宇宙の設計図?世界を動かす「魔法の数字」物理定数の秘密(おぼえておきたい高校物理の定数)

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

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宇宙の始まりから、あなたの手の中にあるスマートフォンの仕組みまで、この世界のすべてが、実はたったいくつかの「数字」によって支配されているとしたら、信じられますか?まるでSF映画のような話ですが、物理学の世界では、それが当たり前の事実なのです。今回は、私たちの宇宙の「設計図」ともいえる、不思議で面白い物理定数の世界へご案内します!

物理学者は「10の何乗」で世界を見る

先日、素粒子物理学者の多田将先生をお招きして講演をしていただいたとき、こんなやりとりがありました。多田先生「原子の大きさはだいたい10^-10mで、人間は1mくらいだから…」生徒たち「(ざわざわ…笑い声)」多田先生「え、何かおかしかったかな?(人間の大きさが1mというのが大雑把すぎたかな?)。

でもね、物理学者はまず大雑把な10の乗数をおぼえておくことが大切なんだよ。」この会話を聞いて、物理の世界では、細かな数字よりもまず「桁数」、つまりスケール感を掴むことがいかに重要かを改めて感じました。0がいくつ付くのかで、原子の世界から宇宙の果てまでを自由に行き来できる。物理定数は、まさにそのための「魔法の呪文」のようなものなのです。

宇宙の形を決める「大きな」定数たち

まずは、私たちが住む宇宙の構造そのものを決めている定数を見てみましょう。光速 c:秒速約30万km。これは宇宙の最高速度であり、アインシュタインの有名な式 E=mc^2 にも登場します。この定数が少しでも違っていたら、星の輝き方から時間の流れ方まで、全く違う宇宙になっていたかもしれません。

万有引力定数 G:すべてのものが引き合う力、「重力」の強さを決める定数です。実はこのG、他の力に比べてとてつもなく小さい(10^-11乗)のが特徴です。だから私たちは、地球の巨大な引力を感じつつも、隣の人といきなりくっついたりしないのです。この絶妙な弱さのおかげで、惑星や銀河が現在の美しい形を保っていられるのですね。

電気と磁気、そして光をつなぐ不思議な関係

次に、私たちの文明を支える電気や磁気の世界を覗いてみましょう。

真空の誘電率 ε_0 と 真空の透磁率 μ_0:それぞれ、電場と磁場の伝わりやすさを示す定数です。一見すると、ただの難しい記号に見えますよね。しかし、この二つを掛け合わせて平方根をとり、逆数を計算すると…不思議なことに、なんと光速cと全く同じ値になるのです!

これは、19世紀の物理学者マクスウェルが発見した大発見で、「光の正体は、電場と磁場が互いに影響し合いながら進む波(電磁波)である」ことを示しています。電気と磁気という全く別の現象が、光という形で結びついた瞬間でした。

ミクロの世界のルールブック

原子や電子といった、目に見えない小さな世界の定数たちです。プランク定数h:10^-34乗という、とてつもなく小さなこの定数は、エネルギーが実は「つぶつぶ」の塊(量子)であることを示す、量子力学の根幹をなす数字です。この定数が存在することで、原子が安定して存在できるのです。

電気素量 e:電子1個が持つ電気量の「最小単位」です。どんな電気量も、必ずこのeの整数倍になっています。

アボガドロ定数 N_A:鉛筆を12本集めて「1ダース」と呼ぶように、原子や分子を約6.0 *10^23個集めた集団を「1モル」と呼びます。このとてつもない数がアボガドロ定数で、化学の世界では欠かせない定数です。

ボルツマン定数 k:目に見えない原子や分子の激しい運動(ミクロなエネルギー)と、私たちが肌で感じる「温度」(マクロな熱)とを結びつける、重要な架け橋となる定数です。

物理定数一覧

ここで、今回登場した定数たちを一覧で見てみましょう。それぞれの「10の何乗」が、どのくらい違うのか、そのスケール感を感じてみてください。

物理定数 10の何乗 単位 もう少し正確には
光速c 8乗 m/s 3.0×108 m/s
真空の透磁率μ0 −7乗 Wb/Am 4π×10−7 Wb/Am
真空の誘電率ε0 −12乗 C2/Nm2 8.9×10−12 C2/Nm2
万有引力定数G −11乗 Nm2/kg2 6.6×10−11 Nm2/kg2
クーロン定数k −9乗 Nm2/C2 9.0×10−9 Nm2/C2
プランク定数h −34乗 Js 6.6×10−34 Js
電気素量e −19乗 C 1.6×10−19 C
電子の質量me −31乗 kg 9.1×10-31 kg
陽子の質量mP −27乗 kg 1.67×10−27 kg
陽子と電子の質量比 3乗 1836倍
比電荷e/m 11乗 C/kg 1.7×1011  C/kg
アボガドロ定数NA 23乗 / mol 6.0×1023 /mol
気体定数R 1乗 J/(mol K) 8.3 J/(mol K)
リュードベリ定数R 7乗 /m 1.09×107 /m
ボルツマン定数k −23乗 J/K 1.38×10−23 J/K

今回紹介した以外にも、様々な物理定数が存在します。興味が湧いた方は、ぜひこちらのwikipediaのページなども御覧ください。宇宙の法則を解き明かす鍵が、もっとたくさん見つかるはずです。

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