効率が良いのはどっち?教師主体か・生徒主体か?探究や探究的な学びについて考えてみた
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
授業で実験をしたあと、生徒たちから「楽しかった!」という声が上がると嬉しいですよね。でも、数日後に「あの実験で何がわかったんだっけ?」と聞くと、意外と答えが返ってこない……。そんな経験はありませんか?実は、従来の「手順通りに進める実験」だけでは、本当の意味での学びは定着しにくいのです(もちろん口頭で教える実験はさらに学びが定着しにくいですね)。
今回は、なぜ今の教育に「探究的な学び」が必要なのか、その本質を論理的に紐解いてみたいと思います。
「レシピ通り」の実験は、記憶に残らない
多くの授業で行われる実験は、教科書に書かれた手順をなぞる、いわば「料理のレシピ」のようなものです。指示通りに動けば、確かに結果は出ます。しかし、それでは生徒の頭は動いていません。そうなっているのは、時間の制約もあり致し方ない面もあります。これでも何も実験もせずに進む授業よりはよっぽどマシですよね。生徒も楽しんでくれます。
しかし「ただ手順をこなすだけ」の活動は、作業であって学びではないのです。
教師が指示せずに、自分たちで「なぜこうなるんだろう?」と問いを立て、自分でその検証方法を考えて、実験をして、得た結果を吟味する…、そんな試行錯誤したプロセスこそが、脳に深い理解を作り、強い回路となります。自分たちの手と頭をフル回転させて導き出した答えこそが、一生モノの知識として定着するのです。
例えば、Minner et al. (2010)らによる「Inquiry-based science instruction—what is it and does it matter? Results from a research synthesis years 1984 to 2002」という論文では、生徒を学習プロセスに能動的に参加させる教育は、「受動的な手法」に頼る教育よりも、概念的な理解を深める可能性が高いことが示されています。つまり、探究を通して科学を学ぶことにより、深い理解や知識の定着、科学的なスキルの向上などの様々なポジティブな効果があることが示されてます。
先生の役割は「答え」を渡すことではない
ただし、教師はただ単に見守っていればいいという話ではありません。Furtak et al. (2012)の「Experimental and Quasi-Experimental Studies of Inquiry-Based Science Teaching: A Meta-Analysis」という研究によれば、教師主導の活動を含む研究は、生徒主導の条件で行われた研究よりも、効果的であることが示されています。メタ分析において「介入の構成概念」の妥当性を確立することの重要性についても論じています。
つまり探究は完全に生徒に任せたものではなく、教師が足場かけを行うがイドのある探究の方がより効果的であることが示されています。生徒が困っていると、ついつい正解を教えてあげたくなりますよね。しかし、先生が明確な答えを提示した瞬間に、生徒の思考はストップしてしまいます。大切なのは、生徒を「考え続けている」状態に留め置くことです。
「どうしてだと思う?」「さっきの結果と矛盾していないかな?」と問いかけ続け、自力で答えを探しに行かせる。この「モヤモヤしながら考え続ける時間」こそが、科学的な思考力を養う土壌になります。
この探究において、教師がどの程度介入するのか?が難しいところです。これについては、Jiang & McComas (2015)の「The effects of inquiry teaching on student science achievement and attitudes: Evidence from propensity score analysis of PISA data.」にて述べられていますが、教師の関与の度合いは、目的に応じて使い分ける必要性があります。
「探究は効率が悪い」という誤解
よく「探究的な学びは時間がかかるから、授業が進まなくて効率が悪い」と言われます。確かに、時間はかかります。しかし、ここで視点を変えてみましょう。
「さらっと通り過ぎた1コマ分(50分)」と、「自分で掴み取りに行った2コマ分(100分)」、どちらが真に効率的でしょうか?
表面的な効率の良さ彼言えば、時間が短くて、知識をつけめこめた50分となるでしょう。でもそれが非常に薄っぺらかったとしたら…。
例えば慣性の法則について、私たちが取り組みましたが、この慣性の法則の考え方は非常に理解させるのが難しいところでもあります。さらっと流せばすぐに終わりなのですが、生徒の頭に入るためには、自分で知識を掴みに行かせる経験が必要だと強く感じました。
慣性の法則の概念形成を目指した探究的な学びの実践 ―等速直線運動の実現を題材として―(一般社団法人日本理科教育学会オンライン全国大会2026)
表面的な知識を詰め込んでも、試験が終われば忘れてしまいます。一方で、探究を通じて身につけた「課題を発見し、解決する力」は、他の単元や日常生活にも応用が効きます。実は、探究的なアプローチこそが、時間はかかれど、長い目で見れば最も「学習効率が良い」方法なのです。
「自由」と「放置」は違う、教員の戦略的デザイン
探究的な学びというと、「生徒に自由にやらせること」だと思われがちですが、それは違います。ただ放り出すだけでは、学びは迷走してしまいます。
本当の探究とは、教師が「ここを考えさせたい!」というポイントを戦略的に狙い撃ちすることです。
また難しいことではなく、いつもの実験の中で、さらっと手を離して生徒に任せてみるような時間を作ることが大切です。舗装された道路を歩くのではなく、獣道に連れて行って手を離すような取り組みを入れることが大切です。
またすべての単元を探究にする必要はありません。探究的な学びは時間がかかりますし、「探究」(自由研究のような)となるとさらに時間はかかります。
ここぞという重要な単元を絞り込み、生徒が自発的に問いを持ってしまうような「仕掛け」を準備する。生徒が自由に考えているようで、実は教師が設計した「知的な罠」に心地よくハマっている。そんなデザインこそが、腕の見せ所ではないでしょうか。
探究的な学びは、単なる流行ではありません。生徒たちが「自ら考え、歩き出す力」を育てるための、最も誠実な教育の形なのです。
探究と探究的な学びの言葉の違いはこちらをご覧ください。
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