SNSを早く始めた子は成績が落ちる?ネイチャーで発表されたイタリア5000人調査の衝撃

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

「うちの子、スマホばかり見ていて大丈夫?」。そんな不安を抱く保護者の方は多いのではないでしょうか。実は今回、この漠然とした不安を裏付けるような、かなり本格的な研究結果が科学誌Nature Human Behaviourに発表されました。イタリアの高校生5000人以上を対象にした大規模な追跡調査です。今回はこの論文の中身を、教育現場に立つ立場からじっくり読み解いてみたいと思います。

本当にネイチャーに載った論文なのか

Gizmodeの

子どもの成績低下、早くからSNSをはじめた子ほど顕著に子どもの成績低下、早くからSNSをはじめた子ほど顕著に

https://www.gizmodo.jp/article/early-social-media-use-linked-to-lower-grades-years-later-study-finds/https://www.gizmodo.jp/article/early-social-media-use-linked-to-lower-grades-years-later-study-finds/

という記事で知りました。気になるのが「これは本当にネイチャー本誌の論文なのか」という点だと思います。調べてみたところ、これは間違いなく実在する査読済み論文でした。タイトルは「Longitudinal effect of early social media use on standardized learning outcomes during school career」日本語にすると、学校生活を通じた早期SNS利用が標準化された学習成果に与える縦断的効果というもので、著者はミラノ・ビコッカ大学のマルコ・グイ氏らの研究チームです。

5000人を4年以上追いかけた、贅沢な調査デザイン

この研究のすごいところは、その調査デザインにあります。北イタリアの高校生6600人以上にアンケートを実施し、そのうち5227人分のデータを、イタリア政府の教育評価機関INVALSIが実施する標準テストの成績記録と突き合わせました。しかもこのテスト成績、小学2年生・5年生、中学2年生(8年生)、高校1年生(10年生)と、なんと4時点にわたって追跡されているのです。

つまり、SNSを始める前の学力から、始めた後の学力まで、同じ生徒をずっと追いかけているということになります。これは「SNSを使っている子は成績が悪い」という単純な相関ではなく、「SNSを始めたことで成績が変化したのか」という因果関係に迫ろうとする、かなり気合の入った設計です。

比べる相手を「揃える」工夫

ただ単に「SNSを早く始めた子」と「遅く始めた子」を比べるだけでは、フェアな比較になりません。もともと家庭環境や親の教育熱心さなどが違えば、それだけで成績に差が出てしまうからです。

そこで研究チームは、統計的マッチングという手法を使いました。性別、親の学歴、家族構成、経済状況、そして何より重要な「SNSを始める前の小学5年生時点の成績」まで揃えたうえで、中学1年(6年生)・中学2年(7年生)・中学3年(8年生)でSNSを始めたグループと、中学卒業後(9年生以降)まで待ったグループを比較しています。いわば、双子のようにそっくりな生徒同士を人為的に作り出して比べる、というイメージです。

「半年分の遅れ」に相当する差

肝心の結果ですが、なかなか衝撃的です。中学1年生でSNSアカウントを作った生徒は、9年生(中学3年生)以降まで待った生徒に比べて、中学3年時点で国語(イタリア語)・数学ともに成績が下がっており、高校1年時点ではさらにその差が広がっていました。

研究チームの試算によると、この差はおよそ半年分の学習の遅れに相当するとのことです。教育研究の世界では0.2標準偏差以上の効果は「大きい」とされますが、今回見つかった差はその基準を超えるものでした。しかも面白いのは、SNSを始めるのが1年遅れるごとに、その悪影響が小さくなっていく傾向が見られた点です。中学2年でSNSを始めた生徒はやや影響が小さく、中学3年で始めた生徒になるとほぼ影響が見られなくなりました。

犯人はスマホの「浸透度」かもしれない

では、なぜSNSを早く始めると成績が下がるのでしょうか。研究チームが特に注目したのが、スマートフォンの浸透度という指標です。これは「寝る前」「起きてすぐ」「宿題をしているとき」といった生活の大事な場面に、どれだけスマホが入り込んでいるかを測るものです。

分析の結果、この浸透度の高さが、数学の成績低下の3〜5割程度、国語の成績低下の1〜3割程度を説明していることがわかりました。つまり、SNSの中身そのものが悪いというより、勉強中や就寝前にもスマホが気になってしまう「注意の分断」こそが、成績低下の大きな要因になっている可能性が高いのです。

唯一「英語だけ」は影響なし、という意外な発見

さらに興味深いのが、教科ごとの違いです。国語と数学では明確な成績低下が見られた一方で、英語の成績にはまったく影響が見られなかったのです。

研究チームはこの理由について、ネット上のコンテンツの多くが英語で発信されているため、SNSを使うこと自体が英語に触れる機会を増やし、いわば「意図せず英語の勉強になっている」のではないかと推測しています。悪者にされがちなSNSですが、使い方や文脈によっては思わぬプラスの側面もある、というのはなかなか示唆に富む発見です。

成績が落ちるだけでなく、留年のリスクも

学力テストの点数以外にも気になるデータがあります。中学1〜2年生でSNSを始めた生徒は、そうでない生徒に比べて留年する確率が高くなることや、中学卒業時に優秀な成績(10段階評価で8以上)を取る確率が低くなること、さらに自分自身の学習能力に対する自信(自己効力感)も低くなる傾向が確認されています。成績表の数字だけでなく、生徒の学校生活全体に影を落としている可能性がうかがえます。

この研究の限界も正直に

ただし、研究チーム自身がかなり慎重な姿勢を見せている点も大切なポイントです。この手法(差分の差分法)はランダム化比較実験ではないため、完全に因果関係を証明できるわけではありません。また調査対象が北イタリアの生徒に限られているため、他の国や文化にそのまま当てはまるとは限らないとも述べられています。研究チームは論文の中で、このテーマの繊細さと近年の激しい議論を踏まえ、結果の解釈には最大限の慎重さが必要だと明記しています。

教育現場からひとこと

オーストラリアやフランス、イギリスなどで未成年のSNS利用を制限する動きが広がる中、今回の研究はその流れをさらに後押しする材料になりそうです。スマホやSNSが生活のどの場面に食い込んでいるかという視点が大切だなと感じます。宿題中や就寝前にスマホを手放せる環境をどう作るか。これは家庭でも学校でも、すぐに取り組める工夫があるはずです。データに基づいた冷静な議論が、これからの子どもたちのスマホとの付き合い方を考えるヒントになればと思います。

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