽しかった。
T君
桑子 自分で思いついたアイデアについて教えてください。

Tくん 長さを短くするということでした。長さを短くしたらなんかその分、ロスが減るのかなと思って。

桑子 ターミナルについて気になっているみたいだったけど、これは何で?

Tくん 導線がこうあって、それをつないでるじゃないですか。その繋いでる部分がうまくつなげられていないと、そこでロスが起きるのかなと。

桑子 素材を銅にしたいと書かれているけど、実際に選んだのがアルミのアルミ箔だったのはなぜ?

Tくん 調べたら銅の方が抵抗は低いってことだったんですけど、アルミの方が作りやすくて、それであの太くすれば抵抗は低くなるんじゃないかなって。

桑子 なるほど、じゃあ素材として加工のしやすさとしてアルミの方が良かったという方がいいけどアルミの方が今回だと作りやすかったってことか。班活動でやってみて気がついたことってある?

Tくん セロテープで固定をしていったんだけど、セロテープが電気を流さなかったということもあり、うまくいかずセロテープを結局は取ることにしました。接触よくするために、何かペンチで先を曲げて、固定すればいのではないか。アルミの先をこう曲げて。

桑子 太くしようというのは、どうしてそうしようと思った?

Tくん 理科1の授業の中で抵抗について太くすると小さくなるってやっていたじゃないですか。 そこから太くって。 初めから太くしようという意見はあったのだけど、やる中でそれを実現していったみたいな。

桑子 授業として、指示が少なく自由度が高かったけどどう?

Tくん なんか、結構面白かったと思います。試行錯誤して〜みたいな。 自分がやろうかな〜と思ったことができたかな。自分で考えてできるというのは、やりがいがあるなって思った。競い合えて面白かった。

Kさん
桑子 自分で考えたアイデアってなんだったの?
Kさん 抵抗がなるべく小さい方がいいのではないかなと思って。太く導線を短くするのがいいのかなって思って。

桑子 実際にやってみる中での気づきってあった?

Kさん 実際にアルミを使ってやってみたらイメージしたような感じにはできなくて。なんかもっと短くやれるかなって思ったんですけど。やっぱり距離的にも難しいなっていうのがあって、限界があるなって思った。

桑子 班活動を活発にするための声掛けとか何か工夫した?

Kさん 自分が何したらいいかわからない時は、こういうことをやった方がいいかなとか声をかけたりしていました。

桑子 自由度が高い授業だったけど、何か感想を教えてください。

Kさん なんか自由度が高い分何ができるかっていうのが結構難しかった。色々な班をキョロキョロみたりしながらやっていました。
最終的には、自分がやりたいと思ったことができました。

その他アンケート結果についてはこちらにまとめました。

班活動を活発にするためにあなたが意識したことや、実際に班に貢献した言葉掛けや行動について、具体的に書いてください。

もっとビーカーを多くしたらいいんじゃない?
もっとやってみようよは多く使った。もしかしたら結果が変わるかもしれないから。
なんでも一度やってみることが大切だと思いました。
いろいろ試してみる。
班の人で指示を出してくれる人がいたため、自分はその物をなるべく早く用意できるように努めたり、実験はやっぱり成功して終わりたいから少しでもこの行動合っているかなと思ったら相談するようにした。
導線をどのようにすればいいか、接続がしっかりしていないときに工夫した
自分は理科が苦手なので足を引っ張らないようにわからないことはきいてみたり、何をやったら良いかわからないときはこれでいい?と確認を取ってからやるようにしてました。
自然に「こうすれば良くなるのではないか」という意見が出ました。
提案する時に根拠になるものをしっかり説明した
自分たちがする選択肢をできるだけ増やすために自分が思いついたアイデアは現実味がなくても、班のメンバーにすぐに伝えました。導線は短く、太くするべきという考えを班のメンバーに伝えました。
作業を分担して回路を作った。
自分で進めようとせずに、周りの人の意見を聞きながら行動した。

全体を通して、感想を書いてください。(自分が変化したことなど含む)

自分で考えて実行してその実験が成功する喜びや楽しみがしれた良かったです。
とても面白く、学びやすい授業で競い合うのも面白いなと思いました。また機会があったらやりたいです。
いつもの実験よりも積極的に行うことができました。
実験をしているうちにどんどん違う案が浮かんできて、いつもの授業と違う雰囲気で取り組めて楽しかった。
今回の実験では初めてこういう自由な実験だったからはじめは困ったりもしたけれど、班の人と協力して実験が成功に終われるようにできることはなるべく行って、より値がいい方向にいくように実験中にも色々案を出したりして行ったりしたので楽しかった。
優秀な成績を残したグループが作ったものを見られなかったので、自分の班のものではないものも見てみたいと思った。
最後1位になったところと導線を短く太くするということは一緒だったけどやり方が違うだけでこんなに結果が違くなるんだと思ったし、思ってたより短く太くする必要はなくて比較の時の話でしかないんだと少し悲しくなった
「自分で工夫する」ということで、やりがいを感じて取り組むことができました。また、チーム対抗にすることによって競争心が生まれました。
電力会社という例えが面白かったです。苦手なはずの理科もこの授業だと、そこまで苦手意識なく取り組めた
自分たちのアイデアを実際に試すことができてすごく面白かったです。
前からこの話題は興味があったので、今回実際にその問題を解決するようなことが実験できてよかった。もっと大掛かりな回路や規模、時間でやれれば更に新しいアイデアができると思った。
回路の抵抗を減らすという考えは元からあったけど、違う物質に変えるという考えはなかった。

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