あなたの歩き方、グラフにするとこうなります!初めての記録タイマー(使い方・解析方法)
歩く動作を記録タイマーで分析!〜平均の速さと瞬間の速さを体感する授業〜
「記録タイマーって、一体どう使えばいいんだろう?」
理科室に鎮座するお馴染みの実験器具、記録タイマー。台車を使った運動解析は定番ですが、いきなり「さあ、これで台車の動きを分析してみよう!」と言われても、生徒たちはピンとこないかもしれませんよね。その導入の難しさに、もったいなさを感じている先生もいるのではないでしょうか。
そこで今回ご紹介したいのが、運動の単元の最初の授業でぜひ取り入れていただきたい、**「自分の歩く動作を記録する実験」**です。台車実験に入る前に、ウォーミングアップとしてこの実験を挟むことで、生徒たちはより深い学びへとスムーズに移行できるはずです。
この実験の最大の魅力は、生徒自身の身体の動きが、目の前の記録テープに刻々と記録されていく点にあります。自分自身の足跡が残されたテープを、自分の手でじっくりと観察し、分析していく。このプロセスこそが、生徒たちに「速さとは何か?」「動きの変化はどのように現れるのか?」といった、物理の基本的な概念を視覚的かつ直感的に体感させる、またとない機会となるのです。机上の空論ではなく、まさに「体で学ぶ」理科の授業を、一緒に創り上げていきましょう。
授業準備をスムーズに!必要なものと手順
この実験は、準備も比較的シンプルです。授業を円滑に進めるためのポイントと併せてご紹介します。
• 記録タイマー(打点装置)
• 打点用紙テープ
• カーボン紙
• 低摩擦カートまたは滑車と滑らかな机上面(歩行者の動きを直接記録する場合は、歩行者にテープをつなぐ方法でもOK)
• メジャー(距離測定用)
• ストップウォッチ(比較用として)
• グラフ用紙またはICT端末(記録の可視化に)
実験の流れ
1. 生徒に「普段と同じくらいのスピードで歩いてみてください」と伝え、記録テープを装置にセットして歩いてもらいます。
2. 打点されたテープを回収し、点と点の間隔を測定。
3. 点の間隔から一定時間ごとの進んだ距離を出し、平均の速さ・瞬間の速さを計算。
4. グラフにして、速度の変化を視覚化。
生徒の記録からわかる、意外な「個性」と深い学び
記録テープを分析していくと、実に興味深いことに、人によって歩き方の「癖」がデータとして明確に現れてくるのが面白いところです。生徒たちも、自分自身の動きが数値化され、視覚化されることに驚きと発見を感じるはずです。
例えば、ある生徒の記録テープでは、はじめはゆっくりとスタートし、次第にスピードを上げ、やがて一定の速度に落ち着いていく様子が見られました。そして、最後の部分では、突如として点の間隔が広がり、急激に加速したことが明確に見て取れます。本人に尋ねてみると、「終わりが近づいて、無意識に急いでしまったかも」と、自身の行動とデータが一致する瞬間に、生徒はハッとさせられるのです。
また別の生徒の記録では、途中で一度スピードが上がり、そのあとさらに一段階スピードアップするという、「2段階加速」が見られました。この生徒は「後半の方が、自分の自然な歩き方だったかも」と振り返り、普段の自分の動きについて深く考えるきっかけになったようです。
また別の生徒の記録では、途中で一度スピードが上がり、そのあとさらにもう一段スピードアップするという“2段階加速”が見られました。「後半の方が自分の自然な歩き方だったかも」との振り返りも。
これらのデータからx-tグラフを作成する体験をさせることで、生徒の学びはさらに深まります。グラフの傾きの変化から、速度の変化、つまり「加速」や「減速」という現象を直感的に捉えることができるようになります。
学習効果と授業の狙い:データから「現象」を読み解く力
この「歩く実験」を通して、生徒たちはただ「平均の速さ」や「瞬間の速さ」の計算方法を学ぶだけに留まりません。
- 目の前の生データから、隠された現象を読み取る力:記録テープの点の並びから、歩行のパターンや変化を読み解く力が養われます。
- グラフに表れた変化を、自分の言葉で言語化する力:グラフの傾きや曲線の変化を、具体的な「加速」「減速」といった言葉で表現できるようになります。
- 自分の行動と数値との対応関係をつかむ感覚:自分自身の動きが客観的なデータとして示されることで、物理現象をより身近に、そしてリアルに感じられるようになります。
授業の終わりには、「この最後の加速、一体何が起きたんだろう?」と、あえて問いを投げかけてみてください。生徒たちは、自分自身の身体の動き、そしてデータに隠された「なぜ?」を深く考えることで、まさに「科学的に読み解く視点」を自然と身につけていくことでしょう。
ぜひ、記録タイマーを使ったこの「歩きの実験」を、速度の単元の導入や応用として試してみてください。生徒たちの意外な個性や発見が、たった一本の記録テープの上に、鮮やかな「点」として刻まれていくはずです。
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