手作りブーメランはなぜ戻ってくるのか?(回転の科学)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
「投げたものが、なぜ自分のところへ戻ってくるの?」
ブーメランを初めて見た人が必ず抱く、この不思議な疑問。実はそこには、飛行機の翼やコマのような、いくつもの科学の仕組みが重なり合っています。一つひとつ、順番にひもといていきましょう。きっと、身の回りの「当たり前」が、まったく違って見えてくるはずです。
ブーメランの断面は、飛行機の翼と同じ形をしている
今回作ったのはこちらの紙製のブーメランです。

このブーメランは、横から断面を見ると、右側のプロペラを少し持ち上げています。
これはヘリコプターの翼や、竹とんぼと全く同じ形です。この形のおかげで、空気の流れる速さが変化して、揚力(ようりょく)と呼ばれる「ものを持ち上げる力」が生まれます。飛行機があの巨大な機体を空に浮かせていられるのも、まさにこの揚力のおかげです。ブーメランもその同じ力を使っているのですね。ブーメランを投げるときは、ブーメランを垂直に持って、スナップをつけて回転させて投げます。この「回転」こそが、戻ってくる仕組みの核心です。ぜひ意識してみてください。
ブーメランは、慣性モーメントを意図的に大きく設計した道具といえます。翼が左右に長く伸びた形状のおかげで、質量が回転軸(中心)から遠くに分布しています。これにより慣性モーメントが大きくなり、次の2つの効果が生まれます。
市販品のダイソーで売られているブーメランと比較してみると、同じ形になっているのがよくわかります。




投げ方についてもダイソーのブーメランにはQRコードがついていて、こちらの動画を見ることができます。わかりやすいですね。
なぜいったいこのような形をしているのでしょうか。
①ジャイロ効果が強くなる
ジャイロ効果の強さは慣性モーメントに比例します。慣性モーメントが大きいほど、外から力が加わっても回転軸の向きが変わりにくく、安定して飛びます。コマが倒れずに回り続けるのも、まさにこのジャイロ効果のおかげです。
②ゆっくり歳差運動する
慣性モーメントが大きいと、歳差運動(軸がゆっくり向きを変える動き)がゆっくりになります。これがちょうどよい速さで起きることで、大きな円を描いて手元に戻ってくる軌道が生まれます。つまり形の設計が飛行軌道を決めているのです。
それではなぜ戻ってくるのかを、もう少し詳しく考えてみましょう。
上半分と下半分で、揚力の大きさが違う!
ここが戻ってくる仕組みの一番のポイントです。ブーメランは回転しながら前に進んでいます。慣性モーメントの働きによって、回転させたものは、回転をし続けようとします。このとき、上半分の翼は回転の向きと進む向きが同じなので、空気に対してより速く動きます。逆に、下半分の翼は回転の向きと進む向きが逆なので、ゆっくり動くことになります。揚力は速く動くほど大きくなるので、上半分は揚力が大きく、下半分は揚力が小さいという差が生まれます。この差が、ブーメランを「傾けようとする力(トルク)」を生み出します。

この揚力の差によって歳差運動が引き起こされ、ブーメラン全体が写真の状態から面を手前に向けるような回転が生まれます。これがブーメランをくるっと回す効果となります。


直感では「傾ける力がかかったら、そのまま傾く」と思いがちですが、高速回転しているブーメランは力の向きと垂直の方向に動くという、不思議な性質を持っています。これが歳差運動の醍醐味です。
またブーメランが手元に戻ってくるとき、くるりと水平になってホバリング(その場に浮かぶような動き)することがあります。

これも歳差運動で説明できます。飛行中、前方半面で発生する揚力と後方半面で発生する揚力の差によって生まれる、もう一つの歳差運動が、ブーメランの回転面を徐々に水平に近づける方向に働くため、戻ってきたブーメランが水平にふわりと浮かぶような動きを見せることがあります。
ブーメランの軌道は、見た目は円っぽく見えますが、実はいくつかの点で「理想的な円運動」とは異なります。ブーメランは飛びながら歳差運動によって回転軸の向きが少しずつ変わっています。それに伴い、揚力の向きも常に変化し続けています。向心力が一定方向にかかり続ける理想的な円運動とは、根本的に仕組みが違います。また投げ出された直後と、戻ってくる直前では、空気抵抗や重力の影響でスピードも高さも変わっています。
実際のブーメランの軌道をよく見ると、きれいな円ではなく、少しずつ内側に向かって巻き込まれる、どちらかというと「らせん状に近い軌道」を描いています。歳差運動が進むにつれて軌道の曲がり方が変化するためです。
お椀型にすると回転半径が小さくなる
ブーメラン全体を真上から見たとき、平らではなく、中心が少し高く、両端が下がったお椀のような山形にした形にすると、回転半径が小さくなります。
これには理由があります。平らなブーメランでは、揚力はほぼ回転面に垂直な方向、つまり横向きに発生します。ところがお椀型にすると、両翼の揚力が少し内側(中心軸の方向)に向くようになります。これにより、軌道を曲げる向心力が強くなり、円の半径が小さくなります。ちょうど、自転車でカーブを曲がるときに体を内側に傾けると小回りが利くのと同じイメージです。たったこの「わずかな反り」が、飛行軌道を大きく左右しているのですね。
無重力の宇宙でも戻ってきた!
驚くことに、2008年3月、土井隆雄宇宙飛行士が国際宇宙ステーションの船内で紙製ブーメランを投げる実験を行い、無重力下でも地球上と同様にブーメランが手元に戻ってくることが確認されました。これはとても重要な発見です。
国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の土井隆雄さん(53)が、ブーメラン世界チャンピオンの栂井(とがい)靖弘さん(36)=大阪府大阪狭山市=から贈られたブーメランをISS内で投げる非公式の実験をした。ISS内には地上なみの大気圧があるが、無重力状態だ。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入った連絡によると、土井さんが縦に投げたブーメランはちゃんと元に戻ってきたという。
引用:宇宙でもブーメラン戻ってきた 土井さん実験(朝日新聞)
http://www.asahi.com/special/space/kibou/OSK200803200044.html
重力がなくても戻ってくるということは、ブーメランが戻る仕組みの本質は「揚力とジャイロ効果」であり、重力はあまり関係ないということを証明しています。「重力があるから戻ってくる」と思っていた方には、驚きの結果ではないでしょうか。
飛行機の翼の科学と、コマのジャイロ効果。一見バラバラな2つの物理の仕組みが、ブーメランという一本の木の板の中で見事に組み合わさっています。科学部でブーメランを作ったなら、ぜひ投げるときの角度や回転の速さを変えて、軌道がどう変わるか実験してみてください。きっと新しい発見があるはずです。
参考
Wikipedia「ブーメラン」
→ 翼断面の形状による揚力の発生、歳差運動による旋回のメカニズムまで、物理的に詳しく記述されています。参考文献も充実しています。

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