最強の手作り電池はどれだ!?塩酸と金属で探る「電圧」のヒミツ
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
スマホ、ゲーム機、テレビのリモコン…私たちの生活は「電池」なしでは成り立ちませんよね。でも、電池が一体どうやって電気を作っているのか、考えたことはありますか?実は、2種類の金属と「ある液体」さえあれば、誰でも簡単に電池は作れてしまうんです!
今回は、どの金属の組み合わせが「最強の電池」になるのかを探す、ワクワクする実験をご紹介します。使うのは、なんと「塩酸」と、みなさんが知っている金属たちです!
実験の内容:最強電池決定戦!
まず、今回の実験に参加する「選手」たちをご紹介します。以下の4つの電極材料です。
- 銅板
- 亜鉛板
- アルミ板
- 炭素棒
これらをどう組み合わせれば、一番パワフル(高電圧)な電池ができるのか? 実際に試してみます。電極を差し込む台として使うのは…なんと「発泡スチロールボード」!これなら電気を通さず、電極同士がくっつくのを防ぎながら、うまく固定できるんです。



次に、電極をセットしたボードごと、選手たちの「舞台」となる液体に浸します。その液体とは…塩酸(濃度3~5%、量40mL)です!

「塩酸」と聞くとちょっとドキッとしますが、今回は濃度が薄いのでそこまで危険ではありません。とはいえ、酸性であることには変わりないので、もし手についてしまったら、すぐに水でしっかり手洗いをすることを徹底しましょう。
問題です!どの組み合わせが最強?
さて、ここでクイズです!銅、亜鉛、アルミ、炭素の中で、どの2つを組み合わせると一番高い電圧が得られると思いますか?
「教科書で見た『銅と亜鉛』が強そう!」「軽いアルミが意外と頑張るかも?」「炭素ってそもそも金属じゃないけど…?」
いろいろな予想を立てながら、実際に実験してみましょう。この「どうなるんだろう?」と考える時間こそ、科学の一番ワクワクする瞬間ですよね。
衝撃の結果発表と、電池の「しくみ」
炭素棒はそのままではミノムシクリップ(ワニ口クリップ)をつけにくいのですが、ネジの部分を少し緩めてそこに挟み込むと、うまくいきますよ。

実際に一つの組み合わせを測ってみると、、、
そして、いろいろなパターンで電圧を測ってみた結果がこちらです!

理科の授業で有名な「銅と亜鉛」の組み合わせは、約0.84Vでした。これこそが、1800年頃にイタリアの科学者ボルタが発明した、世界で初めての実用的な電池「ボルタ電池」の原型なんです。

なぜ?金属の「性格」が電圧を決める!
では、なぜ組み合わせによって電圧が変わるのでしょうか?そこには、金属たちの「性格」とも言える「イオン化傾向」という性質が深く関係しています。イオン化傾向とは、かんたんに言うと「その金属がどれだけ(水や酸に)溶けて『イオン』になりたいか」という度合いのことです。イオンになるとき、金属は電子(電気の粒)を放り出します。
今回の選手で言うと…
- アルミ、亜鉛:「すごくイオンになりたい!電子をバンバン放り出したい!」タイプ(イオン化傾向が大きい)
- 銅、炭素:「あまりイオンになりたくないなぁ…」タイプ(イオン化傾向が小さい)
電池というのは、この「イオンになりたい度」の差を利用して、電子を一方からもう一方へ流す(=電流を発生させる)仕組みなんです。つまり、この「差」が大きければ大きいほど、電子を押し出す力(電圧)が強くなる!
だから、「すごーくイオンになりたい」アルミと、「ぜんぜんなりたくない」炭素という、性格が正反対の2人を組み合わせたことで、最も高い電圧が生まれたんですね。科学のストーリーが見えてきました!
みんなも挑戦!結果を比べてみよう
こちらに、実験結果を記録できるスプレッドシートを用意しました。学校の授業やご家庭で実験したら、ぜひ他の人の結果と比べてみてください。

この実験は、簡単な材料で手軽にできる上に、「なんでこうなるんだろう?」という探究心を強く刺激してくれます。ちなみに、先ほど紹介した歴史的な「ボルタ電池」ですが、実は「すぐに電圧が下がってしまう」という大きな弱点(分極)がありました。科学はそうした弱点を乗り越えて進化してきたんですね。興味がある方は、こちらの記事も合わせてご覧ください。
なお「ボルタ電池はもうやめよう」という記事も合わせてご覧ください。日常にある「当たり前」も、科学の目で見ると新しい発見に満ちていますよ!
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