「密度」を使って謎の金属の正体を暴け!実験から学ぶ「誤差」と「安全」の極意
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
みなさんは、目の前にある金属の塊を見て、「これが何の金属でできているか」をどうやって見分けますか? 見た目だけでは、鉄なのか、アルミニウムなのか、それとも銀なのか、なかなかわかりませんよね。実は、中学1年生の理科で学ぶ「ある実験」を行うと、まるで探偵のようにその金属の正体を暴くことができるのです。今日は、科学の基礎でありながら、奥深い「密度の測定実験」の授業風景と、そこで学ぶ大切な科学の作法についてご紹介します。

物質の「指紋」を探せ!密度の測定
本校の授業では、正体不明の3つの金属(ボルト・バネ状の金属・円錐状の金属)を生徒たちに渡します。 この金属が何でできているのかを突き止める鍵、それが「密度」です。密度とは、物質1㎤あたりの質量のことで、物質ごとに決まった値を持っています。いわば、物質の指紋のようなものです。

この指紋を照合するために、生徒たちは以下の手順でデータを集めます。電子天秤を使って「質量」を測る。メスシリンダーを使って「体積」を測る。「質量 ÷ 体積」の計算をして、密度を求める。シンプルな手順ですが、ここには科学実験の基本がぎっしりと詰まっているのです。
メスシリンダーは「誤差」との戦い
この実験で最も神経を使うのが、メスシリンダーを使った体積の測定です。 液体の中に金属を沈め、増えた水の量から体積を割り出すのですが、適当にやってはいけません。ここで生徒たちには、「真値(本当の値)」と「測定値(測った値)」、そしてその間に生まれる「誤差」について深く考えてもらいます。
質量については電子天秤で測ります。

また体積については、正確な値を追い求めるため、メスシリンダーの使い方には正確にはかるためのルールがあります。メスシリンダーの使い方については、こちらの動画で詳しくまとめられています。
水平な台の上に置く:斜めになっていると水面が正しく読めません。
目線は液面と同じ高さに:上から見たり下から見たりすると、目盛りがずれて見えてしまいます。
最小目盛りの1/10まで目分量で読む:中学理科のお作法です。実際はできるだけ読めるだけ読むということがポイントです。
なぜ「1/10」まで読むのでしょうか? 例えば目盛りが「35」と「36」の間にあったとき、「35.5くらいかな?」と読むことで、四捨五入したときにより真の値に近づけることができるからです。これを有効数字といいます。
また、安全面での工夫も欠かせません。 金属のおもりには「釣り糸」をつけています。ガラス製のメスシリンダーの中に金属をそのまま落とすと、ガチャン!と底が抜けて割れてしまう恐れがあります。 「ガラスが割れないように、釣り糸を持ってゆっくりと沈めること」。 これを徹底することで、道具を大切に扱う心構えと、安全への配慮を自然と身につけていきます。
個人のデータが集まり「法則」になる感動
実験が進むと、各班からデータが出てきます。しかし、一つの班だけのデータでは、「たまたまそうなっただけでは?」という疑いが残りますし、測定には必ず誤差が含まれます。そこで、クラス全員の出番です。 全班の結果を持ち寄り、縦軸に「質量」、横軸に「体積」をとってグラフにプロットしていきます。
すると、どうでしょう。 バラバラに見えた各班の点が、見事に1つの直線の周りに集まってくるのです!
この直線の「傾き」こそが、その物質の密度を表しています。 「自分たちの班のデータは少しずれていたけれど、クラス全体で見るとこの線に乗っている!」 この瞬間、生徒たちは「誤差」を超えて、物質が持つ普遍的な性質(=密度)を視覚的に理解します。
個々の小さな測定が、集まることで大きな真実を描き出す。これこそが科学実験の醍醐味ですね。
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