あなたは見つけた?解き終えた者だけが気づくメッセージ。理科の問題集とデカルトをつなぐ物語「分解問題集」

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

問題集の最後に隠された、小さな仕掛け

理科の問題集を最後まで解き終えたとき、まさかそこに哲学者の言葉が隠されているなんて、想像したことはありますか?今回はそんな、ちょっと粋な「こぼれ話」をご紹介します。私が監修をした『高校入試 分解問題集 理科』(学研)を最後まで読み進めると、このような一文が書かれています。

I think, therefore I am.

気がついた人はいましたでしょうか。おそらくほとんどいないと思いますが、この言葉、実はデカルトの『方法序説』に書かれている「我思う故に我あり」という言葉を英語にしたものなんです。

「我思う故に我あり」とは何か

「我思う故に我あり」は、デカルトが著書『方法序説』(1637年)で示した、近代哲学の出発点ともいえる命題です。単なる名言というより、「絶対に疑いえない確実な知識の土台をどう見つけるか」という壮大な探求の到達点なんです。

問題集のテーマと重なる「困難は分割せよ」

本書のテーマは「問題を分解する」というものですが、これはデカルトの言葉である「困難は分割せよ」を思想のもとにして作られています。そのため裏表紙を見ると、大きく「困難は分割せよ」という言葉も書かれています。


本書を作る際に参考にしたのが、まさにデカルトの『方法序説』だったのです。

編集者の樋口さんに勧められて、私も『方法序説』を読んでみました。デカルトはこの本の中で、確実な知識に至るための「四つの規則」を提示しています。

デカルトが示した「四つの規則」

明証性の規則:明白に真であると認められない限り、何も真として受け入れない
分析の規則:(=「困難は分割せよ」)検討する問題を、できるだけ多くの、かつ問題解決に必要なだけの小さな部分に分割する
総合の規則:単純なものから複雑なものへと、順序立てて思考を導く
枚挙の規則:見落としがないか、完全な列挙と全体的な見直しを行う

つまり「困難は分割せよ」は、この4つのうちの2番目、いわば「複雑な問題をどう解くか」という具体的な作業手順(方法論)です。一方、「我思う故に我あり」は、この4つの規則のうち特に1番目「明証性の規則」を、デカルト自身が徹底的に実践してみせた成果なのです。

デカルトの「疑い尽くす」思考実験

「疑えるものは全部疑う」という方法的懐疑は、実はある意味で「分割」の作業でもあります。デカルトは、自分の持っているあらゆる知識や信念を一つひとつバラバラに分解し、「これは疑えるか?」と部分ごとに検証していきました。

感覚から得た知識 → 疑える

数学の真理 → 疑える

自分の身体の存在 → 疑える

「疑っている」という思考そのもの → 疑えない 我思う故に我あり(I think, therefore I am.)

これはまさに、複雑で巨大な問題(「確実な知識とは何か」)を、小さな要素に分割し、一つひとつ吟味していくという、規則2の「困難は分割せよ」の考え方そのものを使っているとも言えます。

方法(How)と答え(What)の関係

「困難は分割せよ」が方法(How)であり、「我思う故に我あり」はその方法を実際に使って辿り着いた最初の答え(What)です。
デカルトは、いきなり「我思う故に我あり」という結論に飛びついたわけではありません。「確実な知識の土台を見つける」という壮大で漠然とした難問を、疑いうる要素へと分割し、一つひとつ検証するという地道な作業(=困難の分割)を行った結果、最後にどうしても分割・除去できない一点として「疑っている私の存在」が残ったのです。

デカルトは数学者でもあったので、複雑な問題を要素に分解して一つずつ解いていくというこのアプローチは、幾何学の証明のやり方をそのまま哲学に応用したものだとも言われています。

問題集の最後に込められた、編集者の思い

理科の問題集にもこの考え方を応用しようとした、編集者の樋口さんの思いを込めて、本書の一番最後には

I think, therefore I am.

という言葉が置かれています。ぜひこの一文を噛み締めてほしいと思います。デカルトと同じように、問題を分割するトレーニングを繰り返すことによって、皆さんもデカルトと同じ到達点「我思う故に我あり」に辿り着くような問題集になればという私たちの思い。

そして、難問を一つひとつ分割し、すべて解き終えたそのとき、この言葉に気がつく人がいることを願って…。

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