酸性の洗剤が効く汚れとその仕組みについて(お掃除の科学)

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

お掃除の科学についてのまとめ記事はこちらからご覧ください。

汚れは「落とす」のではなく「変身」させる!?洗剤の驚異の化学(お掃除の化学)

酸・アルカリという言葉を聞いたことがあると思いますが、アルカリは塩基の中で特に水溶液に限って用いられている用語です。お掃除に用いられる塩基性(アルカリ性)のものは、強アルカリのものに水酸化ナトリウム、安全性の高いものに、炭酸水素ナトリウム(pH8.2〜8.4)、炭酸ナトリウム(pH11〜12)、セスキ炭酸ナトリウム(pHおよそ9.8 炭酸水素ナトリウム+炭酸ナトリウムと考えるといいと思います) などがあります。

酸性の洗剤(水垢汚れ)

amazon クエン酸

クエン酸

粉タイプの方がお得ですね。溶かして使いましょう。

多くの頑固な汚れは水に溶けにくい性質を持っています。例えば、お風呂場の鏡につく白い「水アカ」が代表的です。水アカは金属汚れと言いますが、金属汚れとは水に溶けにくいカルシウム塩、マグネシウム塩、鉄酸化物などを指します。専門業者は水アカをスケールと呼ぶそうです。

水道水には、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどのミネラル分がわずかに溶け込んでいます。水滴が蒸発すると、水だけが気体になって空気中へ逃げていき、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムが析出します。これが白いウロコ状の水垢の正体です。家庭だとポットの中や、浴室に鏡、トイレの水が出るところなどに水アカが溜まりやすいですね。

こちらは鏡の水アカです。中性洗剤で拭いてもなかなか落ちません。

トイレの水アカ。カリカリ硬くて、なかなか取れません。

また鉄イオンは無色の第一鉄イオンFe2+として溶けていますが、酸化されると第二鉄イオンFe3+となり、茶褐色で、溶解生が低下します。そしてサビと呼ばれる酸化鉄(Ⅲ)Fe2O3となると、水に溶けません。

酸にも「得意・不得意」がある!種類を知ることが大切です

汚れを落とすときによく使われるのが「酸」です。ここでの化学反応の核心は「酸とアルカリ性の炭酸塩との中和・分解反応」です。水垢の主成分である炭酸カルシウムは、化学的には弱アルカリ性の性質を持つ塩(えん)です。ここにクエン酸や酢酸などの酸性物質を加えると、次のような反応で分解されます。

炭酸カルシウムが酸と反応すると、水に溶けやすいカルシウムイオンと、水、そして二酸化炭素の泡に分解されます。固形物だった水垢が水に溶ける形に変わるため、洗い流せるようになるわけです。

この実験の有名なところで言うと、生卵をお酢に漬けるというものがあります。殻(炭酸カルシウム)が溶けて、プニプニと弾む透明な「スケルトン卵(酢卵)」ができます。

    1. 容器に生卵を入れ、お酢をたっぷり注ぎます。
    2. フタを軽く乗せるかラップをかけ、冷蔵庫や冷暗所に 2〜3日 置きます。
    3. 殻が溶けたら取り出し、水道の弱い水流で表面の薄皮の残り優しく洗い流します。

卵の殻の主成分である炭酸カルシウムとお酢の酢酸が化学反応を起こし、二酸化炭素の泡を出しながら殻が溶けていきます。

しかし、酸ならなんでも同じように汚れを溶かせるわけではありません。酸の種類によって、溶かせる汚れ・溶かせない汚れがあるので、それぞれの性質を知っておくことがとても大切です。

塩酸はオールラウンダー、酢酸・クエン酸は少し苦手なものも

たとえば塩酸は、水酸化鉄(Ⅲ)も、水回りの白い汚れの正体である炭酸カルシウムも、どちらもよく溶かすことができます。

クエン酸は安全な有機酸です。炭酸カルシウムを溶かすのは得意なのですが、水酸化鉄(Ⅲ)を溶かす力はあまり強くありません。また処理後にすぐに水ですすがないと、汚れが析出することがあります。クエン酸を使って掃除したあと、そのまま長時間放置してしまうと、クエン酸カルシウムという不溶性の塩(水に溶けにくい物質)ができてしまうことがあるのです。こうなると、せっかく溶かした汚れよりもさらに除去しにくい汚れに変わってしまいます。クエン酸で掃除するときは、放置しすぎず、しっかり洗い流すことがポイントです。

参考:「洗浄・洗剤の基本と仕組み」(秀和システム)

また酢酸も安全な有機酸です。カルシウムの水アカには効果的ですが、鉄汚れには効果が低いので、クエン酸と同じような感じです。ナチュラルクリーニングでは酢酸が使われることがあります。

また、硫酸とカルシウムが結びつくと硫酸カルシウムという物質ができますが、これは水に溶けにくい性質を持っています。そのため、硫酸はカルシウムの汚れやマグネシウムの汚れを落とすのには向いていません。汚れを溶かすどころか、逆に溶けにくい物質を新しく作ってしまう可能性があるのです。

炭酸カルシウムはどうやって落ちるのか?化学式を見てみよう!

水垢の主成分である炭酸カルシウムはアルカリ性寄りの性質を持っています。ここに酸性の洗剤(クエン酸)をかけることによって、次のような中和反応が起きます。

ここで注目してほしいのは、右側の「反応後」の姿です。

  • カルシウムイオンこれは水に溶ける状態です。

  • 水: もちろん液体です。

  • 二酸化炭素: シュワシュワとした泡(気体)になって逃げていきます。

つまり、「水に溶けない固形物」が、反応した瞬間に「水に溶ける成分」と「ガス」に作り変えられてしまうのです。化学反応式で書くとこのように書けます(例えば酢酸を使った場合)。

この反応の結果、カチカチだった炭酸カルシウムは、酢酸カルシウムという「水によく溶ける塩」に姿を変えます。「固まってこびりついていた物質」が「水に溶け込むイオン」にバラバラになるから、シャワーで流すだけで落ちるようになるわけです。

 炭酸カルシウムが酸で落ちるのは、酸が石の結合を化学的に切断し、別の物質に変えることで、結果的に水と一緒に流せるようにしているからです。ですから、水に溶けにくい性質を持っていても、酸さえあれば表面からどんどん削り取っていくことができるわけですね。

こちらは自宅のトイレの手を洗う部分のところに溜まった炭酸カルシウムの石の状態です。

非常に濃いクエン酸水溶液を作ります。キッチンペーパーに染み込ませて、ぐるぐる巻きにします。これで1時間おきました。

1時間後の様子です。

かなり炭酸カルシウム(石)が落ちました。水アカを落とすためのスポンジで軽く擦っていきます。

綺麗に取れました!

お風呂場の鏡についてたウロコの場合は、100円ショップに売られているダイヤモンド研磨剤がおすすめ。まずはこちらを使って物理的に大きなウロコを落としていって、

その後、キッチンペーパーに濃いめのクエン酸などをつけて、貼り付けておいて、最後に水洗いで流してあげると綺麗になります。

before

after

強酸性の物質の怖さ→タンパク質の「変性」

水酸化ナトリウムなど強アルカリ性のものについては、脂質のケン化や、タンパク質を加水分解によて切って分解して溶かしていくという怖さがありますが、塩酸のように強酸性のものの怖さとは何でしょうか。

強酸は水素イオン(H⁺)を大量に放出するため、これがタンパク質分子の立体構造を保っている水素結合んど、電荷バランスを壊してしまいます。その結果、タンパク質は本来の構造(立体構造)を失ってしまい、変性します。

ポーチドエッグでお馴染みですが、卵を酢に漬けると白身が固まってくるのと似た現象が、皮膚のタンパク質でも起こるわけです。変性したタンパク質は本来の機能を失い、硬くなります。これが塩酸による化学熱傷の正体です。

参考:酸によるやけどは「凝固壊死」と呼ばれるタイプの損傷を起こします。タンパク質が変性して硬苦なり膜を作るため、この膜がある程度それ以上の酸の浸透にブレーキをかける働きをします。そのため、同じ強い薬品でもアルカリ性の物質(水酸化ナトリウムなど)によるやけどに比べると、比較的浅い範囲にとどまりやすいとされています(アルカリは脂肪やタンパク質を溶かしながらどんどん奥へ浸透していく「融解壊死」を起こすため、より深く進行しやすい傾向があります)。

もし触れてしまった場合には、「とにかく大量の流水で洗い流す」ことです。中和しようとして他の薬品(重曹水など)をかけるのは、中和反応自体が発熱を伴うためかえって熱傷を悪化させる恐れがあり、推奨されていません。流水で薬品を薄めながら物理的に洗い流し、できるだけ速やかに医療機関を受診することが重要です。

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