エネルギーとは「物」じゃなかった!仕事から導く運動エネルギーと位置エネルギーの正体(高校物理復習帳)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
この記事は「大人のための高校物理復習帳」から生まれたコラムです。
「エネルギーが切れた〜。もう動けないよ〜」思わずそう口にしたことのある人は多いのではないでしょうか。エネルギーという言葉は日常でよく耳にします。でも、「ねぇねぇ、エネルギーってどんなもの?」と子どもに聞かれたら、みなさんはどう答えますか。実はこれ、大人でもなかなか正確に答えるのが難しい質問なのです。
エネルギーとは物ではなく、仕事をすることができる「能力」のことをいいます。「仕事ってどんな仕事?」「能力とは何?」と思った人がいるかもしれません。ここで言う仕事とは、日常生活で使っている仕事とは少し違います。まず次の2つの公式を見てみましょう。エネルギーには2つの基本の公式があります。

E=1/2mv²
運動エネルギー=1/2×質量×速度の二乗
E=mgh
位置エネルギー=質量×重力加速度×高さ
運動エネルギーのポイントはv(速度)にあります。位置エネルギーのポイントはh(高さ)にあります。つまり速度や高さこそが、エネルギーを知るためのキーワードになるわけです。
物理でいう「仕事」とは何でしょうか
これを踏まえた上で、まずは物理でいう「仕事」について見ていきましょう。物理では、仕事とは「物体に加えた力」×「そのとき移動した距離」で定義されています。

W = Fx
仕事=力×移動距離
いくら力を加えても、その物体が動かなければ、物理でいうところの仕事は0J(ジュール)です。がんばって壁を押し続けても、壁が動かない限り物理的には仕事をしたことにならない、というのは少し不思議な感覚かもしれませんね。仕事の単位は組立単位だとNm(ニュートンメートル)ですが、よく使うのでこれをJ(ジュール)の1文字で表します。感覚としては、床においた牛乳パック(重力10N)を持ってゆっくりとおへその高さ、およそ1mまで持ち上げたときの仕事が10Jです。
ちなみにこのジュールという単位、19世紀のイギリスの科学者ジェームズ・プレスコット・ジュールの名前から来ています。彼はビールの醸造業を営むかたわら趣味で実験を重ね、水をかき混ぜる仕事(力学的な仕事)と、水の温度が上がること(熱エネルギー)が実は同じもの、つまり相互に変換できるということを精密な実験で示しました。当時、熱と運動はまったく別物だと考えられていた中で、この発見はエネルギーという考え方そのものを大きく前進させたのです。
エネルギーとは仕事をすることができる能力である、と説明しました。もう少しわかりやすく説明すると、「エネルギーとは物体に力を加えて動かすことができる可能性」です。たとえば、地面に置いたボールはエネルギーを持っていません。仕事をする可能性を秘めていないからです。
しかし、ボールを転がすとエネルギーを持ちます。「え、同じボールなのに?」と思いますよね。なぜなら動いているボールは他の物体にぶつかって、その物体に力を加えて動かすこと、つまり「仕事をする可能性を持っている」からです。
またボールを持ち上げると、なんとそのボールはエネルギーを持ちます。なぜなら手を離せば下にある物体に、たとえば釘などに力を加えて板などに打ち付ける仕事をすることができるからです。

前者のような動いた物体のもつエネルギーを運動エネルギーといい、後者のように高さのある物体の持つエネルギーを位置エネルギーといいます。
運動エネルギーの公式を導いてみよう
それでは、はじめに運動エネルギーの公式を導いてみましょう。ある静止した物体に一定の力F[N]を距離x[m]加え続けた、つまり仕事Fxを与えたとします。
v²+v0²=2ax より
ここで運動方程式(ma=F)を加速度aについて解き(a=F/m)、左辺の加速度aに代入して、仕事Fxについて求めます。
1/2mv²-1/2mv0²=Fx
右辺が仕事Fxです。左辺に出てきた1/2mv²が物体に仕事を与えたときに出てくるもの、これがエネルギーです。このエネルギーを運動エネルギーといいます。たしかに速度vが含まれているので、運動していることがわかります。また式を右辺から左辺へと見れば、「運動エネルギー1/2mv²があれば、仕事Fxができるよ」ということにもなります。
試しに車が時速30kmで走っているときの運動エネルギーを計算して、その大きさを想像してみましょう。普通車の質量はだいたい1000kg(1トン)くらいです。時速30km(およそ8m/s)で動いていたとき、自動車のもつ運動エネルギーは、
E = 1/2・1000・8² = 32000J
となります。このエネルギーは牛乳パック(重力10N)なら3200m上空まで運ぶことができるほどです。すごいエネルギーを持っていることがわかりますね。ちなみに速度vは公式の中で2乗になっているのがポイントです。つまり速度が2倍になると、運動エネルギーは4倍になります。時速30kmと時速60kmの車では、ぶつかったときの衝撃がまったく違うと言われるのは、この「2乗」の効果によるものなのです。交通安全の授業でこの話をすると、生徒たちの表情がぐっと真剣になります。
位置エネルギーの公式を導いてみよう
次に位置エネルギーです。物体をある高さh[m]まで持ち上げる場合を考えます。このとき重力とは逆の上方向に、物体に力を加えて動かす必要があります。手がする仕事を求めると、
Fx=mg×h
=mgh
となります。右辺に出てきたmghが、物体に仕事Fxを与えたときに出てくるエネルギーです。このエネルギーを位置エネルギーといいます。このときh[m]の高さにある持ち上げられた物体は、手を離せば重力によって引かれ、Fxの仕事ができる可能性を持っています。たとえば、高さ0.5mの机の上にある牛乳パック(1kg)の持つ位置エネルギーは、およそ1×10×0.5=5Jとなります。

またある高さを飛んでいる小型飛行機は、位置エネルギーと運動エネルギーの両方を持っています。運動エネルギーと位置エネルギーの和を力学的エネルギーといい、熱エネルギーや電気エネルギーと区別しています。実はこの力学的エネルギー、外から余計な力が加わらない限り、運動エネルギーと位置エネルギーがお互いに姿を変えながらも、その合計は一定に保たれるという性質を持っています。これを力学的エネルギー保存の法則といいます。ジェットコースターが一番高い場所でゆっくり進み、坂を下るときに猛スピードになるのは、位置エネルギーが運動エネルギーへと形を変えているからなのです。振り子が同じ高さまで行ったり来たりを繰り返すのも、まさにこのエネルギーの姿を変えるキャッチボールのような現象と言えます。
働き者と仕事率
10秒で100Jの仕事をする機械Aと、1時間で100Jの仕事をする機械Bがあるとします。あなたはどちらがほしいですか。もちろん機械Aがほしいですよね。
仕事の公式だけをみると、仕事には時間の考え方が入っていません。効率の良さを表す物理量を仕事率Pといいます。仕事率の単位にはW(ワット)を用い、1Wとは1秒間で1Jの仕事をすることを示します。
仕事率の公式 P = W/t
(仕事率=機械がした仕事÷かかった時間)
機械Aの仕事率を計算すると、100J÷10秒=10Wになり、機械Bの仕事率はおよそ100J÷3600秒≒0.03Wとなります。つまり機械Aの方がよっぽど機械Bよりも働き者だということがわかります。
電子レンジやヘアードライヤーなどを見ると性能を示すために「◯◯W」と書かれていますが、これも仕事率と同じ単位なので、ワット数が高いほど同じ時間でたくさん仕事をする(=たくさんのエネルギーを使う)ことがわかります。

ちなみにこのワットという単位名も、蒸気機関を改良したことで知られるジェームズ・ワットにちなんでつけられました。ジュールが「エネルギーの正体」を明らかにした人物だとすれば、ワットは「エネルギーを使うスピード」を測る単位に名を残した人物、というわけです。速度や高さから始まったエネルギーの話が、こうして電化製品の性能表示にまでつながっていると考えると、身の回りの数字の見え方が少し変わってくるのではないでしょうか。
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