「色」は脳の錯覚だった?目の奥に潜む光の三原色の秘密
「先生、どうして赤と緑を混ぜると黄色になるんですか?」
理科室でそんな質問をされたら、どう答えますか? 絵の具の三原色(赤・青・黄)とは違う、光の三原色(赤・緑・青)の世界は、子どもたちにとってちょっぴり不思議に感じるかもしれませんね。でも実は、この「色」という感覚の奥には、私たちの脳が作り出す、とんでもなく巧妙な仕組みが隠されているんです。
私たちは普段、当たり前のように色を見て生活していますが、その「色」がどのようにして脳の中で作り出されているのかを考えたことはありますか? 赤いリンゴ、青い空、緑の葉っぱ……。これらは単にそれぞれの光の波長が目に入っているだけではありません。私たちの目の奥には、まさに「色の魔術師」とも呼べる、驚くべき細胞たちが存在しているのです。
■1 私たちの目が見る「色」の正体 ~光の三原色とは何か?~
私たちの目の網膜には、驚くべき仕組みが隠されています。実は、ヒトの目には、特定の色の光を感じ取る「受容体」が3種類しか存在していないのです。これらが、私たちが認識する「色の世界」を作り出す「光の三原色」の正体なのです。
具体的には、以下の3種類の細胞が光に反応します。
- L錐体(赤錐体): 赤色波長(約 )付近の光を吸収して興奮します。
- M錐体(緑錐体): 緑色波長(約 )付近の光を吸収して興奮します。
- S錐体(青錐体): 青色波長(約 )付近の光を吸収して興奮します。
(ちなみに、L、M、Sはそれぞれ Long(長い)、Middle(中間)、Short(短い)の略です。)
人間の目は、基本的にこの3つの波長領域の光にだけ反応する視細胞を持っているのです。しかし、この3つの波長領域で、地球上に存在するほとんど全ての光の波長をカバーできてしまうから不思議ですよね!
では、私たちが「色」として感じているものとは一体何でしょうか? それは、上記3種類の錐体細胞が光を吸収し、その興奮の程度によって、脳で呼び起こされる神経回路の興奮の様相にすぎません。
簡単に言うと…
- 赤錐体だけが強く興奮したときに感じる感覚が「赤色(Red)」
- 緑錐体だけが強く興奮したときに感じる感覚が「緑色(Green)」
- 青錐体だけが強く興奮したときに感じる感覚が「青色(Blue)」
そして、これらの錐体細胞が異なる組み合わせで興奮すると、様々な色が生まれます。
- 赤錐体と緑錐体が同程度に興奮すると「黄色(Yellow)」
- 緑錐体と青錐体が同程度に興奮すると「空色(Cyan)」
- 青錐体と赤錐体が同程度に興奮すると「赤紫(Magenta)」
さらに、すべての錐体細胞が同程度に興奮したときに感じる感覚が「白色(White)」となります。
つまり、「黄色」や「空色」や「赤紫色」といった光の波長が単独で存在するわけではありません。これらは、3種類の視細胞の興奮の度合いの組み合わせが、脳の神経回路に特定の興奮パターンを作り出し、それが「色」という感覚として認識されているのです。私たちが「見ている」と感じる色は、まさに脳が作り出す「魔術」と言えるでしょう。
授業での活用ヒント
この内容は、生徒たちに「見える」という現象の奥深さを伝える絶好の機会です。
- 「光の三原色(赤・緑・青)を混ぜると白になる」という現象を、実際に色光合成の実験で見せながら、目の仕組みと結びつけて説明すると、より理解が深まります。
準備方法:
必要なもの: 赤・緑・青のLEDライト(または色フィルターをかけた懐中電灯)、白いスクリーンや壁。
手順:
- 教室を暗くする。
- 各色のライトをスクリーンに照射し、それぞれの色を見せる。
- 3色すべてを重ねて照射し、白色になることを確認する。
- この時、「人間の目にはこの3つの色のセンサーしかないから、混ぜると脳が『白』だと認識するんだよ」と、今回の内容に結びつけて説明すると、生徒の「なるほど!」を引き出せるはずです。
この光と色の仕組みは、まさに私たちの脳が作り出す「色の魔術」と言えるでしょう。生徒たちが「見える」という当たり前の現象の裏に潜む科学の奥深さに触れることで、さらなる探究心を育んでくれるはずです。
(参考:「FNの高校物理」より「光の三原色」の詳細な解説は、以下のURLをご覧ください。高校物理の学習に大変役立つサイトです。) http://fnorio.com/0074trichromatism1/trichromatism1.html (「FNの高校物理」トップページはこちら:) http://fnorio.com/index.htm
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