切って、染めて、のぞいてみたら…セロリの断面に植物の秘密が隠れていた(道管の観察)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
スーパーのセロリが、植物の「秘密の水道管」を見せてくれる実験道具になる——そう聞いたら、今夜の夕食の買い物が少し変わるかもしれません。実習生のIさんが「セロリのどこに道管があるのか」という問いを立て、赤いインクで染め出す実験に挑戦しました。準備したのはセロリ、赤色のインク、カッターマット、カッターだけ。シンプルな材料なのに、見えてきたものは植物の体の精巧な設計図でした。Iさんの撮影した写真をもとに、その実験方法や様子についてお伝えします。
「道管」とは何か。植物の体を流れる「水の通り道」
実験の前に、少しだけ予備知識を。植物の体には、水や養分を運ぶ管が通っています。そのうち根から吸い上げた水と無機養分を葉へ届けるのが「道管」です。ここで少し驚くような話があります。この道管、実は死んだ細胞が積み重なってできた管で、細胞壁だけが残った「空洞のパイプ」のような構造をしています。生きていない細胞が、植物が生きるための水を運んでいる——まるでミイラ化した細胞が、現役のインフラを担っているようなイメージです。これだけでも、なかなか面白い話ですよね。今回の実験は、この目に見えないパイプを「赤い色」で可視化するというものです。

5時間後——特定の筋だけが赤く染まった
セロリを赤色のインクにつけて5時間後、茎や葉が部分的に赤くなっているのがわかります。全体が均一に染まるのではなく、特定の筋だけが色づいているのがポイントです。カッターで茎の断面を切ってみると、水を吸い上げた部分が赤い点としてはっきり浮かび上がりました。
こちらが染める前

染めた後

道管の位置が、まるで地図のように示されているようです。縦に切ると、その赤い点が一直線に連なっていることも確認できました。道管がただ点在しているのではなく、根から葉まで連続したパイプとしてつながっていることが、視覚的にわかる瞬間です。これはちょうど、ビルの中を走る水道管が地下から最上階まで一本につながっているのと同じ構造です。


葉脈は「網目状の水路」だった
葉の様子も観察してみると、全体が均一に赤くなるのではなく、水が通る部分だけが網目のように広がっているのがわかります。

これが「葉脈(ようみゃく)」の正体です。葉脈は葉の中に張り巡らされた道管と師管の束で、葉の隅々まで水と養分を届けるネットワークです。都市の水道管が街中に張り巡らされているように、植物も体の端まで水を届ける精巧なインフラを持っているのです。実際、葉の面積1平方センチメートルあたりに張り巡らされた葉脈の長さは、植物の種類によっては数センチにも及ぶと言われています。あの薄い一枚の葉の中に、そんな緻密なネットワークが隠れているとは、驚きですよね。
1日後——道管の走り方がさらにくっきりと
1日つけると、染まり具合はさらにはっきりしました。


染める前

染めた後

道管の走り方が、時間をかけるほどくっきりと浮かび上がってきます。5時間と24時間を見比べてみると、植物がいかに継続的に水を吸い上げているかも伝わってくるようです。
では、なぜセロリ自身の力で赤いインクが上まで届いたのでしょうか。その秘密は「蒸散(じょうさん)」にあります。葉の表面から水が蒸発するとき、その分だけ道管の水が引き上げられる——いわば植物全体がポンプのような働きをしているのです。ポンプといっても電気は使いません。太陽の熱と葉の蒸発という、完全に自然のエネルギーだけで、何メートルもの高さまで水を運ぶことができるのです。大木が地面から何十メートルも上の葉まで水を届けられるのも、この仕組みのおかげです。
顕微鏡で見てみると、

この実験にセロリが使われるのには、ちゃんとした理由があります。セロリの茎は維管束(いかんそく)が大きく、かつ茎が太くて扱いやすいため、道管の位置が断面でわかりやすく観察できるのです。また、食用として手に入りやすく、切っても安全という点も実験材料として優れています。実際に授業でも使うために8本やりました。

単子葉類ではアスパラガスを見てみた!
セロリでの実験を終えたIさんは、さっそく「他の野菜ではどうなっているのか」という新しい問いを立てて、研究を続けています。

白菜やニンジン、レタスなど、野菜によって道管の配置や太さは少しずつ違います。中でもアスパラガスが面白かったので紹介します。
実はセロリとアスパラガスは、植物の分類上で大きく異なります。セロリは双子葉類(そうしようるい)、アスパラガスは単子葉類(たんしようるい)です。この違いは、種から芽が出るときの葉っぱの数(子葉の数)で分けられています。そして、この分類の違いが、道管の並び方にも大きく影響しているのです。

アスパラガスの染める前

染めた後。

維管束が断面全体に散らばっているのが分かります。セロリ(双子葉類)では維管束が輪のように整然と並んでいるのに対して、アスパラガス(単子葉類)ではバラバラに散在しているのが特徴です。教科書でこの違いを図で見たことがある人も多いと思いますが、実際に染め出してみると、その違いがくっきりとわかります。
セロリと比較するために、薄く切って観察してみました。

こちらができたプレパラートです。

セロリを観察してみました。

維管束の様子です。

内側が道管です。よく染まっています。外側が師管です。

こちらはアスパラの様子。


その様子を動画にしました。

維管束を見ると、内側が赤く染まっているのが分かります。外側が師管です。

この作りはセロリと同じですね。道管が内側、師管が外側——この基本的な配置は、双子葉類でも単子葉類でも共通しています。並び方のパターンは違っても、「水を内側で運び、養分を外側で運ぶ」という設計思想は同じなのです。進化の過程で枝分かれした植物たちが、それでも同じ「答え」にたどり着いていることは、何とも不思議で美しいと思いませんか。
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