なぜ磁石で止まる? コイルのブランコ実験で解き明かす「変化がキライな電気」の正体

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

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触れてもいないのに、金属の動きがピタッと止まる…。まるでSF映画や魔法のような現象が、実はご家庭にあるもので簡単に体験できてしまうとしたら、ワクワクしませんか?今日は家庭ですぐにできて、驚くこと間違い無し!の実験レシピをご紹介します。

この現象の鍵を握るのが「うず電流」です。あまり聞き慣れないかもしれませんが、実はとても身近なところで私たちの生活を支えてくれています。例えば、新幹線や一部の電車、遊園地のジェットコースターなどで使われる「うず電流ブレーキ」です。このブレーキのすごいところは、部品同士がつまり触らずに、まるで魔法のように車輪をとめることができる点です。摩擦を使わないので、雨の日でも安定して止まれたり、部品がすり減ったりしにくいという大きなメリットがあります。

今日はそんな、魔法のようなうず電流の正体に迫る実験を紹介いたします!

科学のレシピ

● 用意するもの

  • 銅線(エナメル線など、被膜のあるものが扱いやすいです)
  • 芯となるもの(例えば空き缶やラップの芯など)
  • 磁石
  • あればワニ口クリップ(またはセロハンテープ)

磁石については、できればネオジム磁石など磁力の強いものが良いですが、100円ショップにうっている丸型フェライト磁石でも、何枚か重ねればOKです。銅線は、電気が流れやすい金属であるほど、この後の現象がはっきりと現れます。

● 手順

① まずはコイルを作ります。
空き缶などの筒を使って、その周りに銅線を巻きつけていきます。サイダーなどが入っている、細いカンがおすすめです。だいたい20回くらい巻きましょう。(※エナメル線を使った場合は、両端の被膜を紙やすりなどで削っておきましょう)

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② コイルをぶらさげて、ブランコを作ります。
何かに固定して、コイルが振り子のように揺れるようにします。

スクリーンショット 2016-01-21 18.36.15

③ ブランコをそのままゆらしてみます。
まずは普通に揺らします。当たり前ですが、しばらく揺れ続けますね。次に、その状態で銅線の両端を、ワニ口クリップなどでつなぎ(回路を閉じ)、様子を見ます。まだ磁石はないので、特に変化はないはずです。

④ 次に磁石をコイルのそばに置いて、③と同じことを行います。
コイルのブランコが揺れたときに、コイルの輪の中を磁石が通過するのではなく、コイルの「側面」に磁石が近づいたり遠ざかったりするように設置します。そして③と同じことを行ってください。

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● 結果

こちらの動画を御覧ください。

これは不思議! 磁石がある場合、銅線の両端をつないで「回路」を完成させたとたん、ブランコがまるで粘土の中を動いているかのように、すぐに止まってしまうことがわかりますね。電池など、とくにつないでいないし、なぜ止まるのか、本当に不思議ですよね!

魔法の正体 ~なぜブレーキがかかるのか?~

この現象の正体は「電磁誘導(でんじゆうどう)」と、そこから生まれる「変化をきらう電気の性質」にあります。

  1. 電気が生まれる(電磁誘導)
    コイル(銅線)が磁石のそばを通過する(近づいたり遠ざかったりする)と、コイルの中の「磁場の強さ」が変化します。理科の授業で習う「ファラデーの電磁誘導の法則」によって、この「変化」がコイルに電気を流そうとする力(電圧)を生み出します。
  2. 回路をつなぐと…
    この実験で、銅線の両端をつなぐ(回路を閉じる)ことが最大のポイントです。電気を流そうとする力が生まれても、道がつながっていなければ電気は流れません。しかし、両端をつなぐと、生まれた力によってコイルの中に「誘導電流(ゆうどうでんりゅう)」が流れます。
  3. ブレーキがかかる(レンツの法則)
    ここが一番面白いところです。このとき流れる電気は、とても「あまのじゃく」な性質(レンツの法則)を持っています。

    • コイルが磁石に近づこうとすると → 「来るな!」と反発する磁力を発生させ、動きを妨げます
    • コイルが磁石から遠ざかろうとすると → 「行くな!」と引き留める磁力を発生させ、やはり動きを妨げます

つまり、コイルがどちらに動こうとしても、その動きに「待った!」をかける力(ブレーキ)が発生するのです。これが、非接触で物が止まる「うず電流ブレーキ」の原理です。魔法のように見えた現象の正体は、「磁場の変化」を全力で邪魔しようとする電気の力だったのですね。

【発展】コマでも体験できる「うず電流」

このうず電流ブレーキは、地球ゴマのような金属の円盤を使っても体験することができます。今度はコイルではなく、金属の「板」の中に電気が流れます。

回転しているコマ(金属の円盤)に磁石を近づけると、円盤の中に「渦巻き状の電流」=「うず電流」が発生します。このうず電流も、やはり「あまのじゃく」。コマの回転という「変化」を妨げるようにブレーキをかけるため、回転しているコマが、磁石を近づけるだけで徐々に速度が遅くなっていき、とまることがわかります。

さっきの実験が「銅線の道」を流れる電流だったのに対し、こちらは「金属の板」全体に渦を巻いて流れる電流なのです。どちらも、私たちの安全な生活を支える、大切な科学技術の原理となっています。ぜひ、ご家庭でこの「魔法のブレーキ」を体験してみてください!

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