動く導体棒にブレーキがかかる謎を3ステップで解明!【物理基礎解説講座】
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
皆さんの身の回りには、リニアモーターカーやIHクッキングヒーターなど、触れてもいないのに力が働いたり、熱が発生したりする不思議な技術がたくさんありますよね。実はその多くが、今回お話しする「電磁誘導」という現象を利用しています。
「なぜ導体棒を動かすと、見えない力でブレーキがかかるの?」
先日、生徒さんからこんな素敵な質問を受けました。これは物理の面白いところがギュッと詰まった問題です。今日はこの謎を解き明かすために、少しアレンジした問題を通して、皆さんと一緒に電磁誘導の世界を探検してみたいと思います!
なお、回路に電池がついているパターンの問題はこちらをご覧ください。
問題
図のように上向きの磁束密度Bが貫く空間の中に、カタカナの「コ」の形をした導線を水平にして置いた。この導線には抵抗Rがついている。この導線の上に質量の無視できる軽い導体棒(長さL)をおいて、質量mのおもりで引っ張った。次の各問に答えなさい。ただし、重力加速度はgとする。
(1) 導体棒の速度がある速さvになったときの、誘導起電力の大きさと向きを求めなさい。
(2) 回路に流れる電流の大きさを求めなさい。
(3) 棒にはたらく電流が磁場から受ける力の大きさと向きを求めなさい。
(4) 時間が十分経過すると、導体棒は一定の速さで移動をした。このときの速さv₀を求めなさい。
解答・解説
現象の全体像を3ステップでつかもう!
さて、この問題、一見すると少し難しく感じるかもしれません。ミクロな視点のローレンツ力と、マクロな視点の電流が磁場から受ける力、両方の考え方が必要になるからです。
でも大丈夫!これから起こる現象を、次の3つのステップに分けて見ていくと、全体のストーリーがすっきりと理解できます。
- 棒が「電池」に変身する
- 回路に「電流」が走り出す
- 不思議な「ブレーキ」がかかる
一つずつ、じっくり見ていきましょう。
ステップ1:動く棒が「電池」に変身する!?
導体棒が右に動くとき、棒の中にあるプラスの電気(電荷)も一緒に右へ動きます。(※本当はマイナスの電気を持つ自由電子が動きますが、プラスの電気が動くと考えると分かりやすいです。)
ここで登場するのが「ローレンツ力」です。磁場の中で電気が動くと、特別な力を受けます。皆さんが中学校で習った「フレミングの左手の法則」を思い出してください。あれと同じ力が、ミクロな電気の世界で働いているのです。
この法則に従うと、右に動くプラスの電気は、図の手前側に向かって力を受けます。この力によって、プラスの電気が手前側に集められます。つまり、導体棒の手前側がプラス極、奥側がマイナス極となり、まるで電池のようになるのです!この時に発生する電圧を「誘導起電力」と呼びます。
ステップ2:回路に「電流」が走り出す!
ステップ1で導体棒が電池になったことで、回路には電気が流れる道ができました。プラス極(手前)からマイナス極(奥)へ向かって、抵抗Rを通り、ぐるっと一周する電流が流れます。
ステップ3:不思議なブレーキの正体は「レンツの法則」
ここが一番のポイントです。ステップ2で流れた電流は、磁場の中から力を受けます。これも「フレミングの左手の法則」で考えることができます。今度は導体棒全体を流れる電流(マクロな視点)で考えてみましょう。
すると、なんと電流は導体棒の動きを妨げる向き(左向き)に力を受けるのです。これが「ブレーキ」の正体です。
この現象は、物理学の大切な法則である「レンツの法則」で説明できます。この法則は「電磁誘導は、その原因となる磁場の変化を妨げる向きに起こる」という、自然界の “あまのじゃく” な性質を表しています。導体棒が動いて回路の面積が増えると、コイルを貫く上向きの磁場が増えます。すると、回路は「磁場が増えるのは嫌だ!」と、それを打ち消す下向きの磁場を作ろうとします。その結果、ブレーキとして働く力が生まれるのです。面白いですよね。
この現象は、実は物理学の根幹をなす「エネルギー保存則」の美しい現れでもあります。おもりが下に落ちることで失った位置エネルギーは、どこにも消えません。それは回路を流れる電流となり、最終的に抵抗Rでジュール熱という熱エネルギーに変換されているのです。エネルギーは姿を変えるだけで、決してなくならないのですね。
さあ、全体の流れが見えてきましたか?この3ステップを合言葉にしておきましょう!
電池、電流、ブレーキ!
この順番で考えれば、もう迷うことはありません。それでは、問題を解いてみましょう!
問題の解説
(1) 導体棒の速度がある速さvになったときの、誘導起電力の大きさと向きを求めなさい。
これはステップ1の「電池」の話ですね。誘導起電力の大きさ V は、公式 V=Blv で求められます。向きは、ローレンツ力によりプラスの電気が集まる手前側がプラスになります。
(2) 回路に流れる電流の大きさを求めなさい。
ステップ2の「電流」の話です。回路全体でオームの法則 V=IR を使います。これを電流 I について解くと I=V/R となります。(1)で求めた誘導起電力 V=Blv を代入すると、
となります。
(3) 棒にはたらく電流が磁場から受ける力の大きさと向きを求めなさい。
ステップ3の「ブレーキ」の力の計算です。電流が磁場から受ける力の公式 F=IBl を使います。(※問題文のBとLの順番と合わせています)
この式の I に(2)で求めた電流を代入すると、
となります。向きは、フレミングの左手の法則から左向きです。
(4) 時間が十分経過すると、導体棒は一定の速さで移動をした。このときの速さ v0を求めなさい。
導体棒の速さが一定になったということは、加速も減速もしていない状態、つまり力がつり合っている状態です。導体棒には、おもりが引く右向きの力(張力 T)と、(3)で求めた左向きのブレーキの力が働いています。
よって、力のつり合いの式は、
(左向きの力)=(右向きの力)

また、おもりも一定の速さで動いているので、おもりにはたらく力もつり合っています。
(上向きの力)=(下向きの力)
T=mg
この2つの式から T を消去すると、
これを終端速度 v0について解くと、答えが求まります。
一見すると不思議な現象も、電池・電流・ブレーキという3つのステップと、その背後にあるローレンツ力やレンツの法則で、きちんと説明できることが分かりましたね。物理の世界は、基本的なルールを組み合わせることで、複雑な現象も解き明かせる、とても面白い学問です。ぜひ、身の回りの「なぜ?」を探してみてください!
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