テルミット反応で学ぶ酸化還元と発熱のダイナミック化学実験(アルミニウムが酸素を奪う!)

桑子研
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

皆さんは「テルミット反応」という言葉を聞いたことがありますか?これは、酸化鉄とアルミニウムの粉末を混ぜ合わせ、点火することで、激しい熱と光を放ちながら鉄が生成されるという、非常にドラマチックな化学反応です。まるで花火のような輝きと、化学の神秘を間近で感じられるこの実験は、生徒たちの記憶に強く残ること間違いなしです。私たちの身近な金属である「鉄」が生成されるという、非常に示唆に富んだ化学反応です。

この実験を成功させるためには、安全面に関するいくつかの注意点と確実な準備が不可欠です。しかし、その感動は、準備の手間を補って余りあるものとなるでしょう。今回は、科学部の活動で実践したテルミット反応の様子を紹介します。調整に調整を重ねた心のこもった実験です。

テルミット反応とは?化学の視点から紐解く

テルミット反応は、アルミニウムの強い還元力を利用した反応です。化学反応式で表すと以下のようになります。

\[\ce{Fe2O3 + 2Al  -> 2Fe  + Al2O3 }\]

この式が示すように、酸化鉄(Fe2O3)とアルミニウム(Al)が反応することで、鉄(Fe)と酸化アルミニウム(Al2O3)が生成されます。

もう少し詳しく見てみましょう。 アルミニウムは非常に反応性の高い金属で、酸素と結びつきやすい性質を持っています。一方、酸化鉄は鉄と酸素が結びついた化合物です。この実験では、アルミニウムが酸化鉄から酸素を「奪い取る」ことで、鉄が単体として分離し、アルミニウム自身は酸化アルミニウムへと変化します。

この反応は、大量の熱を発生する発熱反応であり、その熱によって生成された鉄が溶融して塊となるのが特徴です。その温度はなんと2000℃以上にもなると言われています。この高温を利用して、線路の溶接などにも応用されています。

科学部で実践!準備と実験の様子

先日、私たちの科学部でもこのテルミット反応の実験を行いました。準備から実施までの手順をご紹介します。

必要なもの

  • 酸化第二鉄:試薬として販売されています。
  • アルミニウム粉末:今回はアルミホイルから手作りをしました。
  • マグネシウムリボン:点火用の導火線として使用します。
  • ビーカー:反応物をキャッチします。
  • 三脚、金網、クランプ、三角か
  • 新聞紙:机の上に水で濡らして敷きます。
  • ライター:マグネシウムリボンに点火するために使用します。
  • 金床(かなとこ)とハンマー:生成した鉄を叩いて、金属光沢を確認するために使います。
  • 磁石:生成物が鉄であることを確認するために使います。
  • 保護具必ず保護メガネを着用し、また防火対策を徹底してください。

実験手順

  1. 混合物の準備:

    • まず、酸化二鉄粉末とアルミニウム粉末を、質量比で約3:1の割合でよく混ぜ合わせます。 安全性を考慮して色々と試行錯誤した結果、今回は酸化二鉄は1.6グラムでアルミ粉末が0.6グラムにしました。
    • 粉末は均一に混ざるように、乳鉢などを使って丁寧に混ぜ合わせることが重要です。
    • アルミニウムはアルミホイルをくだして、すり鉢で粉にしました。
  2. 濾紙を1枚目は水に濡らし、重ねて2枚目にセットします

    • 混ぜ合わせた粉末を、ろ紙にセットします。
    • 三脚とさんかくかの上にしっかりと固定します。下には、生成物が落下しても安全なように、水に入れたビーカーをおきます。
  3. 導火線の設置:
    • るつぼの中央に、マグネシウムリボンを導火線として垂直に差し込みます。マグネシウムリボンは、少し長めにしておくと、安全な距離から点火できます。
  4. 点火!:
    • 周囲に燃えやすいものがないか、再度確認してください。
    • 必ず保護メガネを着用し、生徒には安全な距離から観察させます。
    • バーナーの炎でマグネシウムリボンの先端に点火します。マグネシウムリボンは非常に明るく燃えながら、混合物へと火を導きます。
  5. 反応の観察:

    • マグネシウムリボンが燃え尽きて混合物に火が移ると、「フシューッ!」という激しい音とともに、花火のような眩い光と大量の火の粉が上がります。 生徒たちからは「おおーっ!」という歓声が上がることでしょう。

    • 反応が収まると、るつぼの底に黒いボールのような塊がポトリと落ちてきます。これが、まさに生成されたばかりのです。形も特徴的で、丸くて、穴が空いた形をしています。この穴にマグネシウムリボンがあったのでしょうか。
  6. 生成物の確認:
    • 十分に冷えてから(非常に高温になっているので、触らないこと!)、生成した黒い塊をるつぼから取り出します。
    • この黒い塊を金床の上に置き、ハンマーで強く叩いてみましょう。すると、外側の酸化した部分が剥がれ落ち、中から金属光沢のある銀色の物質が現れます。
    • さらに、この銀色の部分に磁石を近づけてみてください。カチッと音を立てて磁石によくくっつくことが確認できます。これらの特徴から、生成物が鉄であることが明確に分かります。

この実験から何を学ぶか

テルミット反応の実験は、単に「すごい!」で終わらせるにはもったいない、深い学びの宝庫です。

  • 還元と酸化:アルミニウムが酸化鉄から酸素を奪う「還元」と、アルミニウムが酸素と結びつく「酸化」が同時に起こる、典型的な酸化還元反応であることを理解させることができます。
  • 発熱反応:大量の熱を放出する発熱反応の例として、そのエネルギーの大きさを体感させることができます。
  • 金属の製錬:鉄鉱石から鉄を取り出す(製錬)過程と原理が似ていることを解説し、産業とのつながりにも触れることができます。
  • 物質の変化:全く異なる性質の粉末から、磁性を持つ金属「鉄」が生成されるという、物質の劇的な変化を目の当たりにすることで、化学反応の面白さや奥深さを実感させられます。

安全管理を徹底した上で、ぜひ生徒たちにこの感動的な化学反応を体験させてあげてください。きっと彼らの理科への興味をさらに深めるきっかけになるはずです。

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