視点を変えれば物理は面白い!「慣性の法則」と「慣性力」の違いって何?【動画で一目瞭然!】

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

急発進した電車やバスの中で、体がグッと後ろに引っ張られるように感じた経験はありませんか? 逆に、急ブレーキがかかると、今度は前のめりにつんのめってしまいますよね。私たちはこの時、まるで「見えない力」に押されたかのように感じます。この不思議な現象の裏には、物理学の基本的ながらも非常に奥深い原理、「慣性の法則」と「慣性力」が隠されています。今回は、この二つの関係が驚くほどよくわかる動画実験を通して、視点を変えるだけで世界の「見え方」が変わる、物理の面白さへとご案内します。

まずはとにかくこちらの動画をご覧ください。

静止した世界からの視点:「慣性の法則」

いかがでしょうか。動画の前半は、カメラを地面に固定して撮影しています。物理の言葉で言うと、「静止系」からの視点です。これは、道端に立って台車の動きを眺めている作業員さんと同じ目線ですね。

静止系からの観察

下の台車だけが動く様子

下の台車を動かしても、その上に置かれたもう一つの台車は、ほとんどその場から動かないのがわかります。これは、物体が「今の運動状態を続けようとする性質」である「慣性の法則」がはたらいているからです。上の台車は、もともと止まっていたので、下の台車がどう動こうと、その場に「止まり続けよう」とするのです。とてもシンプルですね。外から見れば、特別な力は何もはたらいていないように見えます。

動く世界からの視点:「慣性力」の出現

次に、動画の後半です。今度はカメラを下の台車に固定し、台車と一緒に動く視点で見てみましょう。これは物理で言う「加速系(非慣性系)」の視点。つまり、台車の上にいる人の目線です。

加速系からの観察

この視点から見ると、風景は一変します。下の台車を前に動かす(加速させる)と、上の台車はまるで後ろ向きの力に押されたかのように後退します。

前に動かすと後ろへ

逆に、台車を後ろに動かすと、今度は前のめりになります。

後ろに動かすと前へ

電車の中で転がる空き缶のように、誰かが押したり引いたりしているわけでもないのに、不思議な力がはたらいているように見えますね。この「見かけの力」、それこそが「慣性力」の正体です。加速している乗り物の中にいる人にとっては、自分たちが基準になるため、その場に留まろうとする物体の「慣性」が、自分たちとは反対向きに動く「力」として観測されるのです。

視点を変えれば、世界が変わる

結局、上の台車に起こっている現象はたった一つです。しかし、それを「静止した外の世界」から見るか、「加速する台車の中」から見るかで、説明の仕方が変わってきます。

  • 静止系(外から見る):上の台車は「慣性の法則」によって、ただその場に留まろうとしているだけ。
  • 加速系(一緒に動く):上の台車には、進行方向と逆向きの「慣性力」という見かけの力がはたらいているように見える。

「慣性力」は、あくまで加速する乗り物の中だけで通用する「見かけの力」ですが、これを導入することで、その乗り物の中での物の動きを非常にうまく説明できます。このように、「誰の立場で現象を観察するか」を考えることは、物理学の醍醐味の一つ。実はこの考え方は、かの有名なアインシュタインが築いた相対性理論にもつながる、科学の根幹をなす非常に重要な発想なのです。日常に潜む「なぜ?」に目を向けると、壮大な科学の世界への扉が開くかもしれませんね。

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