触れていないのに鳴り出す!?おんさが教えてくれる”共振”の不思議と、ビルが揺れるしくみ
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
ここに、向かい合わせに置かれた2本のおんさがあります。片方だけを叩いて、すぐに手で押さえて音を止めます。
静寂のはずなのに、なぜか、音はまだ聞こえてくる。このちょっと不思議な現象の裏側には、地震でビルを揺らすのと同じ原理が隠されています。こちらの動画をご覧ください。
おんさが「返事」をする不思議
2つの同じ振動数を出すおんさを用意します。片方を叩いて音を鳴らし、手で押さえて止めます。すると、もう一方のおんさが、自分では叩かれていないのに振動し、音を出し始めているのです。ところが、もう一方のおんさに小さなおもりをつけて固有振動数を少しずらしてみると、同じことをしても何も起こりません。まるで「話しかけても、聞こえていない」かのように。

「固有振動数」とは何か
この現象を理解するカギは、固有振動数という言葉です。物体はそれぞれ、「自分が最も揺れやすい振動数」を持っています。ブランコを思い浮かべてください。長さが同じブランコは、押すタイミングが合えば合うほど、少しの力でも大きく揺れていきます。逆にタイミングがずれると、いくら力を加えても揺れは大きくなりません。
このブランコが「最も揺れやすい振動数」が、固有振動数です。おんさも同じです。叩かれたおんさが空気を振動させ、音波を伝えます。その音波の振動数がもう一方のおんさの固有振動数とぴったり一致したとき、エネルギーが効率よく伝わり、触れてもいないのに振動し始めるのです。これが共振(共鳴)という現象です。
共振は日常のあちこちにある
共振は、実験室の中だけの話ではありません。たとえば、お風呂やシャワー室で歌うと声がよく響くのも共振のしくみが関係しています。部屋の形や大きさによって響きやすい音の高さが決まっており、その音に近い声を出すと、音が重なり合ってより大きく聞こえるのです。
楽器も共振を巧みに利用しています。ギターの弦が振動すると、木製のボディが共振して音を増幅します。弦一本の振動だけでは、あの豊かな音色は生まれません。ラジオやテレビのチャンネル合わせも原理は同じです。アンテナの回路を特定の周波数に「合わせる」ことで、その周波数の電波だけを効率よく受信しています。共振は、現代の通信技術の根幹にも息づいています。
ビルを揺らした「見えない共振」
では、スケールを一気に大きくしてみましょう。東日本大震災(2011年)の際、震源から約350km離れた東京・新宿のビル群が、ゆっくりと大きく揺れ続けるという現象が観測されました。震源に近い地域の激しい揺れとは異なる、独特のゆったりとした揺れでした。
この原因が、まさに共振です。長距離を伝わってきた地震波のうち、周期が長いゆっくりした揺れ(長周期地震動)が、高層ビルの固有振動数と一致してしまったのです。高層ビルは一般に、背が高くなるほど固有振動数が低く(ゆっくり揺れやすく)なります。超高層ビルの固有振動数は数秒〜十数秒という非常にゆっくりしたものになるため、長周期地震動と共振しやすいのです。
おんさの実験と、高さ200メートルのビルが揺れる現象が、同じ原理でつながっている。これが物理の面白さです。
「合わせる」と「ずらす」、人間の知恵
共振は、使いこなせば強力な味方ですが、制御できなければ大きな災害につながります。現代の高層ビルには、共振による揺れを打ち消すための装置が組み込まれています。その一つが制振ダンパーと呼ばれるしくみで、ビル内に大きな重りを置き、建物が揺れるのと逆方向に動かすことで振動を吸収します。
東京の超高層ビルの多くに採用されており、おんさにおもりをつけて固有振動数をずらしたのと、発想はまったく同じです。自然の力に対して、人間は「共振を利用する」と「共振をずらす」という2つの方法で賢く向き合ってきました。身近なおんさの実験が、建築・通信・音楽・防災という多くの分野に深くつながっているのです。
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