まるで錬金術?赤ワインが透明な液体に!「ワインの蒸留」ー 失敗しないための5ステップー
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
ワインから透明な液体を取り出し、それに火を灯すと青い炎が燃え上がる…。まるで錬金術のような、ちょっぴり大人びたこの実験、実は中学校の理かで行う「蒸留」という科学的な手法です。
今回は、赤ワインを使った蒸留実験を通じて、液体が気体へ、そしてまた液体へと姿を変える不思議な性質に迫ります。この実験は、お酒や香水、そして石油の精製など、私たちの生活を支える重要な技術の基礎にもなっています。
実験には危険も伴いますが、正しい手順と注意点を守れば、科学の面白さを存分に味わえるはずです。初めて指導する先生方にも分かりやすいように、安全への配慮を丁寧にまとめましたので、ぜひ参考にしてください。さあ、科学の魔法の世界へ一緒に旅立ちましょう!
実験の準備:魔法の道具を揃えよう!
まずは、今回の実験で使う道具たちを紹介します。
枝付き丸底フラスコ、試験管3本、ビーカー、スタンド、ガスバーナー、三脚、金網、ゴム栓付き温度計、ワイン、マッチ、もえさしいれ、濡れ雑巾、軍手、保護メガネ
今回使用するワインはこちらです。実験を成功させるカギは、アルコール度数にあります。今回用意したワインはこちらのアルコール度数が14パーセントのもの(amazon)。この濃度が後で効いてきます!
一番大切!安全に実験を進めるための約束事
安全対策は最優先です。特に火傷などの事故が多い実験なので、細心の注意を払いましょう。授業で使えるスライドも共有しますので、写真を見ながら注意点を確認する際にご活用ください。▶授業用スライドはこちら
いざ実践!ワインから宝物を取り出す手順
ステップ1:下ごしらえと心構え
ワインを10mLずつ試験管に分け、各班に配布します。軍手、保護メガネを必ず着用!実験器具をセッティングします。この実験は注意点が多く、火傷のリスクもあるため、事前に先生が一度お手本(演示実験)を見せておくと安心です。ワインをあらかじめ10mLずつ試験管に分けておくと、当日の進行がスムーズになります。なお10mLずつにしているのは訳があります。アルコール度数がもう少し低めの11パーセントであれば、13mLずつくらい入れておくといいですね。計算は後ほど。
ステップ2:フラスコにワインを注ぐ
枝付きフラスコの枝を上に向け、枝にワインが入らないように注ぎます。温度計の先端が、フラスコの枝の付け根あたりにくるようにセットします。なぜ温度計をこの位置にするのか?それは、液体から気体になったばかりの蒸気の温度を正確に測るためです。
実験は時間との勝負。かなりタイトな時間の実験です。準備と片付けをクラス間で分担するなど、工夫が必要です。軍手は、熱くなったゴム管などを交換する際の火傷防止に役立ちます。
ちなみに、集める液体が1mLの目安ですが、今回は試験管の下から0.5cmくらい(小指の爪の長さくらい)と伝えました。赤ワインを使うと、無色透明の液体が溜まっていく様子がよく見えて、変化が分かりやすいのでおすすめです。フラスコを固定するアームは、枝の分岐点より「上」を掴むのがポイント。下を持つと、せっかく気体になったアルコールが冷やされて液体に戻ってしまい、効率が悪くなります。
ステップ3:いよいよ加熱!
「沸騰石」を入れるのを忘れずに!必ず金網を敷き、炎が一点に集中しないようにします。ガスバーナーの火力を調整しながら、温度変化を観察します。
液体を集める試験管に、ゴム管の先が触れないよう、1cmほど浮かせてセットします。ゴム管が折れ曲がっていると危険なので、まっすぐにしておきましょう。
さて、ここで登場する「沸騰石」。これは、液体が突然爆発するように沸騰する「突沸(とっぷつ)」を防ぐためのお守りのようなものです。沸騰石の表面にある小さな凹凸から、穏やかに泡が出るのを助けてくれます。#突沸 の詳しい現象はこちらの動画が分かりやすいです。
加熱を始めても、すぐには温度計の目盛りは上がりません。気体の温度を測っているので、液体が温まってもすぐには反応しないのです。しかし、沸騰が始まると、一気に温度が上昇!この瞬間は見逃せません。
ステップ4:液体を回収する
温度が70℃を超えたあたりから、枝に液体がつき始めます。試験管に液体を1mLずつ、3本集めます。試験管を交換するときは、ビーカーごと動かすとスムーズです。
なぜアルコールが水よりも先に気体になって出てくるのでしょうか?それは、物質が液体から気体に変わる温度、つまり「沸点」が違うからです。水の沸点が100℃なのに対し、アルコール(エタノール)の沸点は約78℃。熱いお風呂の我慢比べで、アルコール君が先にギブアップして飛び出していくようなイメージですね。
温度が70℃を超えると、先に飛び出してきたアルコールの蒸気が枝の部分で冷やされ、再び液体となって垂れてきます。これを集めるのが蒸留です。1本目の試験管がいっぱいになったら、ビーカーごとさっと交換しましょう。このとき管が熱いことがあるので、軍手をしていると安心です。
ステップ5:実験終了!最も危険な瞬間
火を消す直前、または消してすぐに、必ずゴム管を試験管から抜きます。熱いゴム管は、水を入れたビーカーではなく、濡れ雑巾の上に置きましょう。これは絶対です!もしゴム管をつけたまま火を消すと、フラスコ内の気体が急激に冷えて縮こまり、掃除機のように周りの液体を吸い込む「逆流」という現象が起こります。冷たい液体が熱いフラスコに流れ込むと、温度差でガラスが割れてしまう大変危険な状態になります。
#逆流 の恐ろしさが分かる動画がこちらです。
フラスコが液体を吸い上げていきます。
熱いゴム管をうっかり水につけてしまう生徒がいますが、これも危険です。濡れ雑巾の上なら安全に冷ますことができます。
驚きの結果!取り出した液体の正体は?
さあ、集めた3本の液体を調べてみましょう。
燃焼試験:1本目と2本目の液体を蒸発皿にとり、マッチの火を近づけると…ポッと青い炎を上げて燃えました!これはアルコールが含まれている証拠です。
冷却効果:指に少し垂らすと、スーッと冷たく感じます。これは液体が蒸発するときに、肌から熱を奪っていく「気化熱」という現象。夏に打ち水をすると涼しくなるのと同じ原理です。
匂いの変化:消毒液のようなツンとしたアルコールの匂いの中に、どことなくワインの甘い香りが残っています。香り成分も一緒に蒸留されたのですね。
今回のワインはアルコール度数14%なので、配った10mL中には約1.4mLのアルコールが含まれています。そのため、沸点の低いアルコールが多く含まれる1本目はほぼアルコール、2本目はアルコールと水、そして沸点の高い水が主成分となる3本目は火がつきにくい、という結果になるはずです。もしアルコール度数が11%のものを使う場合は、初めに用意するワインの量を14mLくらいにしておくと、
14*0.11=1.54mL
となり、1mLずつとっていくと、アルコールのみ、アルコールと水半分半分、水だけ。
となるので、良い具合ですね。このワインの蒸留実験は、沸点の違いを利用して混合物を分離するという、科学の基本的な考え方を学ぶ絶好の機会です。同時に、逆流や突沸といった現象から、科学の厳しさと安全管理の大切さも教えてくれます。ぜひ、安全に気を付けて、知的好奇心を満たす素晴らしい体験をしてください。
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