「怖い」が「凄い!」に変わる瞬間。豚の目の解剖実験ガイド(準備から片付けまで)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
皆さんは、「見る」ということを不思議に思ったことはありませんか? 今、皆さんがこの記事を読めているのも、目が光を捉え、その情報が脳に送られているからです。でも、その「目」という“器官”が、一体どんな仕組みになっているのか、想像したことはありますか?
教科書では「水晶体(レンズ)」や「網膜(スクリーン)」と習いますが、言葉だけではピンときませんよね。 そこで今回は、その「見る」しくみを、自分の目で確かめる、ちょっと不思議で面白い実験「豚の目の解剖」をご紹介します。
「えっ、目を解剖!?」と戸惑う生徒もいるかもしれませんが、実物を前にした瞬間、その不安は「なるほど!」という知的好奇心に変わっていきます。人間の目とほぼ同じ構造を持つ豚の目を通して、生命の精巧な「カメラ」の秘密に迫りましょう。
なお、この記事には豚の目の解剖中の写真が含まれます。映像などが苦手な方はご注意ください。またこの写真の一部は、F先生からいただきました。F先生は特別な接写が可能なカメラでたくさんの写真を撮って、それを提供いただきました。ありがとうございます。
生物の「カメラ」を手に入れる:材料の調達
今回の実験で使う「豚の目」は、人間の目の構造ととてもよく似ています。そのため、医学の勉強やこうした理科の実験で大活躍します。私たちは「総武教育」さんから購入しました。ほかにも「東京芝浦臓器株式会社」などでも取り扱いがあるようです。豚の心臓はネット購入も可能な場合がありますが、豚の目はネットでは扱いが少ないため、教材業者や学校の出入り業者に相談するのがよいでしょう。
豚の心臓の解剖の時はネットでも買えそうなことがわかりましたが、流石に目は売っていないようです。
私が注文をしているのはこちらの会社です。

袋に入って届きます。パットに移すとこんな感じです。

なぜ目は動く?「眼筋」の秘密:解剖の準備
解剖の準備は、授業の成功を左右する大切なプロセスです。豚の目には、眼球を上下左右に動かすための強力な筋肉(眼筋)がびっしりと付いています。皆さんが自由に目線を動かせるのも、この筋肉のおかげです。
実験をスムーズに進めるため、この筋肉をあらかじめ取り除いておきます。
● 事前準備の流れ:
- 豚の目を1クラス分として40個+予備5個、合計45個を準備
- 5人で分担して前日に作業(所要時間:約1時間)
- キッチンバサミで目の周囲の筋肉をカット
- 筋肉は意外としっかりしており、繊細な作業が必要です
筋肉が眼球にしっかりとついていて、なかなか大変な作業!でも、5人で協力して進めたおかげで、1時間ほどで終えることができました。この準備段階だけでも、「こんなにたくさんの筋肉が、あの小さな眼球を動かしていたのか!」という生物の神秘を感じる瞬間です。このように綺麗に取り除きます。



ここまでが下準備です。
いよいよ解剖!生命のレンズ「水晶体」との対
授業当日の準備物
- 新聞紙(机1台につき2枚)
- キッチンバサミ(生徒用)
- 薄手のゴム手袋
- ゴミ袋
- バット(解剖台)
- スケッチ用紙・筆記具
授業の進行:目で「見る」しくみ
当日は、実験の机の上には新聞紙を2枚引きました。また薄手のゴム手袋、ゴミ袋を用意しました。

1. すべては「観察」から:スケッチ
まずは目の全体像をスケッチします。ただ切るのではなく、「観察し、記録する」ことを重視しました。解剖後にわかったことを書き足していく、自分だけの「目の解剖図」を作っていきます。


2. 眼球の内部へ:縦に切る
次に、眼を縦に2つにきるのですが、キッチンバサミのみを用いて行いました。眼球は「強膜(きょうまく)」という丈夫な白い外壁に覆われており、思った以上に弾力があります。
キッチンバサミの刃先を当てて力を入れ、眼球の横にまずは穴を開けます。


穴が空いたらそこにハサミの刃を入れて、一周していき、切り分けます。


3. 「カメラ」の内部構造を暴く
半分に切れました!さあ、中はどうなっているでしょう?

後半球の内側に張り付いている、白く薄い膜が「網膜(もうまく)」です。

これこそが、光を感知するセンサー細胞が並んだ、カメラでいう「フィルム」や「イメージセンサー」にあたる部分。光の情報は、ここで電気信号に変えられます。

中から出てきた、どろっとした透明なゼリー状のものは「ガラス体」です。
これは眼球の内部の圧力を保ち、眼球の丸い形を維持する大切な役割を担っています。

4. 奇跡のレンズ、「水晶体」
そして、ガラス体の中心に、ビー玉のような透明な球が入っています。これが「水晶体」、つまり目の「レンズ」です!指やピンセットで取り出します。



この水晶体、ただのレンズではありません。人間の目(や豚の目)は、このレンズの厚みを周りの筋肉(毛様体筋)で変えることで、遠くを見たり、近くを見たり、瞬時にピントを合わせているのです。まさに天然の「オートフォーカス機能」ですね。
その証拠に、取り出した水晶体を新聞紙の上に載せてみましょう。

どうですか?文字が拡大されました!これが、私たちの目の中で「ピントを合わせる」という重要な仕事をしていた部品なのです。生徒たちからも、一番歓声が上がる瞬間です。
解剖をしている様子を動画にしました。
実験は「片付け」までが科学です
命を扱った実験だからこそ、片付けは迅速かつ丁寧に行います。
- 使用器具(ハサミ、バット)はハイター入りバケツへ(教員が後でしっかり洗います)
- 解剖した目・手袋・新聞紙はすべてゴミ袋へ
- バットは新聞紙でよく拭き、次のクラスが使う場合は、湿らせた新聞紙で仕上げ拭きをします。時間が空いている場合は水洗いしましょう。

授業の合間も効率よく準備・片付けができるよう、全体の流れを確認しておくと安心です。

生徒への指示の一例です。

まとめ:教科書を超えた「実感」

今回は「豚の目の解剖」を通して、「見る」という働きの裏側を旅しました。ゼリー状の「ガラス体」が形を保ち、「水晶体」というレンズがピントを合わせ、「網膜」というスクリーンに像を結ぶ…。教科書で学んだ知識が、本物の手触り、重さ、そして質感と結びついた瞬間、生徒たちの目は好奇心で輝いていました。
豚の心臓の解剖もあわせて体験すると、酸素や栄養を運ぶ「循環器」と、情報を受け取る「感覚器」のつながりも意識できておすすめです!
解剖という活動を通して、生徒たちが「生き物のしくみ」への興味を深め、科学への好奇心を育てるきっかけになればと思います。
豚の心臓の解剖の様子も合わせてご覧ください。
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