夏の主役!スイカの「くるくる模様」と「タネの色」に隠された物語

桑子研
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スーパーでずらりと並んだスイカ。夏の代名詞とも言えるこの瑞々しい果物、皆さんもきっと大好きですよね。甘くてシャリシャリとした食感は、暑い日に最高の涼を提供してくれます。でも、ちょっと待ってください。ただ食べるだけでなく、このスイカを半分に切った時、その断面に現れる不思議な模様や、中に入っている黒いタネと白いタネの違いに、皆さんはどれくらい意識を向けたことがありますか?

スイカを半分に切った時、果肉の中にタネに向かって放射状に伸びる、あるいは「くるっ」と丸まったように見える筋があることに気づいたことはありませんか? この可愛らしい模様の正体は、実は**「維管束(いかんそく)」**と呼ばれるものです。

では、維管束とは一体何なのでしょう? 簡単に言えば、維管束は**植物の体の中を水や養分が運ばれる「道路網」**のようなものです。私たちの体でいう血管や消化管のような役割を担っています。

維管束は、主に以下の2種類の管からできています。

  • 道管(どうかん): 根から吸い上げた無機養分を、葉や果実など植物全体に運ぶ役割をします。
  • 師管(しかん): 葉で行われた光合成によって作られた**有機養分(デンプンや糖など)**を、成長する部分や貯蔵する部分(例えば、スイカの甘い果肉やタネ)へと運ぶ役割をします。

スイカの果肉の中の維管束は、主にタネに養分を届けるために発達しています。あのくるっとした模様は、スイカが自身のタネを立派に育てるために、効率よく栄養を供給している証拠なのです。この繊細で機能的なネットワークを想像すると、スイカがもっと愛おしく感じられますね。

参考サイト:https://hicbc.com/magazine/article/?id=kurashi-news-22081001

黒いタネと白いタネ、その違いは「受精」の有無!

スイカを食べ進めると、黒くて立派なタネと、小さくて白い、未熟そうなタネの両方を見つけることがあります。これらのタネの色や形の違いは、単なる成長段階の違いではありません。実は、**「受精(じゅせい)」**という植物の生殖プロセスが深く関わっています。

  • 黒いタネ(有胚種子): この黒いタネは、受精が正常に行われ、その後胚(将来の芽や根になる部分)が順調に発育したものです。受精とは、花粉がめしべにつき(受粉)、花粉管が伸びて、その中を通ってきた精細胞が胚珠(はいしゅ:将来タネになる部分)の中の卵細胞と結合するプロセスのことです。黒いタネを土に植えれば、適切な条件下で新しいスイカの芽が出てくる可能性が高い、つまり発芽能力を持っているタネなのです。

  • 白いタネ(無胚種子): 一方、白いタネは、受精ができなかったか、あるいは受精はしたものの、その後の胚の発育が途中で止まってしまったものです。このようなタネは、残念ながら発芽能力を持っていません。スイカの中には、受精しなくても果実が大きくなる性質(単為結果)を持つ品種があったり、あるいは環境条件などによって、受精がうまくいかなかったりすることがあります。

参考サイト:https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2024#:~:text=果実が成熟する頃,です(無胚種子)%E3%80%82

ウリ科植物の繁殖戦略

メロンもスイカも同じウリ科の植物ですが、その種子の配置には明確な違いが見られます。またメロンの種はきれいに中央に集まっているのに、スイカの種はあんなにも果肉の中に散らばっているのでしょうか?これは、それぞれの植物がどのようにして種子を遠くまで運び、子孫を残そうとしているのかという、異なる戦略の表れなのかもしれません。

メロンの戦略:一点集中型で確実に運ばせる

メロンの種は、果実の中央、いわゆる「ワタ」と呼ばれる部分に密集しています。この配置には、以下のような植物の戦略が考えられます。

  • 動物に種子ごと食べさせることを想定: メロンの甘く美味しい果肉は、動物を引き寄せるためのものです。動物がメロンを食べた際、種子が中央に集まっていれば、果肉を食べる過程で自然と種子も一緒に摂取される可能性が高まります。
  • 種の保護: 種子が特定の場所に集まっていることで、果実が食べられる際に、種子が分散してしまったり、誤って傷つけられたりするリスクを減らすことができると考えられます。また、ワタの部分は種子を乾燥から守る役割も果たしている可能性があります。
  • 効率的な散布: 動物が種子を摂取した後、その糞と共に種子が排出されることで、親株から離れた場所に運ばれ、新しい場所で発芽する機会を得ることができます。メロンの場合、種子がまとまって排出されることで、その場所で複数の芽が出る可能性も高まります。

スイカの戦略:広範囲に拡散し、食べられやすさを追求

一方、スイカの種は、赤い果肉の中にまるでまき散らしたかのように点在しています。

  • 「赤い果肉全体」が内果皮: スイカの場合、私たちが食べている甘くて赤い果肉のほとんどが「内果皮」と呼ばれる部分にあたります。メロンの内果皮が種子の周りに限られているのに対し、スイカは内果皮が非常に発達しています。この発達した内果皮に種子が埋め込まれるように配置されることで、動物が果肉を食べる際に、意図せず種子も一緒に食べてしまう可能性が高まります。
  • 多様な動物にアピール: スイカの果肉は水分量が多く、広範囲に種子が散らばっていることで、たとえ動物が果肉の一部だけを食べたとしても、種子を摂取する機会が増えます。これにより、より多くの動物に種子を運んでもらう機会を増やしていると考えられます。
  • 発芽の機会の多様化: 種子が広範囲に散らばることで、動物によって運ばれる場所も多様になり、発芽に適した環境にたどり着く可能性が高まります。特定の場所に集中するよりも、広範囲に「ばらまく」ことで、生存競争を有利に進める戦略と言えるでしょう。

このように、たかがスイカのタネと侮るなかれ、その色や入り方にも植物の生命の営みが凝縮されているのです。これからは、スイカを食べるたびに、その断面の模様やタネの色に注目して、植物の賢い仕組みに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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