静電気で”超サイヤ人”に!理科教師が20年越しで叶えた、髪の毛逆立ち大作戦

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

冬の乾燥した日、ドアノブに触れて「バチッ!」、セーターを脱げば「パチパチ…」。誰もが経験するこの現象、「静電気」。少し厄介なこの存在が、実はアニメのヒーローのようなとてつもないパワーを秘めていることをご存知ですか?

これは、目に見えない電気の力に心を奪われた一人の少年が、長年の夢を追い求め、ついに静電気の達人になるまでの物語です。

運命の出会いは、一枚の写真から

小学生のころから、磁石や電気の不思議に魅了されていました。特に、触れてもいないのに物を動かす、あの目に見えない力にワクワクしていたのを覚えています。そして中学生になったある日、僕は理科の資料集で運命的な一枚の写真と出会います。

そこに写っていたのは、「静電気発生装置(バンデグラフ)」。

銀色のボールに手を置いた女の子の髪が、まるで重力から解き放たれたかのように、すべて天に向かって逆立っている。その姿は、僕の大好きなアニメのヒーローが必殺技を放つ直前のようで、「いつか自分も、この”超サイヤ人”のような写真を撮ってみたい!」と強く心に誓った瞬間でした。

バンデグラフで髪が逆立つ女の子の写真

初めてのバンデグラフ体験は、ほろ苦い「ビリッ」

高校生になり、物理実験室の片隅でついに憧れのバンデグラフを発見! 僕は先生に頼み込み、念願だった初体験のチャンスを掴みました。高鳴る胸を押さえ、スイッチオン! しかし…何度やっても髪は逆立ちません。手に「ビリッ」と感じる微かな刺激だけが、確かに電気が流れていることを教えてくれました。

原因は、今思えば単純なことでした。

  1. 髪の毛が短すぎて、逆立つほどの長さがなかった
  2. 体をしっかり「絶縁」していなかった

せっかく体に溜めた静電気が、足を通して地面に逃げてしまっていたのです。電気は水と同じように、常に流れやすい場所を求めて移動する性質があります。僕の体は、電気を溜めるバケツではなく、ただのザルになっていたのですね。

それでも、この失敗と手のひらに感じた確かな電気の力は、「もっと上手くやれば、絶対にあの写真のようになれる!」という確信と、科学への探求心をさらに燃え上がらせる、最初の火花となったのです。

夢、叶う! 髪よ、天に届け!

そして現在、理科の教員となった僕は、あきらめきれなかった子供の頃の夢を叶えるべく、研究と実験を重ねました。どうすれば電気を体に効率よく溜められるのか? どんな素材で絶縁するのがベストなのか? 試行錯誤の末、ついに理想の髪逆立ち写真を撮ることに成功したのです!

今回は、長年の研究の成果である「科学のレシピ」を皆さんに伝授します。

科学のレシピ:静電気で髪を逆立てる方法
用意するもの:バンデグラフ、カツラ、絶縁台

ステップ1:カツラの選定【反発する力を最大限に!】

地毛でももちろん可能ですが、よりダイナミックな逆立ちを目指すならカツラがおすすめです。いろいろ試した結果、僕がたどり着いた最適解は「ボブ」でした。

【科学のポイント】

なぜボブが良いのか? それは、髪の毛一本一本が軽いためです。バンデグラフで体に静電気を溜めると、髪の毛はすべて同じ種類の電気(例えばマイナス)を帯びます。磁石の同じ極同士が反発するように、マイナス電気を帯びた髪の毛同士も「隣に来るな!」と互いに反発し合います。この反発力が髪の毛を重力に逆らって持ち上げるのですが、髪が長くて重いと、その分大きな力が必要になります。軽くて短いボブスタイルは、静電気の力で持ち上がりやすい、まさに理想のスタイルなのです。

ステップ2:最強の絶縁台を作る【電気を体に閉じ込めろ!】

体に溜めた静電気を地面に逃がさないための「絶縁台」が、この実験の成功を左右する最も重要なアイテムです。僕は、プラスチック製の椅子(IKEAで購入)の足の裏に、電気を通しにくいゴムシートをカットして貼り付け、オリジナルの絶縁台を製作しました。

自作の絶縁台

【科学のポイント】
電気を通しやすい物質を「導体」、通しにくい物質を「絶縁体(不導体)」と呼びます。人の体や地面は電気を通しやすい導体です。そのため、そのままバンデグラフに触っても、電気は体を通ってすぐに地面に流れてしまいます。プラスチックやゴムのような絶縁体で体を地面から物理的に切り離すことで、初めて体は電気を溜め込む「蓄電池」のようになれるのです。

ステップ3:いざ、実践!【静電気と一体化せよ】

準備が整ったら、カツラをかぶり、絶縁台の上に乗ります。そして、ゆっくりとバンデグラフの金属球に手を触れ、全身に電気が行き渡るのを感じましょう。すると…!

髪の毛が逆立った筆者の写真

長年の夢が実現した瞬間です! この浮遊感と髪が逆立つ感覚は、何度やっても感動します。ぜひ皆さんも、この不思議で最高に楽しい体験をしてみてください。やみつきになること、間違いなしです。

ちなみに、マネキンを使っても同様の実験ができますよ。

静電気は、もっと面白くなる!

このバンデグラフを使えば、髪を逆立てる以外にも、たくさんの面白実験ができます。実は、これらの実験は、広瀬すずさん、鈴木亮平さん、やす子さん、チョコレートプラネットさんといった多くの有名人と一緒にテレビ番組で行ったものでもあります。その驚きの実験の数々はこちらで詳しく紹介しています

テレビ番組での実験の様子

※ 注意:静電気発生装置(バンデグラフ)を用いた実験は、非常に高い電圧を発生させます。必ず専門家の指導のもと、安全に十分配慮して行ってください。

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【特集】きっと、やめられなくなる!静電気実験の世界

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