【身近な科学】水筒にお湯を注ぐと、なぜ音がだんだん高くなるの?

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

「トクトクトク…」と、やかんで沸かしたお湯を水筒に注ぐ時、皆さんはその音の変化に耳を傾けたことがありますか? 実は、この何気ない日常の音の中に、中学校の理科で習う「音」の不思議が隠されています。今回は、私が研究室でふと気づいた現象をきっかけに、音と振動の興味深い科学の仕組みについてお話しします。

音の変化に隠された物理の法則

ふと研究室の水筒の中にお湯を注いで白湯を飲もうとしていた時のことです。水を入れる音が少しずつ高音になっていく様子が気になり動画におさめました。こちらです。

最初、私は「お湯を入れると、入っていたお湯自体が振動して音がなっているのかな?」と考えていました。しかし、もしそうだとすれば、水が増える、つまり質量が大きくなるので、振動しにくくなって音が低くなるはずです。例えば、大きな鐘と小さな鐘なら、大きな(重い)方が低い音がしますよね。それと同じ理屈です。しかし、実際には音は高くなっていく。このことから、音がだんだん高くなっていくのは、別の仕組みによるものだなと思いました。

「気柱の振動」とは?試験管を使った実験

そこで私が思い出したのが、中学校の理科の実験で扱う、試験管を使った2つの音の現象です。

試験管に水を入れて口の部分を息で吹くと、笛のように音が鳴る現象。

ガラス棒などでその試験管を叩くと音が鳴る現象。

どちらも音が鳴りますが、実は水の高さ(量)が変化したときの結果は正反対になります。水の高さが高くなると、前者は高い音が、後者は低い音が出るようになるのです。

後者(叩く場合)は、水が入って重くなるため、振動が遅くなり低い音になります。 一方、前者(吹く場合)は、気柱の振動と呼ばれる現象です。これは、試験管の中の空気(気柱)が振動することで音が鳴る仕組みです。水が増えると、空気のスペースが狭く(短く)なりますよね。気柱は、短くなるほど振動数が多くなり(=高い音になり)、長くなるほど振動数が少なくなる(=低い音になる)という性質があります。

リコーダーなどの縦笛も、指で穴をふさいで空気の通り道を短くしたり長くしたりして、音程を変えているのと同じ原理です。

水筒はと同じ仕組みだった!

この気柱の振動の法則を、今回の水筒の現象に当てはめてみましょう。

水筒の中に落ちたお湯は水面を揺らしますが、その振動が水筒の中の空気を揺らします。そして、水筒の口から水面までの間にある空気が、ちょうど試験管と同じ「気柱」となって振動し、音を鳴らしていると考えられます。お湯を注ぎ続けると、当然、水筒の中の水面が上がります。すると、口から水面までの空気の柱(気柱)の長さが徐々に短くなっていきます。

気柱が短くなる

振動数が増える

音が高くなる

というわけです。つまり、水筒にお湯を注ぐ音が高くなるのは、水筒がまるで笛のように、空気の長さを変えながら音を奏でていたからなのです。目の不自由な方が、音だけでコップの水が溢れないか判断できるのも、この科学的な仕組みを感覚的に利用していると言えます。ただ水を入れているだけなのに、そこには確かな物理法則が存在しているなんて、とても面白い現象ですね。

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