自由にやらせるほど成績が下がる?——57カ国のデータが示す、探究学習の意外な真実

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

「もっと生徒に任せてみよう」と思い切って自由度を上げた授業。ところが、いざやってみると授業が散漫になり、肝心の知識が身についていない——そんな経験をしたことはありませんか。かといって、教師が全部教えてしまうと、生徒の目が輝かない。探究学習の「さじ加減」は、現場の先生たちが長年抱えてきた悩みです。実はこの問いに、57カ国・数万人規模のデータで挑んだ研究があります。その答えは、少し意外なものでした。

今回紹介する論文

Jiang, F., & McComas, W. F. (2015). “The Effects of Inquiry Teaching on Student Science Achievement and Attitudes: Evidence from Propensity Score Analysis of PISA Data” (International Journal of Science Education, Vol. 37, No. 3)

この研究は、PISA 2006の57カ国にも及ぶ膨大なデータを「傾向スコア分析」という高度な手法で分析し、探究学習のレベルと学習効果の因果関係を明らかにしたものです。単なるアンケートの集計ではなく、授業の受け方による差異を統計的に取り除いた上で「探究の深さ」だけが成績や態度に与える影響を切り出しているため、信頼性の高い知見といえます。

探究学習の「5つのレベル」とは?

この研究では、探究学習をその開放度(生徒がどの程度主導権を持つか)に基づいて、以下の5段階に分類しています。

  • レベル0:非探究(全て教師主導)
  • レベル1:生徒が実験などの活動を行う
  • レベル2:活動を行い、生徒が自らデータから結論を導き出す
  • レベル3:活動・結論に加え、生徒が調査(実験方法など)をデザインする
  • レベル4:全てに加え、生徒自らが問い(研究テーマ)を立てる

レベル0が「教科書を読んで覚える授業」だとすれば、レベル4は「自分でテーマを決め、実験を設計し、結論まで導く」いわば「ミニ研究者」の状態です。Banchi & Bell(2008)の探究レベルと比較すると、レベル0がレベル1、レベル1・2がレベル2に、レベル3がレベル3に、レベル4がレベル4に相当する感じですね。

驚きの結果:成績と態度で「正反対」の傾向が出た

57カ国の生徒を対象とした分析の結果、学力と態度の両面で非常に興味深い事実が明らかになりました。まず科学の成績について。最も高い成果が得られたのは「レベル2」の中程度の開放度(実験を行い、データから結論を導き出す)でした。一方で、最も自由度の高い「レベル4」(生徒が問いを立てる)では、皮肉なことに科学のスコアが最も低くなるという傾向も見られました。

ところが科学への態度では、まったく逆の傾向が現れます。探究のレベルが高まるほど(生徒の主導権が強まるほど)、科学への興味・関心や探究を支持する姿勢がよりポジティブになり、レベル4の生徒たちが最も科学への高い関心を示したのです。

つまり「成績が上がる探究」と「科学が好きになる探究」は、レベルが異なる——これが、この研究の最も重要なメッセージです。なんとなく現場の感覚ともマッチするところがありますよね。

なぜ「自由すぎる探究」は成績を下げるのか

レベル4、つまり「生徒が自分でテーマを立てる」探究が、なぜ成績に結びつきにくいのでしょうか。

一つの解釈は、認知的負荷の問題です。テーマの設定・実験の設計・データの収集・結論の導出をすべて生徒が担うと、処理すべき情報量が爆発的に増えます。その結果、学ぶべき科学的概念の理解に使うエネルギーが不足してしまうのです。料理に例えるなら、「食材の調達・レシピ考案・調理・盛り付けをすべて一人でやる」状況では、料理の腕を磨くことより段取りに追われてしまうようなものです。

これは探究学習を否定しているわけではありません。むしろ「何のために、どのレベルの探究を選ぶか」という戦略的な視点の重要性を示しています。

授業実践への具体的な提案——「使い分け」こそが鍵

論文の著者らは、この結果をもとに現場への示唆として以下を提案しています。

日常の授業の「核」はレベル2に。限られた授業時間内で確実に科学的内容を理解させ、学習効果を担保するためには、生徒に活動させ、データから結論を導き出させる「レベル2」の探究を基本に据えることが賢明です。

自由度の高い探究は「戦略的」に配置する。生徒が自ら問いを立てるレベル4の探究は、科学への興味を最大化させる大きな力を持っています。こうした高度な探究は、通常の授業時間を超えた放課後のプロジェクトや自由研究、科学祭といった機会に意図的に配置し、使い分けることが効果的です。

「知識を身につけさせるための導き」と「意欲を引き出すための自由度」——この二つは、目的によって戦略的に使い分けるべきものなのです。教師の介入のバランスこそが、生徒の科学的な力を最大化する鍵だといえそうです。

「正解のない問い」に向き合う、教師の醍醐味

探究学習は、単に「生徒に自由にやらせれば良い」というものではありません。しかし同時に、「教師が全部教えれば効率的」というものでもありません。この研究が示すのは、目的によって探究のレベルを意識的に選ぶという、教師のデザイン力の重要性です。

57カ国のデータが示した「成績と態度のジレンマ」は、実は私たちが日々の授業で肌で感じてきたことの、科学的な裏付けでもあります。データを味方につけながら、生徒の「知る喜び」と「できる実感」の両方を育てる授業を、これからも一緒に考えていきましょう。

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