ご飯は伸びないのになぜ?お餅が「ビヨーン」と伸びる科学的な理由

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

お正月にお雑煮や焼き餅を食べていて、ビヨーンと伸びるお餅を見て「なぜ普段食べるご飯(白米)は伸びないのに、お餅はこんなに伸びるのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?同じ「お米」なのに、食感はまるで別物。実は、あのお餅特有の粘り気と伸びには、お米に含まれる「デンプン」の種類と構造に、驚くべき科学的な秘密が隠されています。今回は理科教師の視点で、そのミクロの世界をわかりやすく解説します。

そもそも「お米」の種類が違う

私たちが普段食べているご飯(うるち米)と、お餅になるお米(もち米)は、見た目は似ていますが成分が少し異なります。どちらも主成分は炭水化物(デンプン)ですが、その中身の比率が決定的な違いを生んでいます。

デンプンには大きく分けて2つの種類があります。

アミロース(wiki):硬くなりやすく、粘りが少ない。

アミロペクチン(wiki):粘り気が強く、水分を含むとモチモチする。

いつものご飯(うるち米):アミロースが約20%、アミロペクチンが約80%。

お餅(もち米):アミロペクチンがほぼ100%!

つまり、お餅はアミロースを含まない、純度100%の「粘り成分の塊」のようなものなのです。

参考資料:wiki もち米

ミクロの視点:「枝分かれ」構造が絡まり合う

では、なぜ「アミロペクチン」が多いと伸びるのでしょうか? それは分子の「形」に理由があります。

アミロース(ご飯に多い) 一本の鎖(くさり)のような形をしています。単純な構造なので、分子同士があまり絡まり合いません。だから、ご飯は粒が立っていて、あっさりとした食感になります。

画像引用:wikiより

アミロペクチン(お餅に多い)たくさんの枝分かれを持った、複雑な形をしています。植物の根っこや、ポケットの中で絡まったイヤホンのコードを想像してください。あのように複雑な形状をしています。

画像引用:wikiより

参考:アミロペクチン wiki

お餅をつく工程で、この複雑な「アミロペクチン」同士が複雑に絡み合います。 引っ張ると、絡まった分子同士がほどけまいとして抵抗しますが、完全に固まっているわけではないので、ズルズルと滑りながらついてきます。これが「ビヨーン」と伸びる正体です。「絡み合っているけれど、固定はされていない」という絶妙な状態が、あの独特の伸縮性を生み出しているのです。

「熱」と「物理的な衝撃」の役割

ただ「もち米」があるだけでは伸びません。ここには調理科学のポイントである「蒸す(熱)」ことと「つく(衝撃)」ことが不可欠です。

糊化(こか): デンプンは水を加えて加熱すると、構造が緩んで柔らかくなります。これを「糊化(α化)」と言います。この状態にならないと、アミロペクチンは自由に動けません。

細胞破壊: お米の粒のままだと、デンプンは細胞壁の中に閉じ込められています。「ぺったん、ぺったん」と杵でつくことで、お米の細胞壁を破壊し、中からアミロペクチンを外に出して、強制的に練り合わせているのです。ご飯を箸で練ってもお餅にならないのは、この細胞破壊が十分ではないからなんですね。

お餅が伸びる理由を科学的にまとめると、以下のようになります。

・もち米は、粘りのもとであるアミロペクチンが100%である。

・アミロペクチンは枝分かれ構造をしており、加熱されると分子同士が複雑に絡み合う。

・絡み合った分子が、引っ張られる力に対して滑りながら粘るため、長く伸びる。

今度お餅を食べる時は、「この白い塊の中で、無数の分子が手をつないで絡み合っているんだな」と想像しながら食べてみてください。きっといつもより少し、科学の味がするはずです。

一体お餅は一体どれくらい伸びるのか?

お餅は冷えるとアミロペクチンが再結晶化して固くなります。長く伸ばすためには、

部屋を暖める: 寒い体育館などでは即座に固まります。暖房の効いた部屋で行いましょう。

スピード勝負: つきたての熱々のうちにスタートします。

乾燥厳禁: 表面が乾くとそこから亀裂が入ります。手水をしっかり使い、場合によっては霧吹きなどで湿度を保つ工夫も有効です。

ゆっくり引く

お餅のような物体には「粘弾性」という性質があります。これは、「速く引っ張ると固体のように振る舞い(切れる)、ゆっくり引っ張ると液体のように振る舞う(伸びる)」という性質です。勢いよく「エイッ!」と引くのはNGです。アミロペクチンの分子が絡まりをほどきながら移動する時間をあげるイメージで、じわじわと、一定の速度で引っ張り続けてください。

長机を何台も並べ、片栗粉(打ち粉)をたっぷり撒いて摩擦をなくし、机の上で這わせるように伸ばすのが最も確実です。

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