論文Simplifying Inquiry Instructionから学ぶ、理科教師が今すぐ使える探究学習4ステップ
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
突然ですが、NASAの科学者とあなたのクラスの生徒には、共通点があります。それは「問いを立てて、データで答えを出す」というプロセスです。探究学習とは、実は人類が何百年もかけて磨き上げてきた「科学そのもの」の体験なのです。でも、「探究学習をやらなきゃいけないのはわかっているけど、具体的にどうすればいいの?」と悩んでいる先生は、日本中にたくさんいます。
今回ご紹介するアメリカの教育論文「Simplifying Inquiry Instruction(探究指導の簡略化)」は、そんな悩みをスッと解決してくれる、画期的なアイデアを提案しています。
1. そもそも、何が「探究」で、何が「探究じゃない」のか?
論文では、探究をとてもシンプルに定義しています。それは、「生徒がデータ分析を通じて、リサーチ・クエスチョン(問い)に答えているかどうか」です。例えば、こんな活動は(素晴らしい学習活動ですが)「探究」には分類されません。
モデル作り:細胞の模型や太陽系の模型を作る
スキル練習:上皿天秤やメスシリンダーの使い方を学ぶ
単なる調べ学習:インターネットや図書室で情報を探してまとめるだけ
ここで面白い豆知識を一つ。あの有名な科学者ガリレオ・ガリレイは、「ものは重いほど速く落ちる」というアリストテレスの長年の通説に、こう問いかけました。
「本当にそうだろうか?」。
そしてピサの斜塔から実際にボールを落として(ピサの斜塔かどうか、これは真実ではないかもしれませんが、実験を通して)、データで答えを出したのです。これこそが探究の原点です。「温度は反応速度にどう影響するか?」といった問いがあり、それに対してデータを分析して結論を出す。このプロセスがあってはじめて、「探究」と呼べるのです。
2. 探究の「4段階レベル」を知れば、授業設計がラクになる
「いきなり生徒に自由に研究させる」のは、泳げない子を海に放り込むようなものです。論文では、生徒に与える情報量(問い・方法・答え)に応じて、探究を4つのレベルに分けています。
Banchi &Bell(2008)より図を改訂

レベル1:確認としての探究(Confirmation)
問いも方法も答えもわかっている状態。既習事項を実験で確認する、いわゆる「確認実験」です。
レベル2:構造化された探究(Structured Inquiry)
問いと方法は先生が与えるが、結果(答え)はまだ知らない状態。いわゆる「レシピ通り」の実験ですが、生徒は自分でデータを分析して答えを見つけます。
レベル3:導かれた探究(Guided Inquiry)
問いは先生が与えるが、「どうやって調べるか(方法)」から生徒が考える段階。生徒の主体性が一気に高まります。
レベル4:開いた(オープンな)探究(Open Inquiry)
問い、方法、答えのすべてを生徒が決める。自由研究やサイエンスフェアのレベルです。
この4段階、実は料理に例えるとわかりやすいです。レベル1は「レシピ通りに作る練習」、レベル2は「レシピ通りに作るが、味の評価は自分でする」、レベル3は「テーマだけ決まっていて、レシピは自分で考える」、そしてレベル4は「冷蔵庫にある食材で、自由に一品作る」そんなイメージです。
どのレベルも大切で、順番に積み上げていくことに意味があります。
3. 明日の授業から使える「レベルアップの裏技」
今の授業を少し変えるだけで、探究のレベルを上げることができます。
レベル1 → レベル2へ:「タイミング」を変えるだけでいい
最大のコツはタイミングです。単元を教えきってから確認実験をするのではなく、教える前に実験を行うだけで、それは「構造化された探究」に早変わりします。
これはまるで、推理小説の読み方を変えるようなものです。普通は「犯人はAさんです」と知ってからトリックを読むより、「さあ、犯人は誰だ?」とドキドキしながら読むほうが、断然面白いですよね。実験も同じで、「答えを知らない状態で取り組む」だけで、生徒の脳の動き方がガラリと変わります。
レベル2 → レベル3へ:手順を「あえて隠す」
教科書の実験手順をあえて隠して渡してみましょう。「この問いを解決するには、どんな道具を使って、どんな手順で調べればいいと思う?」と問いかけるだけで、生徒は自分たちで方法をデザインし始めます。もちろん、安全のために先生の事前チェックは必須です。答えを最初から教えるより、試行錯誤させるほうが、知識の定着率は格段に上がることが、認知科学の研究でも示されています。
大切なのは「スモールステップ」
最初からレベル4を目指す必要はありません。レベル1や2で基礎を固め、少しずつレベル3、4へと進んでいく「足場かけ(スキャフォールディング)」が、生徒の成功体験と満足度につながります。
「足場かけ」とは、建物を建てるときの足場のこと。職人さんが高い場所で安全に作業できるよう、必要な足場を組んで、工事が進むにつれて外していきますよね。学びも同じで、最初は先生がしっかりサポートし、生徒が自立してきたら少しずつ手を放していく。これが理想的な探究学習の育て方です。
「探究」を難しく考えすぎず、まずは今の実験の「手順の一部を伏せてみる」ことから始めてみませんか?その小さな一歩が、生徒の「なんで?」「やってみたい!」という気持ちに火をつける、最初の火花になるはずです。
引用元:Bell, R. L., Smetana, L., & Binns, I. (2005). Simplifying Inquiry Instruction. The Science Teacher, 30-33.
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