混ぜるだけで80℃!?手作りカイロで解き明かす「鉄がサビる熱」の科学!カイロのしくみを自作で学ぼう(発熱反応)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
冬の寒い日、ポケットに忍ばせたカイロのじんわりとした温かさは、まさに天からの恵みのようですよね。でも、その袋の中で一体何が起きているのか、想像したことはありますか?
実は、あの小さな袋は「ポケットの中の化学工場」なんです。今回は、その工場の秘密を解き明かすべく、使い捨てカイロを自分で作り、化学の熱を“実感”する実験をご紹介します。
この実験、実際に授業で行うと生徒たちの目の輝きが変わります。「本当に温かくなってきた!」「見て、湯気が出てる!」そんな歓声が教室に響き渡るのです。目に見えない化学反応が、手で触れられる「熱」に変わる瞬間は、教科書だけでは味わえない最高の学びの体験です。
カイロ作りに挑戦!準備するものと手順
目的は、使い捨てカイロの仕組みを理解し、「酸化」という化学反応が熱を生み出すこと(発熱反応)を体験すること。さあ、準備を始めましょう!
■ 準備するもの(1班あたり)
- 鉄粉(300メッシュ):約4g(硫化水素の実験でも使ったものです)。今日の主役です!
- 活性炭:約2g。鉄の反応を助ける名サポーター。
- 食塩水(3%):3cm³。反応をスピードアップさせる魔法の水。
- 紙コップ:1個(小さめのもの)
- 温度計:1本
- ガラス棒:1本
- 薬包紙:適量
■ 実験の手順
① 鉄粉4gと活性炭2gを紙コップに入れ、ガラス棒で粉が均一になるようによく混ぜます。
② 食塩水3cm³を加え、すぐにガラス棒で手早くかき混ぜます。化学反応のスタートです!
③ 温度計をさし、1分ごとに温度を記録。10分間測定して、変化をグラフにしてみましょう。
ポイント:時々かき混ぜて空気(酸素)を送り込むと、より温度が上がりやすくなります。
(ワードデータ)発熱反応のワークシート
混ぜるだけで80℃!?化学の“熱”を解き明かす
実験では、班によっては最高80℃近くまで温度が上昇し、湯気が出るほどの盛り上がりに!これは、紙コップの中で「鉄の酸化」、つまり「鉄が急速にサビる反応」が起きている証拠です。鉄は空気中の酸素と結びついてサビる時、熱を放出する性質があるのです。カイロの温かさの秘密は、この化学反応にありました。
4Fe + 3O₂ + 6H₂O ⟶ 4Fe(OH)₃ + 熱エネルギー
この化学式、難しく見えるかもしれませんが、カイロの中の「最強チーム」の活躍を描いた物語だと思ってみてください。
- 鉄粉 (Fe):【主役】酸素と結びついて熱を出す、エネルギーの源。
- 酸素 (O₂):【相棒】空気中からやってきて、鉄と反応します。
- 水 (H₂O) と 塩類:【サポーター】鉄と酸素の反応を猛スピードで進ませる触媒の役割を果たします。食塩水を入れた途端に温度が上がり始めるのは彼らのおかげです。
- 水酸化鉄 (Fe(OH)₃):【生成物】鉄、酸素、水が化合してできた、いわゆる「サビ」の一種。この物質が生まれるときに熱が発生します。
そして、市販のカイロにはさらに工夫が凝らされています。
- 活性炭:【スーパーアシスタント】表面に無数の小さな穴が開いており、そこに空気中の酸素を大量に吸着します。鉄の周りに酸素を集めて、反応を持続的かつ効率的に進める重要な役割を担っています。
- バーミキュライト、木粉、吸水性樹脂:【調整役】保水性を高めて反応を長持ちさせたり、発生した熱をカイロ全体に均一に広げたりする役割があります。彼らのおかげで、カイロは急に熱くなりすぎず、長時間あたたかさを保つことができるのです。
安全に楽しむための約束
この実験は比較的安全ですが、鉄粉が酸化している最中は高温になります。反応が終わって十分に冷めるまでは、絶対にゴミ箱に捨てないでください。実験後は紙コップごと安全な場所に保管し、翌日以降に先生の指示に従って処分しましょう。たった一つの使い捨てカイロにも、これだけの科学的な知恵と工夫が詰まっています。身の回りのモノに「なぜ?」と問いかけると、世界はもっと面白く見えてくるはずです。
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