クローンで増えて、変身して、100年眠る——ミジンコという名の小さな怪物(動物図鑑)

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

顕微鏡のレンズをのぞいたとき、そこに広がる世界に息をのんだことはありますか?実習生のIさんと一緒に、ミジンコの観察を行いました。Iさんがさまざまな角度から丁寧に撮影してくれた写真を使いながら、あの小さな生き物のとんでもない面白さをご紹介したいと思います。体長わずか1〜2mmのミジンコの中に、進化の知恵、生き残りの戦略、そして生命の不思議がぎゅっと詰まっています。

まずはこちらの動画を見て、その動く様子を確認してみてください。エイリアンのようですね。

実は「腕」で泳いでいる

ミジンコがピョコピョコと跳ねるように泳ぐ姿から「水のみじん(微塵)」という名がつきましたが、あの泳ぎは「触覚(第2触覚)」を使っています。バタフライをしているような状態です。顕微鏡でよく見ると、立派な髭のような触覚をダイナミックに動かしているのがわかります。水中でバタフライをする、ミリ単位のスイマーの姿を想像してみてください。

心臓も出産も「丸見え」

ミジンコは体が透明なので、生きたまま内部構造を観察できるのが最大の魅力です。

  • 心臓の鼓動:背中側にある小さな心臓が、ものすごい速さで動いているのが見えます。水温や環境の変化で鼓動の速さが変わるので、観察実験としても面白いです。
  • 育児嚢(いくじのう):背中の袋の中で赤ちゃんミジンコがピクピク動いている様子や、そこから一気に飛び出してくる「出産」の瞬間を捉えることもできます。

これはもしかして卵でしょうか。

透明なボディは、まるでガラス張りの病院のようです。ミジンコ本人には少々プライバシーがなくて気の毒ですが、観察する側にとっては夢のような生き物です。今回はウンチをしている様子も捉えることができました。動画をご覧ください。

ウンチをする瞬間を捉えました。

「クローン」と「オス」の使い分け——単為生殖という驚きの戦略

ミジンコの最も驚くべき生態は、その繁殖戦略です。

  • 普段は全員がメス:環境が良いときは、メスが自分と全く同じ遺伝子を持つ「クローン」のメスを産んで爆発的に増えます。
  • ピンチになるとオスが現れる:水質が悪化したり、冬が近づいたりして環境が厳しくなると、突然「オス」が生まれます。そこで初めて交尾を行い、「耐久卵(たいきゅうらん)」という乾燥や低温に強い卵を作ります。耐久卵はなんと100年以上経っても孵化することがあり、まさに「タイムカプセル」のような能力を持っています。

「調子がいいときはコピーで増え、ピンチのときだけ多様性を使う」——シンプルだけれど、実に合理的な生き残り戦略です。こんな小さな生き物に、私たちよりもある意味巧みな生きる知恵があるなんて、驚きですよね。

外敵に合わせて「変身」する——表現型可塑性という神秘

ミジンコは、捕食者(魚やカゲロウの幼虫など)の気配を感じ取ると、自分の体の形を変えることがあります。

天敵が近くにいることを「化学物質」で察知すると、頭を尖らせたり、お尻の針(殻角)を長くしたりして、食べられにくい形に変身します(こちらのサイトをご覧ください)。ツノやヘルメットをまとって鎧をまとう姿は、まるでファンタジーの世界のようです。

専門用語で「表現型可塑性」と呼び、生物学的に非常に面白い研究対象です。同じ遺伝子を持ちながら、環境によって形を変えられる、これは実は私たち人間の細胞でも起きている現象の、わかりやすい縮図でもあります。

光に敏感——毎日繰り返される垂直移動の旅

ミジンコには、光に向かって泳ぐ性質(正の走光性)や、逆に光を避ける性質があります。

自然界では、昼間は天敵に見つからないように深い場所へ沈み、夜になると水面に上がって餌を食べる「日周鉛直移動」を行っています。これは湖や海でもプランクトン全体に見られる現象で、地球規模で毎晩繰り返されている生命の大移動でもあります。ライトを当てて、ミジンコがどう動くかを観察するのも興味深いですよ。

「一つ目小僧」の真実——実はものすごく複雑な目の構造

観察していると顔の真ん中に大きな黒い点が一つ見えるので、「一つ目小僧」のように見えますよね。ですが生物学的に詳しく見ると、「一つに見えるけれど、中身はもっと複雑」という非常に面白い構造をしています。

ミジンコの頭部にある大きな黒い点は「複眼(ふくがん)」と呼ばれます。実は、ミジンコも胎児(卵の中の段階)の時は、私たちと同じように左右に二つの目を持っています。ところが、成長するにつれてこの二つの目が中央で合体して一つの大きな目になります。

ギリシャ神話の一つ目巨人「キュクロープス(サイクロプス)」にちなんで、ミジンコに近い仲間のケンミジンコには「サイクロプス」という学名がついているものもいます。神話と生物学がつながる瞬間というのは、なんとも胸が躍りますよね。

以前に撮影したケンミジンコ。確かにサイクロプスだ。

実は「第2の目」も持っている

あまり目立ちませんが、大きな複眼の下の方に、もっと小さな黒い点が見えることがあります。これは「単眼(たんがん)」と呼ばれる、もう一つの目です。

  • 複眼:物の形や動きを捉えるメインの目。
  • 単眼:光の強さ(明るいか暗いか)を感じ取るための補助的な目。

つまり「大きな目が一つ」に見えますが、正確には「二つの目が合体した巨大な目+小さな目」という構成になっています。見た目のシンプルさとは裏腹に、機能的には実に精巧な設計です。

目が「キョロキョロ」動く!——全方位スキャン機能つき

顕微鏡で生きているミジンコをじっくり観察してみてください。この一つに見える大きな複眼は、実は常に細かく震えるように動いています。ミジンコは一つの目を筋肉で器用に動かして、周りに敵がいないか、餌があるかを全方位スキャンしているのです。

体長1mmにも満たない生き物が、独自の「レーダー」を持って世界を感じ取っている——それを知ったとき、何気なく見ていたあのピョコピョコが、まったく違って見えてきませんか?

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