お弁当のフタで波を可視化!〜y-xグラフとy-tグラフを“立体的”に理解させるアナログ教材〜

桑子研
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

波動分野の理解において、生徒がつまずきやすいポイントのひとつがy-xグラフとy-tグラフの区別です。グラフそのものは描けるけれど、それが「何を表しているのか」が曖昧なまま進んでしまいがち。頭の中で波の様子をイメージできていないと、式やグラフがただの記号の羅列になってしまいます。

そこで紹介したいのが、夏季講座で披露した**「お弁当のフタ」モデルです。このアナログ教材、見た目は地味ながら3次元的に波の伝わり方を体感させることができる**優れモノ。私自身も「これはわかりやすい!」と実感したので、ぜひご紹介したいと思います。

y-xグラフとy-tグラフの違い、どう教える?

まず、基礎のおさらいです。
• y-xグラフは「ある時刻の波の形」を示すもの。
→ ちょうど波を“写真”に撮ったようなイメージです。

• y-tグラフは「ある位置での媒質の振動の様子」を示すもの。
→ これは固定した点を“動画”で記録したようなイメージです。

ここまでは概念として話せますが、生徒にとって混乱のもとは、この2つが数学的に同時に扱われる瞬間。すなわち、y=sin(t−x) のような関数が登場すると、時間と位置が一緒に変化するため、感覚がついていかなくなるのです。この関数をグラフにすると、「t」と「x」と「y」の3つの軸を持つ3次元の波になります。Grapherなどで描くと以下のような形に。

立体で「波の伝わり」を表現する──お弁当のフタモデル

この難解な3次元の動きを視覚化するために考案したのが「お弁当のフタ教材」です。構造はとてもシンプル。

【材料】
• 透明なお弁当のフタ(7枚以上が理想)

• 油性ペン(波の形を描く用)

• シール(任意の媒質位置を強調)

【作り方とポイント】
1. 各フタに、波の形を少しずつ時間的にずらして描いていく(パラパラ漫画の要領)。

2. フタを重ねて立てることで、時間軸に沿った波の動きを空間に再現できる。

3. 特定の媒質に、例えば原点には青、他の場所には金のシールを貼ることで、異なる位置での振動のタイミング差もわかりやすくなる。

何が見えてくるか?──波の右向き伝播と媒質の振動タイミング

実際にモデルを見ると、以下のような理解が自然に導かれます。
• 山の部分が奥から手前へ右に移動しているように見える。
→ 波が右方向に伝わっていることが一目瞭然。

わかりにくいと思いますが、7枚のフタが重なっています。また原点(中心)の媒質には青いシールを、任意の点xとして金のシールを適当なところの同じ場所にはりました。すこし角度を変えてみましょう。

「山」に注目をしてください。

山とつけた部分が奥から手前にかけて右に少しずつ移動をしてくるのがわかりますか?つまり波が右に動いていることがわかります。

次に青と金のシールをみてください。

青い媒質が下上に振動をしています。金色の媒質は少しずれて振動をしています。青と金を比べると、

青い媒質が振動をしてから、金色の媒質が振動をはじめるのがわかりますね。

• 青と金のシールを比較すると、
→ 青が振動してから、金が振動する。
→ 振動が時間差をもって広がっていく様子が可視化される。

このことから、「原点の媒質がy=sin(ωt)で振動するなら、位置xの媒質は時間的にx/v遅れて同じ振動をする」→ よって式は y=sin{ω(t−x/v)} になる、という論理が生徒の中で腑に落ちてきます。

実物教材の力は強い!

このフタ教材、実際に生徒に見せると「おぉ〜!」という声があがります。アニメーションや動画と違い、自分の視点や角度を変えて観察できるというのが理解につながっているようです。

手作りですが、費用も時間もそれほどかかりませんので、授業でもぜひ取り入れてみてください。単元テストの後の補強や、夏の自由研究にもぴったりです!

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