アルカリ性の洗剤(頑固な油汚れ)に効く科学的な意味

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

お掃除の科学についてのまとめ記事はこちらからご覧ください。

汚れは「落とす」のではなく「変身」させる!?洗剤の驚異の化学(お掃除の化学)

ここではアルカリ性洗剤の役割についてまとめて紹介します。

アルカリ性の洗剤(頑固な油汚れ)

酸・アルカリという言葉を聞いたことがあると思いますが、アルカリは塩基の中で特に水溶液に限って用いられている用語です。お掃除に用いられる塩基性(アルカリ性)のものは、強アルカリのものに水酸化ナトリウム、安全性の高いものに、炭酸水素ナトリウム(pH8.2〜8.4)、炭酸ナトリウム(pH11〜12)、セスキ炭酸ナトリウム(pHおよそ9.8 炭酸水素ナトリウム+炭酸ナトリウムと考えるといいと思います) などがあります。

アルカリ性洗剤については記事が長くなってしまったのでこちららをご覧ください。

水酸化ナトリムは非常に強力なので、皮膚に触れるとタンパク質や脂質に大きな影響があるので注意が必要です。また炭酸ナトリウムも比較すれば弱いアルカリではありますが、皮膚につくとぬるぬるとしますが皮膚表面の皮脂膜を取り去ってしまうので、直接触れるのはやめた方がいいでしょう。対して重曹はp Hが低くて安全性が高いですが、脂肪酸汚れなどの一部の汚れ以外には効きが弱いという特徴があります。重曹は研磨剤としての役割も大きくありますね。

amazon:重曹

水に溶かして使います!

重曹よりもアルカリ度が高いもので、より強力なものにセスキ炭酸ソーダや、炭酸ナトリウムがあります。

なおセスキ炭酸ナトリウム(セスキ炭酸ソーダ)の化学式はNa2CO3・NaHCO3・2H2Oで表されるもので、炭酸ナトリウム(強アルカリ)と炭酸水素ナトリウム(弱アルカリ)が結合しており、アルカリ度が高くなっています。「セスキ(sesqui)」はラテン語由来の接頭語で、「1.5倍」という意味を持っています。

※ なおセスキ炭酸ナトリウムと、過炭酸ナトリウムはまた別ののなのでご注意ください。

台所換気扇周りなどの強度な油汚れには、

1 スクレーパーで油汚れをまずは落とす(傷をつける。油に洗剤が馴染むようにする)

2 60度から80度の水をバケツに貯める

3 バケツに油汚れに強いアルカリ性洗剤を入れる

4 時間をおく

5 汚れが柔らかくなったら水で流して拭き取る

という方法を掃除のプロも進めています(参考『お掃除は科学である』)。

中和には単に溶けやすい塩を作るだけでなく、「汚れを支えている構造を壊す」という役割もあります。キッチンのベタベタした油汚れは「酸性」の性質を持っています。サラダ油などの「しぼりたての油」、そのものは中性に近いのですが、キッチンに放置された油は、時間が経つほどに酸性の性質を強めていくという特徴があります。この酸化の過程で、油(トリグリセリド)の一部が分解されたり、酸素と結びついたりして、「有機酸」という酸性の物質へと変化していきます。

新しい油(中性)

パルミチン酸などの脂肪酸は、新しい油(トリグリセリド(wiki))の中では、グリセリンという土台にガッチリ結合しています。この状態を化学式で見るとこうなります(パルミチン酸が3つ結合したトリパルミチンの例)。

 注目してほしいのは、酸性の正体である -COOH(カルボキシ基) がどこにもないことです(パルミチンの場合はCH₃-(CH₂)₁₄-COOHCH₃-(CH₂)₁₄-COOHとなり、カルボキシ基がついています)。

 酸性の原因となる水素が、左側にあるグリセリンとの結合に使われているため、この状態では水素イオンを放出できず、性質は「中性」なのです。この段階では中性洗剤などの、界面活性剤による乳化で、水と仲良くして流すということが効果的です。

油汚れ

放置された油汚れが酸性になるプロセスには、大きく分けて2つのルートがあります。

加水分解による酸化(水による分解)

キッチンの湿気や汚れに含まれる水分によって、トリグリセリドの結合が切れてしまいます。これを「加水分解」といいます。

トリグリセリド+水 → グリセロール + パルミチン酸

構造図はチャットGPTを使って作成

すると右側にパルミチン酸(wiki)が単独で登場しました!この末端にある -COOHが水に触れると水素イオンを放出し、「酸性」を示し始めます。

酸化

さらに、空気中の酸素が油の炭素の鎖を攻撃してバラバラにします。酸化が進むと、パルミチン酸よりもさらに鎖の短い、もっと水に溶けやすくて刺激の強い「酸」がたくさん生まれます。

脂肪酸の化学式

Rは「炭化水素基」と呼ばれ、「炭素と水素が長くつながった鎖の部分」を指します。このRの部分が、油の「ベタつき」や「水に溶けにくさ」を生み出す正体です。例えば、次のようなものが挙げられます。

これらの油の化学式の中には、カルボキシ基(-COOH)という部分がありますが、これが水と出会うと、水素が、水素イオンとして離れようとするため、酸性となります。

弱いアルカリ性の洗剤での中和反応(脂肪酸の中和作用)

この古くなった酸性の油には、弱アルカリ性の洗剤(重曹やセスキ炭酸ソーダなど)で中和させることが有効です。重曹を水に溶かすなどをして、アルカリ性にして脂肪酸(R-COOH)にかけると、中和反応によって石けんに変化し、生成された石けんが、界面活性剤としてさらに洗浄を助けます。

中和反応は、酸と塩基が反応して「塩(えん)と水」ができる反応です。

酸 + 塩基 → 塩 + 水

例:塩酸 + 水酸化ナトリウム → 塩化ナトリウム + 水

ポイントは、酸の水素イオン(H⁺)と塩基の水酸化物イオン(OH⁻)が結びついて水になる、というシンプルな仕組みであることです。

今回の化学反応式は、次のような中和反応によります。

CH₃(CH₂)₁₄COOH + NaHCO₃ → CH₃(CH₂)₁₄COONa + H₂O + CO₂↑

パルミチン酸+炭酸水素ナトリウム(重曹)→パルミチン酸ナトリウム(塩)+水+二酸化炭素

パルミチン酸ナトリウムが石けんの一種です。

CH₃−(CH₂)₁₄−COO⁻ Na⁺

これが水に溶けると、

CH₃−(CH₂)₁₄−COO⁻

となり、左側が疏水基(親油基 電気を帯びていない)右側が親水基(電気を帯びている)です。石けんを化学的に一言でいうと、高級脂肪酸のナトリウム塩やカリウム塩です。ここでいう「高級」は「高価」という意味ではなく、炭素数の多い脂肪酸という意味です。長い炭素と水素の結合が油とよくなじみむので、良い界面活性剤となります。

図は「洗浄・洗剤の基本と仕組み」P85より引用

強いアルカリを使うとどうなるか?

タンパク質の分解

強いアルカリ(強塩基)には、タンパク質をアミノ酸にまで分解してしまう力があります。たとえ完全に分解できなかったとしても、タンパク質高分子の途中の「アミド結合」という部分を、水と反応させることで切ることができます(加水分解反応)。こうすると、タンパク質は水に溶けやすい形に変わっていきます。

油脂のケン化

油脂のケン化作用も起こります。ケン化については、石けんづくりを例に考えるとわかりやすいです。油や脂肪に強いアルカリを加えると、「ケン化」という反応が起こり、

油脂(エステル)+ 強アルカリ → 脂肪酸のナトリウム塩(=石けん)+ グリセリン

これがケン化です。中和反応のように「H⁺とOH⁻がくっついて水になる」わけではなく、エステル結合という化学結合(グリセリンと脂肪酸をつないでいる「-C(=O)-O-」がエステル結合)そのものが、アルカリの働きによって分解(加水分解)されるという点が、中和反応とは違います。

その結果、油や脂肪は石けんと、水に溶けやすいグリセリンに分解されます。石けんは、もとの脂肪酸よりもずっと水に溶けやすい性質を持っているため、水と一緒に流れていってしまうのです。

なお石けんづくりでは、温度を高くして反応を進めやすくすることが大切です。しかし、この反応は温度が低くても、ゆっくりとではありますが進んでいきます。ですから、薄く広がった油汚れくらいであれば、強いアルカリ性の洗剤をかけてしばらく置いておくだけでも、汚れを落とすことができるのです。

こうした性質を利用して、排水溝にたまった髪の毛を溶かすための洗剤には、強い塩基性のものが使われています。髪の毛の主な成分もタンパク質や脂質なので、同じしくみで分解されるというわけです。

石けんを作ろう!

石けんづくりについて詳しくは、こちらの記事もあわせてご覧ください。

油からできてる!?サラダ油で手作り石鹸に挑戦してみた(お掃除の化学)

参考:「洗浄・洗剤の基本と仕組み」(秀和システム)

温度を上げると効果が跳ね上がる理由

けん化反応も、界面活性剤(乳化剤と呼ばれることもある)による乳化(水と油を、細かい粒にして均一に混ぜ合わせる現象のこと)も、温度が高いほど反応速度が上がります。また、油そのものも温めると粘度が下がって柔らかくなり、汚れが緩みやすくなります。40〜50度程度のお湯で油汚れをふやかしてから洗剤を使うと、格段に落ちやすくなるのはこのためです。

特に油汚れは熱によって形が崩れるので、お湯も洗剤とも言えるかもしれません。

重曹をフライパンに入れて焦げを落としている様子。なお重曹って一見するとなんでアルカリ性なの?と思うかもしれません。秘密はこちらをご覧ください。

重曹の研磨作用

意外と見落とされがちなのは重曹による研磨作用です。重曹の粒子は硬度が比較的柔らかく、鍋の表面やシンクを傷つけにくい一方で、こびりついた焦げをこすり落とすのに十分な硬さを持っています。ちょうど良い硬さのやすりのような働きをしているわけです。

換気扇の汚れについて

換気扇周りのパーツなどは油でギトギトに汚れていることがあります。そんな時にお試しください。

1 50℃程度のお湯に重曹(大さじ2〜3/1Lあたり)を溶かして、30分〜1時間つけ置き(頑固な油汚れには重曹よりアルカリ性が強い「セスキ炭酸ソーダ」や「換気扇用アルカリ洗剤」が有効)

2 スポンジや歯ブラシでこすり洗いし、しっかりすすぐ。

皮脂汚れについて

皮脂汚れについてもアルカリ性が効きます。こちらは衿汚れ用の洗剤です。

ナノックス 洗濯洗剤

これを襟の汚れにつけて、ブラシで少し擦ります。

するとあらきれい。

参考 サラダ油を使った石鹸作り

実はお掃除と同じ現象が石鹸作りなのです!

油からできてる!?サラダ油で手作り石鹸に挑戦してみた(お掃除の化学)

鼻血の汚れ

血液の汚れについては、過炭酸ナトリウムが効果的です!アルカリ性の性質と、漂白作用の2つを併せ持っています。なお過炭酸ナトリウムは酸素系の漂白剤ですが、色物にもこれは向いています。たいして下に示す塩素系の漂白剤は白物系でないと行けません。色落ちしてしまうためです。

鼻血の頑固なシミが消えた!過炭酸ナトリウムのすごい力を実験してみた(お掃除の科学)

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