教科書の順番を変えたら、生徒が自分でオームの法則にたどり着けるのではないか?(実践の記録)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
「オームの法則って、なんで突然出てくるの?」——そう感じたことはありませんか?実は、多くの中学生がそこでつまずいています。原因は教科書の流れにあるかもしれません。今回は、その「流れ」を根本から見直した授業づくりの記録をご紹介します。
従来の教科書の流れ——どこに問題があるのか
まず、これまでの一般的な授業の流れを振り返ってみましょう。
- 豆電球を直列・並列接続すると、明るさが違うぞ(気付き)
- 電流はどのような規則で流れているのか?(問題意識)
- 調べてみよう(実験)
- 電圧はどのような規則ではたらいているのか?
- 調べてみよう(実験)
- まとめ → 豆電球の明るさには、加わる電圧が大きいほど・流れる電流が大きいほど明るくなることがわかった
- 新たな疑問 → 電流と電圧には、どんな関係があるのだろう?
- 新しい道具の登場 → 豆電球を抵抗器に、乾電池を電源装置に変更
- オームの法則の実験
一見、きれいな流れに見えます。ところが、ここにはいくつかの落とし穴があります。
まず、豆電球の明るさは「電力」と関係しており、電流や電圧だけで説明できるものではありません。明るさを入口にして電流・電圧の関係へ導こうとしても、生徒の疑問と実験の目的がかみ合わないのです。
さらに、オームの法則の実験に入る直前に、豆電球が抵抗器に、乾電池が電源装置に、と道具がまるごと入れ替わります。電流計の使い方も含め、一度に覚えることが多すぎて、生徒は混乱してしまいます。
その結果、何が起きるか。生徒は「なぜこれを調べるのか」という目的を忘れ、教師の指示通りに実験してグラフを書いて終わり、という状態になりがちです。事実、電源装置の扱いに危険が伴うため、教師が細かく指示を出さざるを得ず、生徒が自分で探究している感覚はほとんど生まれていませんでした。
授業を組み替える「探究できる」流れへ
そこで、単元全体を次のように組み替えて授業を進めてみました。
- 鉛筆回路(電気単元の導入) 1時間目
- 回路図の描き方(知識) 2時間目
- 電流計の使い方 3時間目 ポイント → 電流計をデジタル電流計に交換
- 抵抗器の前後の電流はどうなるか? 4時間目 ポイント → 豆電球を抵抗器に交換、電源装置をミニ電源装置に移行
- 電流の規則性 直列回路・並列回路 5時間目
- アナログからデジタル電圧計へ 6時間目 ポイント → 電圧計をデジタル電圧計に交換
- 電圧の規則性 直列回路・並列回路 7時間目
- モデルを作ってみよう!電流と電圧 8時間目 電流と電圧を自分の言葉でモデル化することで、オームの法則への仮説を立てやすくする
オームの法則の実験へ突入!
3つの「シンプル化」が探究を生む
この組み替えには、大きく3つのポイントがあります。
ひとつ目は、道具のシンプル化です。電流計・電圧計をデジタルに変えることで、「目盛りの読み方」「どの端子に差すか」といった操作上のつまずきを取り除きました。電源装置もミニ電源装置にしたことで、安全に生徒自身に任せて使用できるようになりました。道具に振り回されず、実験の本質に集中できる環境を整えたのです。

電源装置 Petit-X(プチエックス)

ふたつ目は、豆電球から抵抗器への移行を早めたことです。豆電球は温度によって抵抗値が変化するため、実は電流と電圧の関係を調べるには不向きな道具です。抵抗器を早い段階から使うことで、実験結果がきれいに整理され、法則が見えやすくなります。

みっつ目は、モデル化を前時に行うことです。自分なりのモデルで電流と電圧をイメージしておくことで、「電流と電圧って、どんな関係にあるんだろう?」という仮説を自分の言葉で立てやすくなります。科学の歴史でも、偉大な発見の多くはまず「頭の中のモデル」から始まっています。アインシュタインが「光と一緒に走ったらどう見えるか?」と想像したように、モデルは科学の出発点なのです。

「傾きが違う」——そこから本物の探究が始まる
授業の核心は、課題をシンプルに絞り込んだうえで、生徒に手を離して任せることです。課題は「電流と電圧の関係性を調べてみよう」のひとこと。ここまで複雑さを取り除けば、生徒は自分自身で探究できるはずだと考えました。さらに、抵抗器を一種類ではなく複数用意することで、こんな揺さぶりをかけます。「どんな抵抗器でも同じことが言えるのだろうか?」
実験を終えた生徒は、まず「比例になる!」と気づきます。しかし他の班や自分の班の複数の抵抗器のグラフを比較すると、「比例になるけど……傾きが違う。この傾きって何だろう?」という新たな疑問にぶつかります。
この疑問こそが、「抵抗」という新しい物理量の発見につながる入口です。教師から与えられた言葉ではなく、自分の探究の結果として「抵抗値」という概念に自分でたどり着く——それがオームの法則の実験の真骨頂なのではないかと思うのです。
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