時速200kmのランボルギーニで挑む!12mテーブルクロス引きの科学と実験(地球まるごと大実験ネイチャーティーチャー(TBS))【科学監修・出演】

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

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私が科学監修および出演として関わらせていただいた番組「地球まるごと大実験ネイチャーティーチャー」が、TBSにて1月18日に放送されました。

チョコレートプラネットのお二人と、timeleszのメンバーが体を張って挑戦する大実験バラエティです。様々なその道のプロを集結させて、科学的な難題に挑戦するという趣旨の番組です。今回挑戦したのは誰も挑戦したことのない未踏の12mもの長さのテーブルクロス引きです。

私はそこで物理の専門家(摩擦の専門家)として出演しました。

物理の変態としても紹介されてしまいましたが(以前は他の番組で「マッドサイエンティストと呼ばれたことも…」)、

いじられてしまっていますが、そこは気にせず。科学の方の役割を任せられたので、ロープの長さやクロスの引き方など、計算をしたり予備実験をしたりと、企画会議の方から参加させてもらいました。私は放送を見るまでは、断片的にしか内容は分からず、全体がどう構成されるのかわからなかったのですが、実際にできた番組を見てみると、とても面白い素晴らしい出来になっていました。テレビマンはすごいですね。

テーブルクロスひきは、単なるマジックやショーではなく、物理の塊です。子供や大人まで入り口は広いのですが、それでいて本質的な物理へ関心を高めてもらうためには、素晴らしいテーマです。私自身は面白くて不思議な科学の世界を社会と共有したい、楽しむ好奇心を高めてほしいという気持ちで活動していますので、このお話をいただいた時に、挑戦してみたいと思いました。

自分自身、テーブルクロスひきの物理的な研究をしていました。しかしながら、12mもの長いものでやったことはもちろんないし、とても大規模なので、その企画を聞いた時にワクワクしたこともあります。昔から大科学実験が大好きであったこともあり、その映像で見た10mのテーブルクロス弾きを超える12mへの挑戦に興奮しました。

番組では、チョコレートプラネッツの長田さんと松尾さんに授業をする機会もいただけました。

以前、別番組でチョコプラの方とはお会いしたことがあり、科学への興味関心の高さはなんとなくわかっていたのですが、さらに実際に色々な実験道具を交えながら授業をしてみました。放送ではカットされてしまいましたがだるま落としをやったり、ホバークラフトをやったり、また普通に授業をしたりと、わかってもらおうと頑張りました。

その中から、今回の実験の鍵を握る「慣性」について少しお話をすると、慣性とは「止まっているものは止まり続けようとし、動いているものは動き続けようとする性質」のことです。日常のこんな場面で感じたことはありませんか?

バスが急発車するとき: 体は「その場に止まり続けよう」とするのに、足だけが摩擦でバスと一緒に前に進むため、体が後ろに引っ張られるように傾きます。

バスが急停車するとき: 体は「動き続けよう」とするのに、足だけがバスと一緒に止まるため、体が前のめりに倒れそうになります。

おもちゃの「だるま落とし」も、この慣性を利用した実験の一つですね。下の積み木を素早く叩き出すと、上のダルマは「その場に止まり続けよう」として、真下にストンと落ちます。

テーブルクロス引きもこれと同じ原理です。食器をその場に留まらせたいのです。現実には「摩擦力」という邪魔が入ります。 食器とクロスの間には摩擦があり、クロスを引くと食器も一緒に連れて行かれそうになります。摩擦力の不思議で面白いところは、止まっている時は徐々に上がっていき、最大摩擦力が静止摩擦係数と垂直抗力で決まるというところ。面の大きさも関係しそうですが、接触面の大きさなどは含まれません。

またさらに不思議なのは、今回関係する動摩擦力ですが、クロスの動きによらずほとんど大きさが変わらないという性質があります。経験則でなぜそうなっているのか?についてはミクロなレベルでは解明されていません。実はとっても不思議な力なのですね。また番組内では摩擦力の原因として、凸凹説で説明しましたが、実はそのほかにも

・原子レベルの結合を引きちぎる力 (凝着説)

・相手の素材を押し広げて進む力

などの要因があります。凝着説がもっとも関係していると考えられえます。詳しくはこちらにまとめたのでどうぞ。テレビ番組内での実験では、2つの歯ブラシを組み合わせるだけで、その摩擦力を利用して3kgもの重りを持ち上げることができました。

接着剤なしでバナナを支えた!歯ブラシ2本が生む「摩擦力」の魔法

また摩擦力を大きくする方法として、車の繋引きを使った実験を行いました。2つの動力が同じ車を繋引きさて、片方の車に何か工夫をすると、勝たせることができるのですが、どうすればいいのか?という問題です。こちらに詳しくあるのでご覧ください。

ワイルドミニ四駆で綱引きバトル!勝つのは「重い方」か「軽い方」か?

私たちが歩けるのも、車が止まれるのも、この摩擦力のおかげです。科学の世界では、摩擦をコントロールする技術が進化しています。

カーリング: 氷の表面を磨いて摩擦を極限まで減らします。

ホバークラフト: 空気で浮いて垂直抗力を減らし、摩擦を小さくします。

超電導リニア: 磁力で車体を浮かせ、摩擦をゼロに近づけることで時速500kmを実現します。

今回のチャレンジはいかに「摩擦を小さくし、慣性を最大限に活かすか」にかかっています。

テーブルクロス引きを成功させる4つのポイント

そこで番組内でチョコレートプラネッツに提案した、12mのクロスを引き抜くために導き出した戦略は以下の4つです。

圧倒的なスピード 動摩擦力が働く時間を極限まで短くします。一瞬で引き抜けば、食器が動く暇を与えません。

シワを作らない クロスにシワができると、それが「壁」となって食器を押してしまいます。コツはテーブルクロスを持つ場所と、引き方にあります。

質量(重さ)のある食器 軽いプラスチックのコップより、重いガラスの皿の方が「止まり続けようとする力(慣性)」が大きいため、成功しやすくなります。

滑りやすい素材 動摩擦係数の小さい、ツルツルした生地を選ぶことが必須です。

より詳しくはこちらの記事も合わせてお欄ください。

失敗しないテーブルクロス引きの研究:物理学的コツと理論と実際のズレ

計算が生み出す「時速200km」の根拠

では、具体的にどれくらいの速さが必要なのでしょうか?一般的なテーブルでの成功例を動画解析したところ、およそ「0.20秒」で引き抜いた時成功確率が高いことがわかりました。 これを12mの長さに当てはめて計算すると、必要な速度は秒速60m。つまり、時速216kmです。

「時速200kmで引く必要がある」

これが、今回の途方もない目標値となりました。これを実現するために、加速性能に優れたスーパーカー、ランボルギーニを用意していただきました。

準備と予備実験

1.ロープの長さの計算

一般車の加速性能(加速度最大 約10m/s²と仮定)から逆算すると、時速200kmに達するには約151mの助走距離が必要です。余裕を持って200mのロープを用意してもらいました。

2.最強の布「トヨフロン」

摩擦対策として、東レ株式会社が開発した「トヨフロン」という特殊な繊維チョコプラのお二人に用意してもらいました。摩擦係数が非常に小さい夢のような布ですが、少し重みがあるのが懸念点です。重みがあることで引き抜きスピードがどうなるか。またしわのできやすさなどは実際にやってみないとわからないところがあります。開発者の柴田さんも当日は一緒に来てくださいました。

3.予備実験(2m)

まずは2mのトヨフロンで実験。計算上、食器が動く距離は理論上0.21cm。 実際にランボルギーニで引いてみると……食器の移動距離はわずか3cmでした。シワも発生せず、素晴らしい結果が出ました。大成功です!

「これはいける!」

桑子・柴田さんに加えて、テーブルクロスひきの達人マジシャンのJOE・MAGIC(ジョマジ)さん、高橋レーシングの田邊さんにもさらに加わっていただき、プロ集団で皆で気合を入れました。

本番、そして……

いざ、12mの本番。 ランボルギーニが唸りを上げて加速し、時速200kmでクロスが一気に引かれました。結果は……

あれ、あれ、あれれ!!!だい、だい大失敗!!食器はテーブルの上に留まるどころか、派手に飛び上がってしまいました。私はその際に崩れ落ちてしゃがみ込んでしまいました。

ただスタジオのわくわくポイントについては、93点という高得点です。全国の小学生がワクワクしてくれていたらとても嬉しいです。

なぜ失敗したのか? 実験から得られたデータ

VTRをスロー再生して解析すると、敗因が見えてきました。

巨大なシワの発生

クロスの両サイドから大きな「シワ」が発生、そのシワが波のように押し寄せ、食器を下から突き上げる形になり、宙に舞ってしまったのです。このシワの発生要因はVTRをよくみてみると下から空気が入ってきているという点がありそうで、テーブルの継ぎ目、天板の継ぎ目にありそうだなという結論に至りました。天板をもっと綺麗に繋げておく必要があったのです。

またテーブルクロスを引き抜く時の手前の棒の置き方の工夫も必要であったと考えられます。この棒が高い位置にあったため、空気が入ってしまったことがVTRからも確認できました。

さらには用意してくれた食器が軽かったのも改善点の一つです。食器をある程度重くして慣性を強くし、しわに耐えられるようにすれば、さらに成功確率が上がったと思われます。たとえばお皿の上にリンゴを置いたり、ナイフとフォークは使わないなどが考えられます。

【もう一度チャンスを】

大変難しいですが12mのテーブルの天板を継ぎ目のない一枚板にする。またはクロスの下にクロスを引いておき、そちらを固定しておくなども考えられます。実験は失敗がつきもの・もう一度挑戦したい!!

当初はもう一度できると勝手に思っていたのですが、諸所の関係で1回しかできず、ここで打ち切りとなりました。非常に悔いが残ります。が、一つまたデータが撮れたと思えば、良い実験になったかなと思います。

毎日が実験。

ロケ時間の関係上、チャンスは一度きり。再挑戦できなかったことは非常に悔しいですが、これもまた現実です。

実験に「失敗」はありません。あるのは「うまくいかなかったというデータ」だけです。 12mという未知の領域に対し、計算と理論で挑み、予期せぬ「シワ」という物理現象に阻まれた。この経験は、次の成功への確実なステップになります。私たちの日常も同じです。予想通りにいかないことがあっても、それは貴重なデータ。 もしまたこのような機会をいただけたら、今回のデータを元に、次こそは必ず成功させてみせます!

その他

公式の事前番組の動画も公開されていました。

私自身も事前動画の中で少し映っていました。

広瀬すずさんと行った電気賞状実験もおすすめです!こちらも合わせてご覧ください。

【科学監修】ビリビリ電気賞状!?広瀬すずさんと体験した静電気実験授業(沸騰ワード10)

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