なぜ惑星は迷子になるの?火星の「逆行」を机の上で再現する実験

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

夜空を見上げると、星々は季節ごとに決まった並びで動いているように見えます。しかし、その中にいくつか、星々の間を縫うように、ふらふらと不思議な動きをする星があることに気づいたことはありますか?

それが「惑星」です。惑星は「惑う(まどう)星」と書きますが、昔の人はその不規則な動きを見て、まさに「星が道に迷っているようだ」と考えたのですね。今回は、そんな惑星のミステリアスな動きの正体と、それを机の上で再現できる面白い実験をご紹介します。

なぜ「惑う星」と名付けられたのか?

通常の星(恒星)は、お互いの位置関係を変えずに規則正しく空を回っています。ところが、惑星は違います。例えば火星の動きを何ヶ月も観察し続けると、ある方向へ進んでいたかと思えば、急にスピードを落として止まり、なんと来た道を戻り始める(逆行)ことがあります。そしてまた思い出したかのように、元の進行方向へと戻っていくのです。

「なんであんな動きをするんだろう?」

これは昔の天文学者たちを大いに悩ませた現象でした。地球を中心にして宇宙を考えていた時代には、この動きは本当に複雑怪奇なものだったのです。しかし、視点を「地球」から「宇宙(太陽中心)」に移すと、この謎は驚くほどスッキリと解けます。この動きについて、暦wikiに非常に優れた図が掲載されていました。

図は暦wikiより引用 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/CFC7C0B12FCEB1.html

「宇宙視点」と「地球視点」をつなぐ実験

上の図のように、宇宙の外側から見れば、地球も火星も太陽の周りをただグルグル回っているだけなのがよくわかりますね。とてもシンプルです。でもなんとなくわかりにくいですよね。わかったようなわからないような。

しかし、私たちは宇宙空間に浮いているわけではなく、動いている地球の上から、動いている火星を見ています。 だからこそ、あのような複雑な動き(見かけの動き)が生まれるのです。この「宇宙視点の単純な動き」が、どのようにして「地球視点の複雑な動き」に見えるのか。これを直感的に理解するために、トレーシングペーパーを使った素晴らしいワークをY先生から教えていただいたので紹介します。

トレーシングペーパーで惑星の軌跡を追う

用意するのは、太陽を中心に地球と火星の軌道が描かれたシートと、トレーシングペーパーです。

① 地球からの視点を作る まずトレーシングペーパーを半分に折り、折り目の上に点を打ちます。この点を「地球」とします。この折り目は、宇宙の彼方にある動かない星(基準となる方向)を見るためのガイドラインになります。

② 1月の位置関係を写し取る 次に、このトレーシングペーパーの折れ線(点線)を、常にシート上の「太陽から伸びる基準線」と平行になるように保ちながら、1月の地球の場所に合わせます。

これは、「地球がどこに移動しても、宇宙の遠くにある星の方向は変わらない」ということを再現しています。

③ 地球から火星を見る そして、トレーシングペーパー上の「1月の地球」から、シート上の「1月の火星」の場所に向かって定規で直線を引きます。さらにその先に点を打ちます。これが「地球から見た1月の火星の位置」になります。

④ 1年分の動きを追跡する 同様にして2月も行います。2月の地球の位置にトレーシングペーパーの地球を重ねます。この時も必ず、折れ目の線と太陽の線が平行になるように置くのが最大のポイントです。そして、2月の火星の方に線を伸ばして記録します。

これを地道に12月まで繰り返していくと……トレーシングペーパーの上には、不思議な図形が浮かび上がってきます。

浮かび上がった「惑う」正体

記録された点を1月から順番に線で結んでみましょう。すると、どうなるでしょうか。

ご覧ください! 見事にくるりとループした線が描けました。 ちょうど5月頃に一度進む向きが逆になり(逆行)、7月頃にまた折り返して元の方向へ進む(順行)様子が再現されています。

これは、内側を回る地球の方がスピードが速く、外側を回るゆっくりな火星を追い抜くときに起こる現象です。高速道路で速い車が遅い車を追い抜くとき、相手の車がまるで後ろに下がっていくように見えるのと同じ理屈ですね。

単純な円運動の組み合わせから、こんなに複雑な「惑う」動きが生まれる。この仕組みに気づいた昔の科学者たちの感動を、ぜひこの作業を通して追体験してみてください。

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