指示をなくしたら96%が理解したと回答!中学理科・オームの法則を探究型にリニューアルした記録

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

「先生が一言も指示を出していないのに、生徒が黙々と、そして嬉々として実験に没頭している」

そんな光景、あなたは想像できますか?実は、授業の組み替えをしてみたところ、教室の空気が別物に変わりました。今回は、長年「指示過多」に悩んでいたオームの法則の実験を、生徒が自分たちで問いを追う”探究型”にリニューアルした記録をお届けします。

従来の実験の問題点

オームの法則の実験はとても指示が多く、こちらの記事を見てもわかるように、生徒の様子を見ていると探究をしているというよりも、教師の指示に従って動いているという感じがしていました。

目に見えない電気を「見える」にする!オームの法則実験を成功させる4つの準備術(指示の多い実験)

回路を組む段階で手こずる生徒が意外と多く、前回の授業で回路接続の練習をしたにもかかわらず、機器の操作についての経験がもう少し必要だと痛感しました。また電源装置もくせものです。20Vまで出てしまうという危険性があるため、教師も慎重に使い方を指示しなければなりません。豆電球から抵抗器に変わる点も「なぜ?」となりやすいポイントです。そのため、どうしても実験をレシピ通りに進める流れになってしまう。これが長年の悩みでした。

こちらが従来のプリントなのですが、指示が多く、また測定間隔も教師が事前に作っていて、グラフも用意しています。まさに至れり尽くせりの状態です。

指示が多いプリントですね。

新しい探究型のオームの法則へのシフト(全8時間)

そこで今回は発想を転換しました。「困り感」を減らすのではなく、「余白」を増やす——そのためのアプローチとして、乾電池から電源装置への切り替え豆電球から抵抗器への切り替えをより早い段階に持ってきたうえ、電流計と電圧計をデジタルに変えることで「装置での困り感」を先に取り除き、代わりに思考の余白を生み出せるかどうかを検証しました。

この実験は、次の授業の流れを経てたどり着いたものです。

詳しい内容については、こちらの記事をご覧ください。

そして、オームの法則の実験には3時間(9時間目・10時間・11時間目)を確保しました。

オームの法則1時間目:実験計画の立案

まず1時間目は、実験計画の立案に丸ごと使いました。生徒に与えた学習課題はシンプルなひと言です。

「抵抗器に流れる電流と抵抗器にはたらく電圧には、どのような関係があるのだろうか?」

ここで少し科学の話を。オームの法則は1827年、ドイツの物理学者オームが発見した法則で、電流(I)・電圧(V)・抵抗(R)の間には「V=IR」という美しい比例関係があることを示しています。この発見は当時の学界では冷たく受け流されましたが、後の電気工学の礎となりました。生徒たちが今回の授業でたどる道は、約200年前にオームが踏み出したのと同じ道なのです。

従来のプリントですと指示が非常に多くありましたが、今回はほとんど指示のないまっさらなプリントです。


従来のものと比べるとその差は歴然ですね。


はじめに仮説を立ててもらいますが、たくさんの時間を使わずに2分程度でどんなグラフになるのか、理由についてもサッと立てさせました。生徒のグラフを見ると、多くは比例関係を予想していましたが、横軸が電流だったり電圧だったりとバラバラ。

中には「電圧をかけると電流がだんだん小さくなって一定値に近づく」という、コンデンサーや非線形素子を連想させる面白い予想をした生徒もいました。実はこの予想、まったくの的外れとも言えないのが面白いところです。コンデンサー(電気を蓄えるパーツ)に直流電圧をかけると、確かに最初は大きな電流が流れ、徐々に電流がゼロに近づきます。

この生徒が描いたグラフは、中学理科の範囲を飛び越えた直感から生まれたものかもしれません。教師はここでまとめようとはせず、全体に共有するにとどめました。


その後、実験計画をじっくり練る時間を取りました。意識させたのは「実験時間は20分」という制約です。20分の間実験できるということを強く伝えて、計画立てをしました。抵抗器といってもセメント抵抗からジュール熱実験で使うばね状のものまで様々あることを実物を見せながら紹介しました。


生徒はほぼ白紙の用紙に自分たちの実験計画を書いていきます。0.5Vずつの刻みでやろうとする班もあれば、


0.2Vで非常に細かくやろうとする班、


0.5Vずつ複数の抵抗で実験をする班もあります。


早く検証計画が立て終わった班については、「それで電流と電圧の関係がわかったと言えるのかな?他の班のやり方は違うから、見に行ってみよう」などと声掛けをして、課題に向き合わせ続ける工夫をしました。複数の抵抗器を使って比較する班、0.1V刻みで細かくデータを集めようとする班など、班によって個性豊かな計画が生まれました。

オームの法則2時間目:いよいよ実験本番

2時間目はいよいよ実験の日です。まず前回の目的を全体で再確認しました。

「抵抗器に流れる電流と電圧には、どのような関係があるのだろうか?」

20分間で実験を行い、その後10分でグラフを描き、考察を書いたり他の班の結果を見に行ったりする時間を設けました。実験中の生徒の様子を見ていると、私はほとんど指示を出していないのに、全員が真剣そのもので課題に向き合っていました。「教師が介入しすぎると、生徒の探究心を損なう」そのことを改めて実感した瞬間でした。

小型の電源装置「Petite-X」を使うので安全に実験ができて、回路もスッキリしています。


バネ状の抵抗を選ぶ生徒もいます。


グラフ作りが早く終わった生徒は考察を書かせました。多くの生徒が「電流と電圧には比例関係が見られる」という結論をまとめました。これは従来通りと同じように見えました。ただ、注目すべき記述もありました。ある生徒を指名した時に、

「同じ抵抗器を使うと、電流と電圧には比例関係が見られる。」

といったことです。「同じ抵抗器を使うと」 この一言に気づきが凝縮されています。これは「抵抗値」というもう一つの物理量の存在への気づきであり、オームの法則の本質に自力で迫った瞬間です。グラフの「傾き」が抵抗の大きさそのものを表しているという事実を、教師が教え込んだのではなく、実験を通じて生徒自身がたどり着いた発見だからこそ、価値があります。

オームの法則3時間目:考察

3時間目では、各班のグラフを共有して、自分の班の結果だけではなく、他の班の結果も踏まえてどのようなことが考えられるのかをまとめました。例えばこちらはあるクラスの8班分の結果です。


より多くの生徒が学習課題に正対する結論を導き出せたのか、抵抗値の存在に気づいたのか、気になるところです。前回考察が書けた生徒もいましたが、10分時間をとりました。考察が書き上がった生徒については、「何か気づきなどもあれば書いてみよう」という声掛けをしました。その後班を適当に選んで生徒に発表をさせました。

これらに対する生徒の考察がこちらです。いつもなら「比例の関係が見られる」などの淡白なものや、考察とは言えないものも多いのですが、今年はそれが違いました。


例えば「抵抗自体を変えなければ」という記述があり、抵抗値の概念を教えていないにもかかわらず、グラフの傾きに着目している生徒が見られます。次の生徒は、抵抗器に印刷されている抵抗値の数字(生徒には何も説明していないもの)と、グラフの傾きとの関係性について自発的に考えていました。これには思わず目を見張りました。


この生徒は傾きについて気になっています。電熱線を使っていたのでWを書いています。傾きの角度を実際に分度器で測ったり、抵抗器に書かれた数値との関係を考え巡らせたりしていました。


オームの法則の実験は、指示を出しすぎてしまうと単に「比例である」で考察が終わりがちです。また教師の方で強引に「傾きの違い」に話を持っていき、V=IRへ結びつけるという流れも多いと思います。しかし今回のように生徒が自ら実験を設計して進めていくと、「傾き」という新しい物理量の存在に自力で気づく生徒が現れる。それが何より感動的でした。言語化できていなくても、心の中では気づいている生徒もいるのかもしれません。

その後、今回の取り組みについて、20分くらいかけてアンケートをとりました。その分析結果がこちらです。

アンケート分析結果(回答数:57名)

良かったこと・生徒が感じたポジティブな側面
① 楽しさと集中感が非常に高い
「楽しかった」は93%が肯定的(「そう思う」だけで67%)、「集中して取り組んだ」も93%が肯定的と、授業への引き込まれ方は非常に強いものでした。自由記述でも「実験時間がすごく早く感じた」「このような授業をもっと増やしてほしい」という声が多数見られました。

② 自分でやった感・達成感
「自分で考えて活動している感じがした」91%、「達成感があった」89%と、主体的な実験計画立案が生徒の当事者意識を強く引き出しました。「電圧を変える間隔を自分で決め、結果をまとめられた達成感があった」「難しかったけど自分で考えてできてよかった」といった声が象徴的です。

③ 電流と電圧の関係性の理解
「関係性があることを理解できた」は96%が肯定的で、全項目中最高スコア(平均3.75)でした。教師が直接教えるのではなく、実験から自ら結論を導くプロセスが理解の定着に効いていると見られます。「これがオームの法則だと知らなかったので、実験結果から考察して結論を導くのが楽しかった」という言葉がそれを端的に示しています。

④ 班ごとに異なる実験アプローチによる多様な学び
「自分の班と違う実験をやっている班があって、そういう考え方もあったのかと気づいた」「班で異なる結果が得られ、考察が書きやすかった」など、班ごとに設計が異なることが多視点での学びを生んでいました。

⑤ 生徒主体・教師サポート型の関わり方への肯定評価
「生徒主体で先生はサポートの立ち位置」「これをやれという決めつけ感がなく取り組みやすかった」「間違っていたら指摘してくれる授業で新鮮だった」という声が多く、この授業スタイルを好意的に受け止めている生徒が多数いました。

不安・難しかったと感じた点

① 「予想グラフを描くこと」への不安が突出して高い
不安項目の中で唯一、「不安あり」が95%と圧倒的に高い(平均3.63)数値でした。実験のビジョンをグラフで表現することが生徒にとって大きな壁になっており、「何を描けばいいかわからなかった」「予想段階でうまく説明できなかった」という声が複数ありました。

② 測定計画(間隔・範囲)を自分で決めることへの不安
60%が不安を感じており、「この設定で実験として正しいのか」という根拠の不確かさが不安の源になっています。「知識が足りていないのに設定してしまった」という鋭い指摘も見られました。

③ 「この実験のやり方は正しいのか」という正解不安
自由記述に繰り返し登場するのが、「自分の実験方法があっているか不安だった」「間違って覚えてしまいテストに影響するかもしれない」という不安です。自由度が高いことの裏面として、「正解かどうか分からない」状態が心理的負荷になっている生徒が一定数います。

④ 考察の書き方への苦手意識
「考察がいつもワンパターンになる」「結論のような文章になってしまう」「スムーズにまとめられなかった」という声が複数あり、実験からの論理的な言語化が課題として残っています。「考察の例文やポイントを提示してほしい」という具体的な要望も出ました。

⑤ グラフ作成のスキル不足
「1メモリの数値の幅が決めにくかった」「グラフの読み取りや書き方が怪しい」など、グラフを描くスキル自体が十分でない生徒がいることも浮かび上がりました。

⑥ 一部に見られる「知識を先に得てから実験したい」という意見
少数ながら、「塾などで答えを知っている生徒が主導する構図がよくない」「一定の知識があってから測定範囲を設定すべきでは」「実験方法を一から考える意味がよくわからなかった」という批判的・懐疑的な視点の声もありました。授業の意図と生徒の受け取り方にギャップが生じているケースも存在します。

まとめとして、大多数の生徒は「楽しく、自分でやった感がある」と感じており、探究的な授業スタイルへの評価は高いものでした。一方で、「予想をグラフで表現すること」と「自分の実験が正しいかどうかわからない不安」の2点が特に課題として明確に浮かび上がっています。

探究するということは、ある意味で不安と背中合わせです。「これで合っているのだろうか?」と常に自問自答しながら、それでも前へ足を進める作業——それが科学の本質でもあります。オームもかつて同じ不安を抱えながらデータを取り続けたはずです。この実験から生徒が「不安ではあるけれど楽しかった、自分で進めることができた」という実感を掴み取っていったとすれば、それはこの授業の何より大きな成果だと感じています。

この他の生徒の感想についてはこちらです。面白い意見がたくさんありました。

教師の立ち位置について

・主な作業を生徒主体で行うことによって、授業全体に興味を持って取り組むことができた。また、完全な自由作業ではなかった点からトラブルへの心配もあまりなく、落ち着いて実験に取り組むことができたと思う。

・自分たちで一から考えてやる実験はものすごく楽しかったし、良い学びになったと思いました。先生にこれをやれみたいな感じになると、全員同じ実験をやっているので、多様な考え方を知りにくいのですが、今回のように班ごとで考えて実験を行って発表することによって違う考え方も知ることができました。・言い方が正しいかはわからないが教師がガードレール的な立ち位置をすることによって、生徒それぞれがより自発的に実験に望めることは確かだと思う。それは物事を本質的に理解することにはつながっているとは思うが、受験のような場合では本質的に理解したものよりも、正確な知識のほうが重要になると感じる。そのため、今回のような関係性については賛成であるが、それが正しい知識を取得する機会を失うことにつながってしまうのであればあまりこのような関係で行うということをしないほうが良いのではないかと感じた。

・授業を通して感じたことは、こまめに先生が実験をしているときにそれぞれの班に来てくれて、間違っているところや考察を一緒に考えてくれたりしてくれたことで早めに間違いに気づけたり、考察を一緒に考えてくれたことでもっと深く考えることが出来たり新たな疑問が生まれましました。

授業の感想より

・自分が思っていたよりも関係性や規則性を見つけていくのは難しくて、途中、班の人にたくさん質問をしてしまいましたが、グラフや図表にしてみると可視化できてとてもわかりやすくなり、学習課題とグラフ・図表を当てはめていくことで、自分がいま何をはっきりさせたいのかが見えてきて、そこから疑問や考察などを考えることもできてとてもおもしろかったし、ほぼほぼ自分たちで実験をしていくという部分でとても学びになりました。

・実験をした結果、どの班の結果を見てもグラフが直線になっていてよく比例していた。でも、更に電圧を増やしていったら結果は変わってくるのではないかと考えた。電圧計は300Vまでで、電流計は5Aまで。今回の実験結果で、0.5Vずつ増やしていくと50mA(0.05A)ずつ増えていくことがわかった。だから、実際に比例するのは50Vまでで、それより増やすと電流に限界が来てしまって比例しないのではないのかなとおもった。・プリントがほとんど白紙なのが印象的だったが、実験器具が前から使っていた抵抗器やpetitXだったので、安心して実験に取り組むことができた。

・正直実験を考えるのはあっているのかな?この方法で本当にできるのかなという不安がとても大きかったんですけど先生にやさしく補助してくれたおかげでどうやって考えるのかを考えられました。この実験とてもおもしろかったです。

・これをやってくださいっていう決まった実験だとやっぱり答えが決まってるんじゃないかと不安になってうまく考察や結果をかけなかったり少し迷っちゃう時があったけど、今回の実験は班で考えたりできるので考察や結果を書きやすかったし、楽しかったです。

・生徒主体として実験手順を考えることで自分たちの考える力が深まり、より覚えやすくなりました。自分の得た結果が間違っているかもしれないという不安は少しありましたが、自分の予想に近い結果が出た時には自信を持てました。比例しているのではないかとい考察を書く力もついたと感じました。電流と電圧の実験は楽しかったです。

・今回の振り返りは実験を立てるまでがとても大変だと感じました。実験すれば楽しいのですが考察やグラフを書くのが大変でした。実験はとても楽しかったです。

・自由に実験をしたり実験計画をたてたりすることはできたけれど、何をすればいいのかがわからなくなったりすることも少しあった。あと、プリントに自由に書く欄が多いのは、自分のまとめたいようにプリントにまとめることができたけれど、これをどこにかけばいいというのがわからないときが数回あった。

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