置くだけで充電できるのはなぜ?コイルと磁界でひもとくワイヤレス給電の秘密

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

スマートフォンの充電が切れそう!でもライトニングケーブルが見当たらない…。そんなピンチの場面で、ワイヤレス充電器がそっと置いてあったら、思わず「助かった!」と叫びたくなりますよね。

でも、よく考えると不思議です。ケーブルでつながっていないのに、ただ載せるだけで、どうして電気が届くのでしょうか。

まるで魔法のようですが、これは約200年前に発見された、れっきとした物理の法則で説明できます。

ワイヤレス充電器の中をのぞいてみよう

ワイヤレス充電器を分解してみると、中にコイルが入っています。

実はスマートフォンの側にも、同じようにコイルが入っています。こちらは分解した時の様子です。

電気を送る側と受け取る側、2つのコイルが向かい合うことで、ワイヤレス充電は成り立っているのです。そんなワイヤレス充電の謎に迫る授業を、実習生のI先生と一緒に考案してみました。自分の頭で考える場面がたくさんあって、とても面白い授業になったと思います。

置くだけで充電できる秘密は?ワイヤレス充電器を分解してみた!

実験に使った道具

用意するものは次のセットです。

テスター、パスカル電線(太いコイルと呼ぶことにします)、エナメル線を束ねたもの(細いコイルと呼ぶことにします)、電源装置です。

パスカル電線は次のものを購入しました。

富士電線工業 VCTF 0.3sq×6芯富士電線工業 VCTF 0.3sq×6芯

今回は6芯のものを使いました。1mずつにカットして、その両端の導線の組み方を一つずつずらしていくことで、6周するコイルが出来上がります。つまり、6mぶんの長さの導線をコイルにしたことになります。

電流を3Aまで流しても熱くならず、安全です。

パスカル電線についてはこちらをご覧ください。

1本で10本分!?「30アンペア級」の磁場を体験できるパスカル電線(S-cable)

電気を送る側と受け取る側をつくる

太いコイルは電源装置の直流につないで、3Aまで流してよいことを伝えます。こちらが、充電器(給電側)のモデルです。

一方、細いコイルはテスターにつないで、こちらをスマートフォン側(受電側)とします。テスターは直流電流を測るモードにして、マイクロアンペア(μA)という、ごく小さな電流まで測れるようにしました。

電流が流れるのは「置いた瞬間」だけ?

太いコイルの上に細いコイルを置いてみると、電流は流れ続けませんが、置く瞬間にだけ、テスターの針が動いて電流が流れることがわかります。これを演示実験で生徒に見せました。

でも、置いたあとに電流が流れないのでは、ワイヤレス充電にはなりません。そこで、「相手のコイルに電流を流し続けるには、どうしたらいいか?」を生徒に考えさせ、仮説を立てて、実際にやってもらいました。

生徒たちのユニークな挑戦

生徒たちは、いろいろな方法を試していました。たとえば、電流を3A流した太いコイルの上に細いコイルを置いて、縦に動かすグループ。そうではなく、水平に動かしてみるグループ。

そのほかにも、回転させたり、動かすスピードを変えたりして、どのグループも「動かしている間は電流が流れ続ける」ことを確認しました。動かすと、コイルを貫く磁界が変化し続けるからです。

その結果をクラスの中で共有しました。

出た意見

・細いコイルを近づけたり離したりする。

・ダイヤルを回し続ける(ONとOFFを切り替える)

・太いコイルを細いコイルの中で回転させる。

なお、ONとOFFを切り替えるのは電源装置が壊れてしまうかもしれないということで、ダイヤルを回してOFFにしたりONにしたりすることを指示しました。

とはいえ、実際のワイヤレス充電は、スマートフォンを手でずっと動かし続けるわけにはいきません。では、コイルを動かさずに、磁界を変え続けるにはどうすればよいのでしょうか。

これが新たな問いです。

交流電源に切りかえると…?

実践をクラス内でアイデアを共有すると、交流にするという意見が出てきました。ではやってみましょう!ということで、交流は、電流の向きが1秒間に何十回も入れかわる電気です。向きが変わるたびに磁界も変わるので、コイルを動かさなくても、磁界を変え続けることができます。

電圧は2Vです。コイルを近づけてみると、確かに電流が流れ続けることがわかります。テスターのモードを交流電流が測れるモードに変えると、かなりの量が流れているのがわかります。

少し離しても、電流が流れます。

さらに、間に手を入れても、電流が流れます!磁界は、私たちの体をすり抜けて届くのです。

「すごい!」と、生徒から驚きの声が聞こえました。

「磁界」を使って仕組みを説明してみよう

最後にもう一度、ワイヤレス給電の仕組みについて生徒に考えさせました。そのとき強調したのが、「磁界」という言葉を使って説明してねということです。生徒たちは頭を悩ませながら、自分の考えをまとめていました。

ちなみに、この電磁誘導の考え方は、ワイヤレス充電だけでなく、電動歯ブラシの充電やIHクッキングヒーター、交通系ICカードなど、身のまわりのいろいろなところで活躍しています。

なぜ実際のワイヤレス充電では周波数が100Hzのものではなくて高周波数が使われているのか?

ワイヤレス充電は、送電コイルに交流を流して変化する磁界を作り、受電コイルに電圧を発生させる電磁誘導を使っています。ファラデーの法則では、誘導される電圧は磁界が変化する速さに比例します。つまり、同じ大きさの磁界でも、周波数が1000倍(100Hzと100kHz)なら、得られる電圧も約1000倍になります。100Hzのようなゆっくりした変化では、スマホ用の小さなコイルでは電圧がほとんど得られません。

また充電台とスマホの間には、ケースや筐体の分だけ隙間があり、磁界のほんの一部しか受電コイルに届きません。これは、鉄心で磁束をがっちりつなぐ普通の変圧器とは大きく違う点です。

100Hzの変圧器があれだけ大きくて重いのは、低周波数ほど大きな鉄心が必要だからです。高周波数にすれば、薄くて軽いコイルで足ります。スマホに入る薄さにするには、高周波数が必須なのです。

さらに、送電側と受電側の両方に共振回路を組み、特定の周波数でだけ効率よくエネルギーをやり取りしています。共振周波数は、コイルとコンデンサーの大きさで決まります。小さな部品で共振させようとすると、自然と数十〜数百kHzになります。Qiという規格では、およそ100〜200kHzが使われています。

可聴域との関係

人間が聞こえる音はおよそ20Hz〜20kHzです。100Hzは、まさに低くうなるような音域ですから、コイルが振動すれば「ブーン」と聞こえてしまいます。ワイヤレス充電の周波数が20kHzを大きく超えているため、そのような音がしにくいのは利点です。ただ、これは高周波数を選んだ「結果として得られる利点」であり、決め手ではないと考えてよいでしょう。

こちらは別件で、LEDを相互誘導で光らせてみました。

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