なぜ今、理科の実験で「センサー」が必須なのか? 記録タイマー世代の教師が感動した3つの理由
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
「ダダダダダ!」
この音を聞いて、中学校の理科室で使った「記録タイマー」を思い出す方も多いのではないでしょうか。紙テープに打点が記録されていく、あの実験です。あの実験も、動きの記録としては非常に優れていますが、もし、台車が坂道を下りる「たった今、その瞬間」の速さの変化が、リアルタイムでグラフになったら…?想像するだけで、ちょっとワクワクしませんか?

実は今、世界の標準的な理科教育では、センサー系の機器をつかった実験が当たり前になっています。なぜ、わざわざこのようなセンサー機器を使うのでしょうか。例えば物体の運動であれば、昔ながらの台車と記録タイマー・テープをつかった実験で充分なはずです。正直なところ、ぼくもなぜ力学でこれを使うのか、その本当の理由がよくわかりませんでした。
しかし、実際に自分で使ってみてからは、その理由が痛いほどよくわかりました。それは、私たちの「実験」そのものに対する考え方を変えてしまうほどの力を持っていたのです。そんなセンサー系をなぜつかうのか? その「すごさ」について、斜面上を動く台車の様子を例に、今日はご紹介したいと思います。
科学のレシピ
まずは実験方法についてご紹介します。
用意するもの:
力学台車、白い板、センサー(イージーセンス)、斜面
手順:
1 台車に白いボードをはる。(センサーが距離を測りやすくするためです)

2 台車を走らせながら、イージーセンス(距離センサー)を使って、距離のデータをとっていく

3 斜面の傾きを調べておく
4 データを解析して、台車の加速度(速さの変化の割合)の理論値と比較する。
では、このシンプルな実験で、センサーは何を可能にするのでしょうか?
すごさ①:瞬時に「見える化」! 動きがそのままグラフに
まずセンサー系を使うと良いところは、起きている現象が「リアルタイム」でデータ化されていくことです。百聞は一見に如かず。こちらの動画を御覧ください。
いかがでしょう。台車が動いた瞬間に、パソコンの画面に「距離のグラフ」が描かれていきます。これは、スポーツ選手が自分のフォームを映像で何度もチェックするのに似ています。「今、どう動いたか」が、リアルタイムにグラフという言葉で描かれていくため、何を計測しているのかが、非常にわかりやすいのですね。「あ、だんだん速くなってる!」「ここで一番速い!」というのが一目瞭然です。演示実験として全体に見せるためにも、1つはほしい機器なのです。

設定画面はこんな感じです。時間レンジも変えることが可能です。

今回は測定時間5秒、測定間隔20m秒(1秒間に50回計測)でやってみました。
すごさ②:「試行錯誤」こそ科学! 何度も繰り返し実験できる
記録タイマーとテープを使った実験を思い出してください。テープを用意し、台車に貼り付け、実験し、テープを回収し、それを5打点ごと(0.1秒ごと)にハサミで切り、グラフ用紙に貼り付ける…。1時間の授業内で全員のデータを取ろうと思うと、かなり慌ただしい実験となります。どうしても、この「準備」と「後片付け」の作業に時間をとられてしまいます。
これでは、条件を変えて何度も実験し、データを検証することは難しいですよね。でもセンサー系のソフトを使うとどうでしょう? 実験はボタン一つで開始・終了。何度もすぐに行なえます。「じゃあ、斜面の角度を変えたらどうなる?」「もっと重い台車なら?」という「もしも」を、その場で次々と試行錯誤できるのです。これこそが、科学の探究の面白さですよね。
さらには、そのデータをエクセルに吐き出して、解析することもできます。

(もちろん、記録タイマーのテープをアナログに切って貼る作業も、速さの変化が「テープの長さ」という実感としてわかりやすい、という素晴らしい側面もあります。このあたりは、両方やってみるのが理想かもしれません。)
とはいえ、エクセルなどを使ってデータを解析する力は、社会で活躍するためにも必須のスキル。生徒にその本格的な体験をさせるのなら、センサー系の機器は不可欠です。
すごさ③:五感を超える!「見えない世界」の可視化
そして、これがセンサーの真骨頂だと私は思っています。今回の台車の運動は、もともと目に見えるものでした。しかし、センサーが本当にすごいのは、音や電気、温度、光など、目には直接見えないモノをデータとして取り込むときです。例えば「音」。音の「高い・低い(周波数)」や「大きい・小さい(振幅)」は、私たちの目には見えません。しかし、センサー(マイク)を通せば、その正体である「波形」としてグラフで表示できるのです。
人間の五感では捉えきれない世界を、「データ」という共通言語に翻訳し、私たちの目の前に「可視化」してくれる。これが、センサーがもたらす最大のイノベーションです。難点は値段です。ただし以前は非常に高買ったこちらの機器ですが、記録タイマーdという革命的なものが発売されました。安くて、使いやすいその記録タイマーとは?こちらもご覧ください。
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