【科学監修】なぜ冷える?なぜ暖まる?エアコンの「熱を運ぶ」魔法の正体(読売中高生新聞「科学トラベラー」)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
うだるような暑さの夏、スイッチを押した瞬間に吹き出す冷たい風。凍える冬、帰宅と同時に部屋を暖めてくれる温風。私たちは当たり前のようにエアコンを使っていますが、この「魔法の箱」が、どうやって部屋の「熱」だけを自在に動かしているのか、不思議に思ったことはありませんか?
実はこの驚きの技術の裏には、壮大な科学の物語が隠されています。先日、私が監修を担当している読売中高生新聞の人気コーナー「科学トラベラー」で、このエアコンの秘密に迫りました。今回は技術のプロフェッショナルである三菱重工業さんのご協力もいただき、身近なハイテク技術を徹底解剖しています。
さあ、一緒にエアコンという魔法の箱の扉を開けてみましょう!
エアコンの仕事は「熱のお引越し」だった!
エアコンの仕事を一言でいうと、実はとてもシンプルな「熱のお引越し」です。
冷房のとき → 部屋の中の熱を、外へ運び出す(捨てる)
暖房のとき → 外の空気にある熱を、部屋の中へ運び込む(拾ってくる)
「え、冬の寒い外気から熱を拾ってくるなんてできるの?」と思いますよね。実はできてしまうんです。そのパワフルな引越作業を可能にしているのが、エアコン内部を駆け巡る「熱の運び屋」の存在です。
運び屋の正体は「冷媒」!変身する小さな働き者
その熱の運び屋の正体は、「冷媒(れいばい)」という特殊な物質です。この冷媒が、室内機と室外機の間をぐるぐる回りながら、液体になったり気体になったり姿を変えることで、熱を運ぶという重要な役割を担っています。冷媒が利用しているのは、私たちのとても身近にある科学の原理です。
冷房の秘密は「気化熱」―汗が乾くと涼しいのと同じ原理
注射の前にアルコールで腕を拭くと、ヒヤッとしますよね。あれは、液体であるアルコールが蒸発して気体になるときに、私たちの肌から熱を奪っていく「気化熱」という現象です。汗が乾くときに涼しく感じるのも同じ原理です。
エアコンの冷房は、まさにこれを利用しています。室内機の中で、液体だった冷媒を気化させる(蒸発させる)ことで、部屋の空気から大量の熱を奪い、冷たい風を送り出しているのです。
魔法の鍵を握る「圧力」と「熱力学」
「でも、熱を奪った冷媒はどうなるの?」と思いますよね。ここで登場するのが、高校物理で学ぶ「熱力学」の知識です。
気体は圧縮する(圧力をかける)と温度が上がる
気体は膨張する(圧力を下げる)と温度が下がる
スプレー缶を使い続けると缶が冷たくなるのは、中身が外に出るときに急激に膨張して温度が下がるからです。逆に、自転車の空気入れでタイヤに空気を入れると、ポンプが熱くなるのは空気を圧縮しているからです。
エアコンは、この法則を巧みに使っています。
【室内機】 部屋の熱を奪って気体になった冷媒は、室外機へ送られます。
【室外機】 室外機の「圧縮機」で、この気体の冷媒をギュッと圧縮します。すると、冷媒は空気よりもずっと高温になります。
【熱の放出】 高温になった冷媒は、外の空気に熱を放出します。このとき、気体だった冷媒は熱を失い、再び液体へと姿を変えます。(※これは気化熱の逆で「凝縮熱」といい、湯気が水滴になるときに熱を出すのと同じ原理です)
【室内機へ】 液体に戻った冷媒は、室内機へ送られ、そこで圧力を下げられて急激に膨張し、再び冷たくなります。
このサイクルを繰り返すことで、効率よく部屋の熱を外に運び続けているのです。暖房の場合は、このサイクルが全く逆の動きをします。この技術は「ヒートポンプ」と呼ばれ、使った電気エネルギーの何倍もの熱エネルギーを運ぶことができる、非常に優れた省エネ技術なのです。
普段何気なく使っているエアコンに、これほど壮大な科学の物語が詰まっているなんて、ワクワクしませんか?
新聞記事では、最新の省エネ技術なども交えて、この仕組みをさらに分かりやすく解説しています。高校で物理を学んでいる人はもちろん、科学に興味のある方なら誰でも楽しめる内容です。ぜひご一読いただき、身近なテクノロジーの奥深さに触れてみてください。
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