重力なんて怖くない!スポンジが水を吸い上げる「ミクロの登山家」の正体

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

キッチンでこぼした水を雑巾でサッと拭き取ったり、お風呂上がりにスポンジで水分を吸い取ったり。当たり前のように行っているこの動作、実は重力に逆らうという不思議なことが起きています。例えば紅茶にキッチンペーパーを入れてみると、スルスルと水が登っていきます。これはなぜでしょうか?

今回は、スポンジや雑巾が水を吸い込む驚きの仕組みについてまとめてみました。

水を引き寄せる多孔質構造

スポンジを近くで見ると、小さな穴がたくさん空いていますよね。このような構造を「多孔質(たこうしつ)」と呼びます。スポンジの中は、細い管や隙間が複雑に絡み合った、まるでジャングルのようになっています。この無数の「細い隙間」こそが、水を吸い上げるための重要なステージになるのです。

毛細管現象

キッチンペーパーや雑巾、はたまたスポンジが水を吸い上げる最大の理由は、「毛細管現象(もうさいかんげんしょう)」という仕組みにあります。これは、細い管状のものを液体に入れると、液面が重力に逆らってスルスルと上がっていく現象です。これには、2つの力が大きく関係しています。

  • 付着力: 水分子がスポンジの壁にくっつこうとする力。
  • 表面張力(凝集力): 水分子同士ががっちり手を繋ぎ、ひと塊になろうとする力。

この2つの力が合わさることで、水は自ら狭い隙間の奥へと進んでいきます。実は、隙間が細ければ細いほど、この吸い上げる力はより強くなるんです。

付着力と表面張力

なぜ水はスポンジやガラスの壁を「よじ登る」ことができるのでしょうか? その秘密は、分子の表面にある「-OH(ヒドロキシ基)」という構造に隠されています。雑巾や天然スポンジの主成分であるセルロースには、この-OHが無数に並んでいます。この-OHは強い電気的な偏り(極性)を持っており、同じく極性を持つ水分子に対して「こっちにおいで!」と手招きをするのです。

でもメスシリンダーなどガラスに水を入れた時も、縁が盛り上がりますよね。毛細管現象というと細いガラス管で水が吸い上げられていくことを想像する人もいますよね。これはなぜでしょうか。驚くことに、ツルツルに見えるガラスの表面にも、空気中の水分と反応して作られた「シラノール基(Si-OH)」という構造が存在します。ガラス管を水に入れると水面が上がるのは、以下のステップが高速で繰り返されているからです。

  1. よじ登る(付着力): 壁の-OHが水分子を引き寄せ、水が壁を登る。
  2. 引っ張り上げる表面張力(凝集力): 壁にくっついた水分子が、隣の仲間を「一緒に来て!」と上に引き上げる。

この「登る力」と「水の重さ」が釣り合うまで、水はどこまでも登り続けます。

石鹸は「仲を切り裂く」お邪魔虫!?

石鹸や洗剤(界面活性剤)を加えた時の変化を見てみましょう。石鹸を入れると、水分子同士の強い結束がバラバラにされてしまいます。いわば「表面張力を壊すお邪魔虫」のような存在です。石鹸分子が水面に割り込むと、石鹸の親水基が水分子の水素結合に割り込んで、水分子同士が表面で手を繋げなくなるため、コップの縁の盛り上がりも消えてしまいます。

しかし、この「表面張力を弱める」という性質こそが、掃除の強力な味方になります!

濡れやすくなる: 水の表面張力が弱まるため、繊維の奥まで水が染み込むことができます。

汚れを包む: 石鹸の「しっぽ(疎水基)」の部分が油汚れに突き刺さり、水の中へ引きずり出します。

油が紙を登っていく「ひそかな力」

ここで疑問が湧きませんか?「なぜ油は水のような極性(電気的な偏り)がないのに、キッチンペーパーなどに吸い上げられるのか?水と同じように拭き取ることができうるのか?」という謎です。

「ファンデルワールス力」

水のような「水素結合(強力な結びつき)」は油にはありませんが、分子の世界にはファンデルワールス力という、もっと控えめな引き合う力が存在します。これは、どんな分子の間にも働く「なんとなく隣同士で寄り添う力」です。キッチンペーパーの主成分であるセルロース(炭素や水素の塊)と、油の分子(これも炭素と水素の塊)は、このファンデルワールス力によって、実はそれなりに仲良くくっつくことができます。

油の場合は表面張力が水よりもずっと弱いため、仲間同士で固まるよりも、「隙間があればどこまでも広がっていこう」とする性質が非常に強いのです。この「広がりやすさ」のおかげで、油はキッチンペーパーの繊維を見つけると、スルリと隙間に入り込んでいきます。

ただ水と比べてみるとわかるように、油のほうがこぼした時に拭き取りにくいですよね。水のような極性がないので、べちょっとして、吸い上げ効果がとても低いことがわかります。

一度、油の分子が繊維の隙間に足を踏み入れると、あとはこれまで学んできた「毛細管現象」が主役になります。キッチンペーパーは、非常に細い繊維が複雑に絡み合った「超・微細なジャングル」です。隙間が極めて細いため、ファンデルワールス力のような控えめな付着力であっても、狭い場所に閉じ込められた液体を吸い上げるには十分な力になります。

侵入: 油が持ち前の広がりやすさで、繊維の隙間に染み込む。

付着: ファンデルワールス力で壁にペタッとくっつく。

上昇: 表面張力(弱くてもゼロではありません)によって、後続の分子を引き連れて登っていく。

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