魔法の液体が鏡に変わる!銀鏡反応の美しさと「爆発」の危険
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
透明な液体が、一瞬にしてきらめく鏡に変わる――。そんな魔法のような光景を、皆さんは見たことがありますか? 科学の世界には、まるで錬金術のような美しい実験が存在します。その代表格が、今回ご紹介する銀鏡反応(ぎんきょうはんのう)です。
科学部の生徒たちから「やってみたい!」と熱烈なリクエストを受け、理科室で準備を整えて実験に挑戦しました。この実験は非常に美しい結果が得られる一方で、実は強力な薬品を使い、一歩間違えると爆発の危険もあるという一面を持っています。今回は、その感動的なプロセスの裏側に隠された、驚きの科学の世界をご案内します。

実験の前の「絶対ルール」
この実験では、硝酸銀や水酸化ナトリウム、そして鼻にツンとくる濃アンモニア水といった薬品を使用します。これらは非常に危険なため、必ず専門の教員や大人が立ち会う必要があります。 水酸化ナトリウムは皮膚を溶かす性質があるため、ゴム手袋をつけ、白衣を着て、大切な目を守るための保護メガネを装着することが絶対条件です。
また、実験後の片付けを「後回し」にすることは許されません。放置すると、勝手に爆発物が生成され、取り返しのつかない事故につながる恐れがあるからです(後述します)。過去には文化祭で事故が起きた例もありますので、安全への配慮は、実験そのものよりも大切なのです。
[ 用意するもの ]
・硝酸銀 2g ・水 適量(18g ) ・濃アンモニア水(少量) ・水酸化ナトリウム1.44g ・グルコース(ブドウ糖)0.3g ・ビーカー、メスシリンダー、電子ばかり
[ 実験方法 ]
事前準備:実験前に試験管を洗浄液で徹底的に洗っておきましょう。
① 硝酸銀 2g + 水 18g を混ぜ、硝酸銀水溶液 20g を作ります。
② ①に濃アンモニア水を滴下します。一度茶色の沈殿が生じますが、さらに加えると再び無色透明になります。
③ ②に「水酸化ナトリウム 1.44g + 水」で作った水溶液 6ml を混ぜます。すると、液が黒褐色に濁ります。
④ 沈殿が完全に消えて無色透明になるまで、さらに慎重に濃アンモニア水を加えます(これが反応の要となるトレンス試薬です)。
⑤ グルコース 0.3g + 水 2.7g で、グルコース溶液 3g を作ります。
⑥ ④と⑤を混ぜて試験管に入れます。
これで準備完了!あとは、試験管を 8分ほど振り続けるだけです。すると、みるみるうちに壁面が鏡のように変化していきます。

今回は、生徒たちを驚かせようと巨大な丸底フラスコでも挑戦してみました。その様子がこちらです。

あまりの美しさに、理科室には歓声が響き渡りました!
化学反応の仕組み
ただの液体が鏡になるのでしょうか?その主役は、甘いお砂糖の仲間グルコース(ブドウ糖)です。
グルコースの分子の中には、アルデヒド基(-CHO)という構造があります。これが、自分は酸化されながら相手を還元する還元剤として働きます。水溶液の中で「錯イオン」という状態で漂っていた銀イオンが、グルコースから電子を受け取ることで、金属の銀へと戻るのです。
化学反応式

※ グルコースは水溶液中ではごく一部が鎖状構造となっている。この構造の末端にはアルデヒド基が存在するため、グルコース水溶液は還元性を示す。水溶液中でアルデヒド基をもつ単糖はアルドースと呼ばれる。 引用:wikipedia
※ アルデヒドとは、分子内に、ホルミル基 を有する有機化合物の総称である。ホルミル基および任意の基( )から構成されるため、一般式は で表される 引用:wikipedia
還元: 銀イオンが電子を受け取り、ピカピカの金属の銀(Ag)になります。
酸化: グルコースが電子を放出し、グルコン酸イオンになります。
なぜガラスに「張り付く」のか?
ここが科学の面白いところです!銀ができるだけなら、液が黒くなるだけで終わりそうなものですよね。銀がガラスにきれいな「膜」としてくっつくのには、理由があります。
① 核形成 ガラスの表面には、目に見えないほどの小さなデコボコや、化学的な結合の手(-OH基など)があります。生まれたばかりの銀原子は、水の中に漂っているよりも、ガラス表面の「きっかけ」に集まる方が、居心地が良くて安定するのです。
② 均一でゆっくりな析出 実験が成功する鍵は、銀が原子レベルで少しずつ現れることです。



もし反応が急激すぎると、銀原子同士が液中でくっつき合い、ただの「銀の粉」の沈殿になってしまいます。アンモニアを使うことで反応速度がほどよく抑えられ、銀原子が一つずつ丁寧に整列していくため、隙間のない滑らかな鏡になります。

実験前に試験管を洗浄液で徹底的に洗ったのは、ガラス表面に汚れや油分があると、銀原子が最初の手がかりを見つけられず、きれいに張り付くことができないからなんです。
廃液処理の重要性:放置は厳禁!
銀鏡反応が終わったら、すぐに以下の処理を行います。
塩酸(HCl)を加えて沈殿させる 廃液に塩酸を加えます。すると、溶液中の銀イオンが塩化銀(AgCl)となって白く沈殿します。液がしっかりと酸性になるまで塩酸を加えます。これにより、恐ろしい爆発性錯体の生成を防ぐことができます。沈殿した塩化銀は、「重金属廃液」として正しく回収します。
なおアンモニア性硝酸銀水溶液を放置すると、雷銀(らいぎん)という黒い沈殿が生じます。

雷銀は、窒化銀(Ag3N)などを主成分とする極めて爆発性の高い物質です。乾燥したり、わずかな振動や衝撃を与えたりするだけで爆発します。 実際に、過去には学校の文化祭などで悲しい事故も起きています。→ 「文化祭でのビーカー爆発」事故調査報告
また銀は重金属ですので、環境への負荷が非常に高いです。必ず決められたルールで回収しましょう。
科学の美しさは、正しい知識と安全管理があってこそですね。
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