単位は人類の冒険だ!メートルと秒の物語を知れば、物理はもっと好きになる
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
「中学までは物理が得意で、ヒーローみたいだったのに…。高校に入った途端、まるで知らない国の言葉を聞いているみたいで、すっかり迷子になってしまった。」
そんな風に感じている高校生はいませんか?先日、まさにそんな悩みを抱える高校2年生のYさんから、一通のメールが届きました。
いつも楽しく参考にしています。現在高校2年生です。物理が得意だったのですが、高校に入っていきなりわからなくなりました。…(中略)…何か中学と高校での違いのようなものはあるのでしょうか。
(Yさん)
Yさん、メールをありがとうございます!この悩み、実はものすごく多くの高校生が同じように感じています。そして、その「壁」の正体は、複雑な計算式よりも、もっと身近で根本的なことにある場合がほとんどなのです。その最大のポイントが、「数」と「量」の違いを意識できているかどうか。今回は、この物理の世界の「言葉のルール」を解き明かし、物理が再び君の得意科目に変わるための冒険に出かけましょう!
魔法の呪文?物理の世界の言葉「量」とは
突然ですが、友達に「君の身長、いくつ?」と聞かれて「170!」と答えたらどうでしょう?友達は「170…センチ?それともミリ?まさかメートル!?」と困ってしまいますよね。
この会話でいう「170」が、ただの**「数」です。それに対して、「170センチメートル」のように、数字の後ろに「単位」がくっついたものが、物理の世界で話される言葉、「量」**なのです。
数学が「数」そのものの性質を探求する学問なら、物理学は「量」を使って、この世界の仕組みを解き明かす学問です。速さ、重さ、力、エネルギー…物理で扱うものはすべて「量」です。ですから、テストで答えに「m/s」や「N」といった単位をつけ忘れるのは、ただのケアレスミスではありません。それは、身長を聞かれて「170!」とだけ答えているのと同じ。物理の世界の言葉を、まだ 제대로 話せていないサインなのです。まずは、計算結果の数字だけでなく、その「単位」までしっかり意識すること。これが、高校物理の迷宮を抜け出すための、最初の、そして最も重要な一歩になります。
単位は人類の冒険の歴史だ!
「でも、単位って無機質で覚えるのが面倒…」そう思いますよね。でも、実は一つ一つの単位には、人類がこの世界を理解しようと挑んできた、壮大な冒険の物語が隠されているんです。
メートルの物語:地球の大きさを測ろうとした挑戦
例えば、長さの単位「メートル」。今でこそ「光がごく僅かな時間に進む距離」と精密に定義されていますが、その始まりはもっとロマンにあふれていました。
もともと1メートルは、「地球の北極から赤道までの距離の、ちょうど1000万分の1」として決められたのです。すごくないですか?人類が初めて、自分たちが住むこの惑星の大きさを基準に、「誰もが納得できる共通の物差し」を作ろうとした壮大な挑戦の証なのです。
秒の物語:星のリズムに合わせた約束
時間の単位「秒」も同じです。昔は、「1日(地球の自転1回)の長さを24時間×60分×60秒で割ったもの」と決められていました。これも、私たちが最も身近に感じる天体のリズムを基準にした、自然な決め方ですよね。
なぜ定義は変わった?〜宇宙のどこでも通じる言葉へ〜
では、なぜこんなに分かりやすかった定義が、今では「光」や「原子の振動」を基準にした、少し難しいものに変わってしまったのでしょうか?その理由は、科学技術が発展し、**「もっともっと正確で、宇宙のどこへ行っても絶対にブレない物差し」**が必要になったからです。
地球の自転は、実はほんの少しずつ遅くなったり速くなったりします。これでは、GPSのようにナノ秒単位の正確さが求められるシステムは正しく動きません。私たちがスマホで自分の位置を正確に知ることができるのは、まさに「宇宙のどこでも変わらない光の速さ」を基準にした、超精密な時間の単位のおかげなのです。
単位の歴史は、基準を「王様の腕の長さ」といった曖昧なものから、「地球」へ、そして「宇宙の法則」へとアップデートしてきた、人類の知恵の進化の歴史そのものです。
単位と友達になれば、物理は再び面白くなる!
どうでしょう?無機質に見えた単位記号が、少しだけ人間味のある、愛おしいものに見えてきませんか?
物理の公式をただの記号の羅列として暗記するのではなく、「この単位とこの単位をかけ算したら、新しい意味を持つこの単位が生まれたんだな」というように、単位の物語に思いを馳せてみてください。
すぐにテストの点数が上がるわけではないかもしれません。でも、物理学という学問が、いかにしてこの世界の謎を解き明かしてきたか、その壮大なストーリーが見えてくるはずです。そうすれば、高校物理は「難しいだけの科目」から、「世界の成り立ちを知るための冒険」へと変わるでしょう。
Yさん、そして同じように悩んでいる君へ。まずは、教科書に出てくる単位たちと、友達になることから始めてみませんか?
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