三原山で出会った世界最大のユリ「 サクユリ」が教えてくれる島の進化と伝説

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

伊豆大島の三原山を登っていたら、道端でふと目にとまった大輪の白い花。

「これはユリの仲間かな?」と思って近づいてみたら、その大きさに驚きました。人の背丈ほどもある茎の先に、両手を広げたくらいの花が咲いている。思わず写真をパシャリと撮ってしまいました。実はこの花、「サクユリ」という、伊豆諸島にしか自生していない大変珍しいユリでした。しかも、ただの珍しい花というだけでなく、ユリ属の中で草丈・花の直径ともに世界最大という、とんでもない称号を持つ花だったのです。まさか登山中にギネス級の植物に出会えるとは思っていなかったので、帰ってから夢中で調べてしまいました。

サクユリとはどんな植物か

サクユリの学名はLilium auratum var. platyphyllum。本州に広く分布する「ヤマユリ」の変種として位置づけられており、伊豆諸島だけに自生する固有の植物だそうです。草丈はなんと150〜200cm、花の直径は25〜30cmにも達します。ヤマユリとよく似ていますが、次のような違いがあります。

・花びらの赤褐色の斑点がヤマユリより少ない、あるいはほとんど無い

・葉の幅が広く、厚みがある

・香りがヤマユリよりも強い

同じ「ヤマユリの仲間」なのに、なぜ大きさや香りがここまで変わってしまったのでしょうか。実はこれ、伊豆諸島という「島」ならではの進化の面白さが関係していると考えられています。天敵の少ない離島環境や火山性の土壌、海からの強い風といった条件の中で世代を重ねるうちに、本州のヤマユリとは違う姿へと変化していった。いわば、ダーウィンが観察したガラパゴス諸島の生き物たちと同じような「島の進化」が、身近な伊豆大島でも起きていたというわけです。

三原山の火山性の斜面や林縁に生育し、山頂カルデラ内では7月下旬から8月初旬にかけて開花します。私が三原山でこの花を見られたのは、まさにこの短い開花シーズンにたまたま重なっていたからだったのですね。

面白いのはその名前の由来

サクユリには、伊豆大島で「為朝百合(タメトモユリ)」という別名があります。これは平安時代の武将・源為朝にちなんだ名前です。源為朝は源氏最強とも言われた武将で、朝廷に背いた罪で伊豆諸島へ流刑になりながらも、実質的に島を支配していたという豪快な人物。伝説では身長7尺(約2.1m)もの巨躯を持ち、弓矢で船を沈めたとも言われています。

面白いのは、サクユリの草丈が最大で2mにもなること。つまり伝説の中の為朝の身長と、サクユリの最大草丈がほぼ同じくらいなのです。偶然かもしれませんが、島の人々が「この巨大なユリは、あの豪傑・為朝のようだ」と重ね合わせて名付けた気持ちが、なんとなく分かる気がしてきます。

さらに興味深いのは、サクユリが伊豆大島から南の青ヶ島まで、伊豆諸島の広い範囲に点々と分布していながら、島ごとに遺伝子や形態が少しずつ異なることです。伊豆大島では、真っ白な個体から赤茶色の斑点が入る個体まで幅広いバリエーションが見られます。一方、利島では真っ白な個体が多く、神津島では斑点入りの個体が主流だそうです。同じ「サクユリ」という名前でも、島によって咲く花の”顔つき”が違う。まるで島ごとに方言があるように、花にも「島ごとの個性」があるのは面白いですよね。

実は絶滅危惧種、そして品種改良の重要な遺伝資源

これほど魅力的な花でありながら、サクユリは東京都のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されています。園芸目的や販売目的の盗掘、外来生物であるキョン(小型のシカの仲間)による食害、ウイルス性の病気などが主な原因で、野生の個体数は大きく減少してしまいました。明治時代には海外輸出用に盛んに栽培されていたという記録もあり、かつては島の重要な産業を支えていた花でもあります。

実際、島を出ようと船に乗る際の元町港の待合室には、サクユリを持ち帰らないよう呼びかける看板を見かけました。

あまりの美しさに、つい持ち帰りたくなってしまう人もいるのでしょう。しかし、その一輪一輪が長い年月をかけて島の環境に適応してきた、かけがえのない存在です。見つけても、写真だけを持ち帰るようにしたいものですね。

一方で、サクユリは園芸の世界でも非常に重要な存在です。あの華やかな「カサブランカ」に代表されるオリエンタル系ユリの交配親として、貴重な遺伝資源になっているのです。つまり、街の花屋さんに並ぶ豪華なユリの血統をたどっていくと、伊豆諸島の火山の斜面に自生するサクユリにたどり着く可能性がある、というわけです。絶滅の危機にある野生の花が、実は世界中の花屋に並ぶ品種のルーツになっている。この事実を知ると、サクユリという花の見え方が少し変わってくるのではないでしょうか。

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